第3話 救助とギルド 010a

今日も取り巻きを集めて城中庭で待っていると、ワイパーンが数匹飛来する

「パラ、今日は何匹居るの?」

「8匹です」

「全員で行けるね」

「坊ちゃま待って、私も」

「コニーはパルと一緒に頼むね」

「はいな、坊ちゃん」


 10人程の少年少女を乗せた群れは、大空へと舞い上がり

レフランスターから北へウムユエターゼ大公国との国境付近の山へ向かう、

直線距離で70㎞程で、凡そ1時間の空の旅であるが、この集団には日常。

目的地の森迄、後少しの距離の草原で何らかの戦闘の様だ

「坊、冒険者がオークの群れに囲まれてるよ」獣人の視力は良い

「ペイン、ネイは死角から遠距離の陽動攻撃で集中させないで、

叩きの皆は何時もの様に飛びながら攻撃からね、パラ、ボスに行くよ」

パラは狼獣人、ワイパーンの騎手であり僕の護衛で、常に僕の身に気を配る


 一番大きな体格のオークに近づく、冒険者が必死に攻撃を躱していた

「ガキ共危ないから近寄るな、急いで助けを呼んでくれ」

冒険者のリーダーだろうか、剣を振り回しながら叫んでくる

パラは正面から冒険者に向かうオークの攻撃を、邪魔をして気を逸らす

僕の乗るボスは滑空しながら後方から迫る、飛び移れる距離に近づき

降下しながら剣に魔法を這わせ、着地体制を取りつつ肩に乗ると同時に、

オークの首に後頚部から刃を滑らし一閃、剣は音も無く首を通り抜ける

「その様子だと、呼びに行ってる間に全滅だよ」

冒険者に答えながら、剣に着いた血を振り鞘へと仕舞う

 肩への着地の衝撃と僕の声が耳元で聞こえたのにオークは驚き反応、

視線を向ける為首を回したら「プシュ」血圧で首が浮き、血飛沫と共に

冒険者の前に転がる様に「ウヒャッ」と叫びつつ、慌てて飛び下がる。


 マイク達の参戦から、瞬く間にオークの群れは狩られていく、

体格的にはマイクの側が小柄で、獣人でもこの星の成人の15歳程で

まだまだ成長途中だが動きが早く、統制が取れていて、隙を与えない。

見ている間に群れの数が減っていく、戦いの初期は空中からだったが

今はタイマン状態で、個人の技量も相当に高い連中だ。

 マイクはボス戦の後は回収係だ「倒したの貰ってくね」

動き回っては自分達が倒したの分をマジックボックスに収納していく。


 「君達、冒険者でも兵士でも無いよね、なのにワイパーンに乗ってるし…」

「あの数を相手に、攻撃が手慣れてるし…」冒険者達は呆気に取られていた

大将はまだ幼くて、お供は体格の良い獣人が多いとは言え、それでも

成人前であろうが、実力は大人顔負けの10人程の集団である

 全身軽装備で武装、弓、剣、杖…、安くは無い業物に装備、

自分達程度の実力はある、ワイパーンに乗る分だけでも負けていると感じる

「怪我はその人だけ?「ヒール」」ついでとばかりに治す「あ、ありがとう」


 冒険者が命を助けられたら、全財産で贖うのが礼儀で有るし、

治療魔法は普通に治療代を払うのだが、助けた方にはその気は無いらしく

「帰るよ、今日は予定以上取れたから、街に寄ってくよ」

「ウォ~」声と共に集団は素早く飛び上がり、去って行った。

 残った冒険者達は「あんな連中やパーティって有ったか?」

「ワイパーンは大公様のとこに居ると聞いたが」

「マイク様?」「まさか」…とジョアンは思った、急いで帰ろう


ーーーレフランスターギルド

 レフランスターの街は港町で交易船の出入りも多く、活気と喧騒に満ち

港に続く大通りには交易品を扱う大店が多い、裏通りや広場も人は溢れ、

物売りや屋台も軒を並べる、その目と鼻の先の埠頭にワイパーンの群れが

降りて、「人サイズ」マイクの魔法で小型化する。


 20人近い人と魔獣の集団を一番のチビが仕切って歩く、

以前は恐れをなして逃げる者までいたが、何度もになり慣れると、

なぜか絡む者も現れたが、逆にカモられたり、叩きのめされる事で

何時しか強さも知れ渡り、見慣れた集団に成り、集団の名前を知られてきた、

領主の末子が率いる「マイク様御一行」だ。

悪さはしない、質の悪い者は時には痛めつけ、警備隊に引き渡すが、

先に手を出す事は無く、結構な頻度で公都に現れる。


 【マイク様、今日はあれ食ってみたい】小型化したワイパーンの希望だ

「他の者も良いかい」「はい」声がハモル、ぞろぞろと店内の席に着く

店主はニコニコ顔でマイクの顔を見て、頷かれると店先の焼き場の炭と肉を

大量に並べ始める、御一行様が訪れる事は、その日の売り上げが約束された

も同然で、何故なら一行がメニューに有る物を片っ端から食べ尽くすからだ


 今でこそ見慣れた風景と言えるが、数年前は大騒動だった。

ワイパーンの襲撃かと鐘楼を鳴らされたり、貴族の子供が絡まれてると、

警備隊に走ったりして騒がれ、小型化していても埠頭での様子を見ており、

元の大きさに恐れをなしてビビっていたが、集団の秩序ある行動で、

食べるのが目的と理解すると、住民は落ち着きを取り戻し歓迎された。

 彼らはマイクの護衛と遊び仲間で、ワイパーン達は使役の日当報酬として

食事提供を受けているのであって、店への対価もキチンと支払われており、

最近では来店を待つ者さえ要ると聞く。


 食べ終わり、埠頭でワイパーンと仲間の大半を返した

マイクはコニーやパラ兄妹と冒険者ギルドに立ち寄る

ワイパーン達の次回の食事の資金に、オークを現金に換える予定で寄った。

暖かく成り季節的に冷蔵庫の無いこの世界では、取引先が制限されるので、

設備の有るここにしたのだが…


 受付嬢に「売りたいんだけど」声を掛ける「貴方がですか?」

「そうだけど」「ギルド証はお持ちですか?」僕を知らない人か、面倒だな 

コニーが口を開こうとした時「どけどけガキ」冒険者が近寄ってきた

「アランさんお疲れ様、今日は何を売りに」受付の愛想が途端に良くなる

「オオカミ5匹、皮の売却だ」背中の荷物を拡げだす、買い取り場に行けよ

心で毒ずくが、マイクは完全に受付に無視され、受付嬢を通さず、買取か

解体場に行こうとするが


 「坊どうした、ここに用か」聞き慣れた声に顔を向ける

ニコニコ顔のポロが立っていた「親父」「父さん」仲間からも声が掛かる

獣舎長でパラ、パル兄妹の父親の獣人だ「ポロこそ何でここへ」の問いに

「うちの奴らに新鮮な肉や内臓を食わせたくて来てみた」騎獣達の餌だ。

「量はどの位」「牛三頭程は欲しいな~」

「オーク十匹で良ければ」受付横で取引して「ドシンドシン」と床に放る

ポロもマジックバックに仕舞う、その様子を場の全員が視る事に成った

「売りに来たのオークだったのか」「マジックバックか」

「十匹だぞ子供らが」そんな会話の最中に皮袋がポロからコニーに渡され

用も済んだと、一行は出口に向かう、入ってきたパーティーから声が掛かる


 「おー君達か、朝はありがとう」親し気な声掛けはジョアンだ

「子供の集団と思ったら、ドンでもない強さだなー」と話し出す

ギルドで有名なA級パーティーが、親し気に感謝を伝えているではないか、

一挙に注目が集る、さらに礼をしたいとの申し入れにも、興味なさげに

「貸しね」と軽く答え、手を振り夕方の街へとマイク一行は消えた


 場の視線がジョアンとポロに向く中、ポロはパーティーへ近づき

「そこの方達に聞きたい、坊達は何をした?」その問いに聞き耳が立つ

会話を交わす者はいない、例の受付嬢も同様

 そこで語られた内容は、オーク集団に襲われ10匹ほど倒したが、

まだ数十匹近くいて苦戦だった事、時間が経てば疲労で危なかったが、

現れた彼らが僅かな時間で終わらせた事等聞かされる

「あの、坊とは何方なのですか?」

「マイケル・イムリー・ドラゴニア様だよ」

「あ、あっ、子供でワイパーンを乗りこなす領主様の末の坊主って…」

「あれが…一閃でオークの首を落とす実力って…」

パーティーのメンバーは顔を見合わせ笑顔する、楽しくて堪らない様子だ

「 A級の俺らが成人前の子達に助けられたとは、こんな愉快な事は無い」

「ククク、ここに居るてめ~らは付き合え、俺達の驕りだ飲むぞ∼」

「貴男も一緒に飲んでくれ、それにもっとあの若様を知りたい」

「ウオ~…」ギルドの騒ぎは夜遅くまで続いた。

一人落ち込むのは受付嬢「玉の輿が…」



 「獣舎長がお話しが有るとの事ですが」城の執務室を預かる書記官の問いに

「良いよ、マイクの事だろう」と迷わず返事が返される

ソファーでお茶をしながら報告を聞く、

「ジョージ様、今日ギルドで…」話された内容に流石に絶句する

ジョージ・イムリー・ドラゴニア、マイクの父でありイムリー大公国の領主

「あのお付きのメンバーとワイパーンでオーク討伐数十匹だと…」

「坊、いえマイク様が相手したのはボスで3m程の大物だそうです」

「身の丈倍か、どうやって仕留めたと」大公が身を乗り出す

「10m程上空でワイパーンの背を飛び出し、ジャンプする様にオークの肩に

飛び降り様に一閃だそうです、切った時にボスの耳元で冒険者に会話を返す

その声で気付き首を回したら、切り口がズレて血圧で首と血が吹き上がり、

冒険者のリーダーの前にそれが転がったとか」

「切られた事にオークが気付かぬだと」首を振る大公に続けて

「はい、刃が光っていて何だろうと思っていたのが、凄まじい切れ味で

魔力を通したのではとA級冒険者が」「そこ迄の事をやれると言うのか…」


 「以前6歳頃だったか、お前ににワイパーンの話を聞いて許可をした

その後、兵の訓練場で講師の剣豪殿から、一本取ったと聞いておったが…

 二人して無言に成るが「怪我人とかは?」ジョージが気付いた様に聞く

「マイク様ご自身が、回復魔法も使えるも様です」

「最後に出来た子がこれか」「自重させますか?」

「嫌、構わん好きにさせて置け」

【(ライアット)星の女神よ規格外の子を授かり、我は如何せよと】

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