第2話 紹介と騎獣 006b

ーライアット星

 僕はマイケル・イムリー・ドラゴニア、愛称のマイクで呼ばれる事が多い。

マイケルが名、イムリーが所属地、領地等、ドラゴニアが一族名となる

庶民に一族の血統名は無く、国名を名前にも使えない、使えるのは王族だけ

 僕は微妙な立場にいる、父は大公として属国の王で在り、その四男である

現在、長男に子が生まれ、将来的にその子がこの国を継ぐ

その子の家臣として仕えるか、外に出るかなのだが…


 父の兄はセルシャ帝国の帝王、自力でこの地を切り取った

その初期の小国の頃には、我が父も同行して共に戦っている

やがて、父も独力で現在の領土を切り取って来たが、兄との協議で

現在の形態をとる事としたようだ。


 将来等と偉そうな事を言うが、僕の見た目は6歳に過ぎない

そう大人びた子供、マセ餓鬼にしか見えないが…頭脳は間違いなく大人だ

必然的に幼い取り巻き達と遊べなくなった、では大人として仲間入り…

如何に振る舞ってみても、やはりマセ餓鬼に過ぎない


 そんな時に獣舎長のポロの一家と知り合った、

この身体では移動が厳しく、騎獣が欲しくて獣舎を訪れたが追い出された。

気の荒い騎獣が多く、幼過ぎて落ちるだけで骨折も有るからだ…

 父のポロから、追い出される様子を見ていた兄妹のパル、パラがいた

可哀そうにと思ってか、親に見つからぬ様に飼育場の案内をしてくれる

慰めの為だろうが、その思いが嬉しくついて回る

この兄妹との切っ掛けが、後の仲間達へと繋がって行く


 獣舎から「グ~~」と呻きが聞こえる、入口から覗くと巨大ワイパーンだ

目が合いジッと見つめ合う、喉の骨が脳裏に浮かぶ、骨を抜く思いを送る

ワイパーンはもがくのをやめ、頭を下げ口を開く、それを確認した僕が

急に走り出して口へ飛び込み骨を抜く、慌てた兄の咄嗟の静止行動より早く

妹の悲鳴が響いた時は、抜き取った骨を手に「ヒール」を施していた。

 ポロも自分の子共の行動に気付き見守っていた、おかげで一連の行動を

視る事となり、あれ程暴れ人に抵抗し、懐かなかったボスが自ら擦り寄って

マイクに手で撫でられるのを受け入れている様子に、呆気に取られていた。


 「獣舎長、この子が乗せてくれるって」

更に追い打ちの言葉につい許可してしまった「兄妹も良いって、行くよ」

異常に気付き、他の飼育係が集まり、ポロが平静さを取り戻した時は、

子供達は遥か上空にいて飛回っていた。

 鳥が飛ぶ自由奔放な動きでは無く、繰り返しの動作をしている

指示が出されている動きを、その場に居る獣舎長達全員は悟り歓喜した

ワイパーンを調教する事例は有るが挑むのは命懸け、決死の覚悟に成る

夢の扉が開いた、見上げて待つ事暫し降りて来た


 「父上、僕はワイパーン乗りに成りたい」

「私も兄上と殿下と飛びたい、置いてかれるのイヤ」

飛び降りてきた兄妹の最初の言葉がこれである

「あの動きは殿下が指示してたのか?」

「そう、すごいよね、その事で殿下が父上だけに、話が有るそうよ」

目で探すとマイクの姿は獣舎に在りワイパーンは大人しく繫がれていた

「また来るよ、ボス、今日から君はワイパーンの「ボス」いいね」

あの暴れん坊ワイパーンが寂しげに主人を待つ姿に見える


 「ほれほれ、皆は仕事に戻れ、殿下はこちらへ」

案内されたのは獣舎の応接室で対面で座る、口火を切ったのはマイク

「何故かワイパーンの「助けて」が判ったし、こちらの思いも伝わった、

お陰で意思疎通が何となくできた、だけど飛んでいる時に感じたんだ、

ポロの子達は種族の生でか、僕より明確にその意思の交換ができる。


 僕は自分に不思議な力を持っていて、能力を譲渡できる、飛行時の危険を

回避する為の固定バリアも展開できる、この事は他言無用、父も知らぬ

だけどお前たち親子には何かを感じる、兄妹の振る舞いを見て思い至った

この出会いはチャンスなのだ、神が与えてくれたのだと」

ドアが開き兄弟が入室してきた「お前達呼ばれて無いのに失礼だぞ」

顔を見合わせる兄妹「僕が呼んだ、念話でだけどね」呆気に取られる親子


 「騎獣の為の能力を与えるが良いか」兄弟は返事と共に頷く、乗り気だ

「あの、私もでしょうか」戸惑うポロ「後身を育てるのは誰だい」目が合う

やっと理解が追いついた様で、嬉しそうな表情になったのだ。

「これから起こる事は他言無用、他人に話すと能力が消失すると思ってね

後は仲間を増やす為に、譲渡する能力も与えるから、人選は任せる」

「ワイパーンとの意思疎通、バリア、念話、譲渡」光が親子に吸い込まれる

「念話ってなぜ?」「風切音の中や秘密行動、遠距離だと聞き難いよ」

「さすがマイク様フフフ」「ハハハ」お道化るパルに笑いが広がる


 ボス以外にも数羽の鳥がいる、二人は駆けだして行った

「この場での話、親父に話して拡張してもらってくれる、父の馬番さん」

「まさかとは思いましたが…、話し方や所作がジョージ様にそっくりじゃ

儂が公の馬番だった事は誇りだし子も知らぬ事、話されましたか」「いや」

沈黙の時間が過ぎる「能力ですか」ポロの呟きに頷く

「後継ぎは居る故、あの兄弟はお任せします」寛喜深い表情を見せ頭を下げた


ーーー イムリー城、兵舎訓練場

 城の警備隊の訓練場の一角で、巨躯とチビが剣を構え相対している

今日で三日目の風景、チビはマイク、巨躯はイムリー処か、この辺りの国では

名が通っている剣豪で道場を持ち、弟子を取っているしこの訓練場でも講師。

 三日前の事、訓練に訪れ隅で剣を振るマイクを目にしたが、その剣速が異常

彼の動体視力で追うのがやっとで、習い事の形では無く実戦での太刀筋なのだ

聞けば大公の四男六歳、この部隊で敵う者は居ず相手がない為素振りなのだと

逸材か凶器か知りたくなった、天狗であればこんなに怖い者の存在は許し難い


 「初めましてマイクと言います、うちの兵達がお世話に成ってます」

近付くと自分が挨拶だけして素振りに戻った、失礼な行動とも言えるが…

殺気を飛ばした、喉元に刃が伸びて来て慌てて飛び下がる、加速が半端ない

冷や汗をかいていた、想定以上に間合いを詰めるのが巧みだ。

「腕を見るだけなら邪魔しないで欲しい、相手してくれれば歓迎だけど」

「一手お願いしたい」我知らず答えていた

マイクは相手が出来たと嬉しそうだ


 10分程経ったろうか、マイクは肩で息をしている

相手は体力的にもう限界だ、六歳の子供相手に未だ一本取れないのだ

弟子達でもこれ程の豪の者はいない、習い事は形から覚える、何度も何度も

繰り返し身体に覚えさせる、形をなぞる為一つの動作が終わり、次の動作に

入る迄の「間」が生ずる、これを如何に無くすかが上級への道だが…

 こちらが討ち込むタイミングを読み合わせて来て、噛み合い離れて再度…

打ち合わせようと…に成らないのだ、刃をスラせていなしたり、押し合い

から絶妙のタイミングで力を抜いて、たたらを踏まされたりの間に、相手は

次の動作に移っている、戦場で走り回れぬ場所で複数の敵や刃を交わす様に

思える、セオリー等無く、対格差、筋力が魔法で補われ互角で戦っていた


 剣豪の得意技は豪打、打ち下ろし等の力業だが、マイクとは相性が悪い

力を貯め、気力を高める「間」と言う時間がとれないし、応じてくれない

無心と成り振り下ろすが「無心」と成る瞬間が恐ろしい、振り下ろすより

躱す速度が勝ると思える相手だから得意技が使えない


 兵達も訓練を止めて全員凝視している、予想以上の出来事だから

大人でもこれだけ集中すれば疲労は極大、マイクの様子が心配である

 師範が無防備に成った、それを見てマイクも力を抜いた瞬間剣が喉元へ

疲労が無ければ反応しただろうが…抗う力も出ない様だ

「ズルイ」の言葉と共にマイク眠りに落ちていた


 昨日はマイルが先に挑んだが、全く歯が立たなかった

マイルは師範の末っ子で成人前、ガキ大将で天狗に成りかけだ

師範が真面に戦う処等見た事が無い、それは相手が居ないからだ

その親父が試合の相手を笑顔で褒めている、一度足りと無い事で嫉妬する

マイルは天下無双の父が好きだ、自慢の父で幼子の頃から憧れて観て来た

なのに父の目にはマイルは写っていない、拗ねて訓練が疎かに成って…

しかも自分より幼いと言う話だ、俺への当てつけだと父に着いて来た


 相手を見て驚くが、侮って打ち合う前に、喉元に剣が有る

瞬時の事で見えなかった、恐怖で我武者羅に振り回すが当たらない、

討ち込めば足を掛けられ転ばされた、すれ違いざまに肩を押され前にのめる

顔から落ちて泥を舐める、相手の剣は左手でブラ下げたままで打ち合わず

悔しくて突っ込むが…、疲れた…気力が無くなり心が折れて惨めに負けた

「ヒール、リフレッシュ」惨めな儘にして置いて欲しいのに…涙がおちた


 マイクの体力を考慮して10分と時間を切って試合が始まった、

マイルは真剣な顔の父親を目にした、目配りも動きも見た事が無いものだ、

そんな折に不意に、もしマイクが対等に大人なら…

 兵達もざわついた、師範が相手を一人前と認めて全力で相対している

勝負はつかず時間切れで、やはりマイクは眠りに落ちた。


 鍔迫り合いが始まった時、マイクの身体が淡く光った

それからの打ち合いは様相が一変、師範の得意の豪打や打ち下ろしが

マイクから繰り出された、師範の剣は刃こぼれから罅が入り折られた。

「参った」師範の声が闘技場に響き渡った、それ程静かで固唾を飲んでいた

途端に兵達は躍り上がった。

 マイルは父親に願った「マイク様のお供に加わりたい」

「ああ、あの方は本物の剣豪だ、将来が楽しみだ」試合を楽しむ父親を見て

父親やマイクに近づきたいと、また一人加わった

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