二つの魂

山野狸

第一章 マイク編

第1話 コニーと能力 006a

 イムリー城住居スペースを走り回る幼い女の子、僕の傍へ駆け寄る

「あれおかしいな、イリアってさ、さっきあっちにい居たよね、なんで

何時ココへ来たのよ、あ、それよりさマイク様見なかったかな、

え、あっちなの」指さされた方向へパタパタと駆け出して行く。


 僕は慌てて物陰に隠れる、暫く後不審げな顔で戻って来たレイラが

辺りをキョロキョロと見回しながら、イリアの居た先程の場所で

「イリア何処?、何でマイク様と同じ服なの、何処に居るのよ」

そう叫ぶと今度は別方向に、パタパタと走っていく。


 魔法で姿形は変えられるけど、服装迄は無理なのでで、

ここでイリアの容姿で見つかると、この魔法変身手段が使えなくなる

僕の服を着た不審人物の噂も広がり始めている

能力による変身での誤魔化しも、秘密保持を考えればそろそろ限界

変身を解き、姿をマイクに戻し、見つかり易いように移動してゆく

「マイク様、見っけ!」レイラの声が響く

「ねえマイク様、イリアに服貸したかな?」

「着てるから、貸せないよ、如何して?」

「そうよね、あれは変だわ、マイクの服を着たイリアがいたもん」

思い出した様に「誰かがマイクの服を着た、私を見たの有ったわね」


 二人で皆の居る場所に戻りながら会話しているが

何時もより口数の少ないマイクに、レイラが顔を覗き込み

「今日のアンタ変よ」と少しイラついている様だ。

皆の居る場所に着いた、貴族の子弟で僕の遊び相手達が10人程いる

数人ずつで固まり、年相応の話題でお喋りしている

物心がついて以来の仲間であるが、遊んでいても以前感じていた高揚感や

一体感が感じられず、最近急に彼らを子供っぽいと感じ始めている。


 この頃の何時からか不思議な力を得てから、僕の心境の変化が著しく

かくれんぼや鬼ごっこが、幼稚な遊びに思えつまらなく遊びたくない

「ねえ、この中でワイパーンに乗ったり、武術とか習って狩りとか

してもいいと思う人いるかな?」

「5歳だから、武術はって言われてるけど…、狩は怖い」

「馬にも乗った事無いし…ワイパーンなんて…」

「そうよ、空なんて落ちたら死んじゃうじゃない」

言われる事は その通りなのだが…

 マイクと同年代では、この話の内容の冒険ごっこの先、実際の冒険へと

一緒に巣立つ事は、幼過ぎる彼らには無理な様だ。


 そんな中「わたしは、坊ちゃんに付いて行きますから」

五つ歳上のマイク専用メイドのコニーだけが、必死の形相で宣言する

兎獣人の彼女は種族的に臆病だ、空を飛ぶ怖さを想像しての表情だろう

それでも従う意思表明であるが、丸顔の愛らしさが台無しだが

ひたむきさに、応えようとしている。


 コニーはメイドで有り、身の回りの世話が仕事だ

だから、怖い思い迄してワイパーンに乗る必要は無い筈

なのに如何してそこ迄と、マイクは思うが、単に一生懸命仕事をしている

彼女は種族的特性で危険察知能力が高く「危険」を察知し知らせる役目だ

マイクには明かされていない、だから傍に居る必要が有る。


 尚且つ一途で努力家、

マイクのパーティーデビューの為の踊りの練習が始まるが、

マイクが幼過ぎる為、背丈で練習相手を探すが、幼さなければ踊れずで

相手が見つからず、年齢の割に小柄であるコニーが勤める事に成った。

 一応は貴族の娘である故、踊れる事は嗜み、曲りなりに踊れる

現状ではパーティーに参加する事も、踊る事も夢物語だが、

何時の日にかパーティに参加できる日を夢見て、練習は欠かさない


 マイクは能力のお陰で、ダンス教師並みの腕前に成るが、コニーは…

ダンスの練習相手を務める事が決まると、パートナーが下手では

練習に成らない、暇が有ればステップを踏み、寝るのを削って、

毎晩月明かりの下で一人で踊って練習している。

 昨夜も何時も通り…そこへマイクが現れ、暫らく無言で踊りの相手をして

共に時間を過ごしていく、コニーには夢の様な一時で、ひたむきさが募る

マイクにとっても、懸命に応えようとするコニーの姿はいじらしく思う

コニーも昨今の夜を思い出し胸がキュンとなる


 コニーはマイクが五歳の頃、10歳で雇われ傍に仕えた

一年程前の事、当時のマイクは我儘でヤンチャ、極普通の若様だったが…

六歳を過ぎた頃から変わり始め、一挙に大人びた雰囲気に変った。

仕草が父親の大公に似かより、達観した様やそぶりは最早子供では無い

この訪れたマイクの変化とコニーの勤めだした時期が重なる偶然で、

躾をしたものだと誤解、両親がメイドに寄せる信頼は絶大だ。


 マイクのこの変化は、実は彼の能力のスキルによるものだ。

スキルは二つ在り、一つは変身能力、自分、他人問わず容姿やサイズを

自由に変えられる能力で、先程のかくれんぼの際使用したものだ。

その時に衣服が変わらない問題が生じ、バレそうで自制中となった。

 もう一つが知識操作、相手の知識や経験を操作できるのだ。

従って二つの能力を使えば、完璧に他人に成り済ませる事が可能なのだ


 この二つの能力に気付いたのは、偶然の成り行きによるもで、

5歳の折に、この国の風習でアストライアー神への感謝を捧げる為

聖堂へ母達と共に赴き「幼年の儀」へと臨んだ

その際、そこで行われていた、司教の治療魔法を施す様を視る機会を得て

無意識に観察していた際に、治療魔法に関する知識が脳裏に浮かび理解し、

欲した途端、自分が知り得た記憶として宿った。

 そのでき事で混乱しつつも、極秘的な事項だと子供心にも理解して、

帰宅後、父親に相談すべく執務室を訪れたが、あいにく執務中で待つ事に

様子を見ていて、父の執務中の案件が脳裏に浮かんだ、こんな難しい事が

解るのか、僕も父みたいに成りたい…欲したら宿った!

そう、父親の知識や経験が自分のものに成ったのだ。


 父親へ相談する前に父親の思考で考える事に成った

これは相手に敬意を抱いて「あの人みたいに成りたい」と思い欲する力

そう気づき、以後は気を付ける様になる。

 今回は司教や大公の知識や記憶だが、もしも犯罪者や悪意持ちなら…

そんな事を思うが、自分の運なのか、アストライアー神の導きなのか…。

父への相談は様子を見る事とし部屋を後にする。


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