第10話 意外な展開

「というわけで、本日、皆に集まってもらったのは他でもない。一週間後、リルゴットの森で大掛かりな調査を行いたいので、出来るだけ多くの冒険者に参加してほしいのだ。


もちろん強制はしないが、我が街の為に是非とも要請を聞き届けてくれる事を望む」


”報酬は出るんですか?”


ギルマスの言葉に、集まっている冒険者の誰かが声をあげた。


「当然だ。今回の探索は、言わば領主さまが依頼主だからな。実は王都の執政省からも、非公式で何人か派遣される事が決まっている。実質的には合同探索となるので、その旨も了解しておいてくれ」


再び、聴衆の間にどよめきが起こる。


「おい、おい。こりゃ、一体どういうこったい。なんで、わざわざ王都の連中が割り込んでくるんだよ」


のんびり屋の戦士ライルも、さすがに驚きを隠せない様子だ。


そのお得意様の言に、ネッドは、つい口を滑らせる


「これはかなり深刻な状況ですね。大っぴらでなくても執政省が出張ってくるとなると、王都側では明らかに”領主には任せておけない”と考えている事になります。


ポーナイザル規模の街で起こった、今のところは小さな事件で普通はこんな対応はしませんよ。もしくは、他に何か思惑があるのかも知れません。場合によっては、上の方の誰かの個人的な事情なのかも……」


「……ネッドさん。あなた、どうしてそんな事が分かるの?」


マルチェナが、即座に疑問を呈した。


しまった!


ネッドは表向きは冷静さを保ちながらも、心の中では大いに狼狽した。彼はつい三ヶ月前までは王都で騎士を務めていた。しかも、王付きの親衛隊の一人である。よって様々な事情にも通じているのだが、それに基づく推測を不用意にもベラベラと喋ってしまったのだった。


「え? えぇ……。いや、友達が王都で城に勤めてましてね。色々と話を聞く中で、そういう事もあるのかなぁ……みたいな、そんな感じで推測を喋ってしまいました。すいません。気にしないで下さい」


必死に誤魔化そうとするネッドを、ライルを除くテーブルの皆が訝しむ。


「では、話は以上だ。急がせる様で申し訳ないが、明日の朝までに依頼を受託する者は登録をしてほしい。詳しい条件は、スタッフに確認をしてくれ」


ギルマスの話が終り、集まった冒険者たちは、ギルド館のスタッフの説明を受けるため、幾つかの受付テーブルの周りへと群がり始めた。


「あぁ、ごめんなさい。実は魔石職人のアスティをカフェに待たせてあるんですよ。結構時間がおしちゃってるんで、失礼しまーす」


「ちょ、ちょっと……!」


追いすがるパーティーの声を、聞こえぬふりで脱出口へとひた走るネッド。あぁ、次に会った時、どう言い訳しよう……。お得意様の件もパァかなぁ……。この件はシャミーには絶対内緒にしておこうと、心に硬く誓うネッドであった。


通りに出るとネッドは、はす向かいにあるカフェ”ポラルゾ”へと駆け込んだ。中では既に二杯目の紅茶を飲み干したアスティが、あわてた様子で店へと入って来た魂石職人を迎え入れる。


しかしギルド館を早々に出奔した事が、すぐに大きな波乱を起こすきっかけになろうとは、その時のネッドには知る由もなかった。

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