第9話 大事な話
ギルド館に集まった冒険者たちは驚いた。それは話を始めようとしたギルマスの後ろに、サブ・ギルマスと三人の主幹が全て揃っていたからである。
「こりゃ、只事じゃないぞ」
ライルが真顔で呟く。
彼の言い分は大げさではない。いま冒険者たちの目の前には、このギルド館の経営者全員が集まっているのだ。このような事は滅多にあるものではない。そしてもちろんこの認識は、集まった冒険者全員が抱いていた。
「最近、リルゴットの森付近や森の中で恐ろしい出来事が起こっている。噂で知っている者も多いだろう。最初は旅人の行方不明が出る程度だったが、最近ではその一部が惨殺死体となって発見されている」
冒険者たちに出来るだけ不安を与えないよう、ギルマスは努めて淡々と語りかける。
「最初は野盗などの仕業かと思われたが、我々の調査では大型の獣やモンスターの類も見るに堪えない状態で発見されている。もちろん、そいつら同士の争いとは思えないほどの凄惨さだ」
これは、少し雲行きが変わってきた。ネッドは思考のレベルを一段階上げる。シャミーがどうこう言っていた様な、賞金云々の浮ついた話じゃなさそうだ。ちらりと目を流してみると、同じテーブルについているライルをはじめとする冒険者たちの顔色も明らかに変わってきている。
「このままでは、この厄災の原因がいつ街の方へ流れて来るかもわからない。またこの街は、王都に比較的近い物流の要となる州に存在する。……実は領主さまの方へ、王都の執政官から心配の声が寄せられたとの事だ」
冒険者たちの間に、どよめきが広がった。これはこの地の領主が、王都からダメ出しをされたに等しい。下手をすれば領地没収さえあり得るだろう。正に尋常ならざる事態である。
「いや……、ある程度は想像していましたがね、これは思ったより深刻な状況のようですよ」
僧侶のカンナンが、皆に耳打ちをするが如く密やかに口を開く。
「……っていうか、よくわかんないわね。それだけ差し迫った話なら、私たち冒険者じゃなくて州兵が出て来る様な話でしょ? どうしてこっちにお鉢が回って来たのかしら」
女傑のヌーンが、これまた密やかに返す。
「それなら、わからない事はないですよ。
もし州兵がいきなり出張ってきたら、それは広く周りの都市にも伝わってしまいます。となれば、領主さまの評判や王都からの評価はがた落ちですし、いらぬ騒ぎを起こしてしまう事になりかねません。王都の方でもそれは避けたいのでしょう」
「そうね。まだ事態がはっきりわからない内に州兵を動かしても、誰も得をしないって事なのよね。だから、まず一都市の冒険者ギルドで様子を探ろうとしているんだわ」
ネッドの講釈を、魔法使いのマルチェナが引き継いだ。
「こりゃ、大変な事になりましたね」
カンナンが深いため息ついた。
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