第11話 すれ違い
「おい、メル主幹。ちょっとネッドを呼んで来てくれないか」
冒険者たちへの話を終え、自室へ戻ろうとするギルドマスター・ガントが娘に声をかける。
「ん? ネッドに何か用があるの? あ、もしかして結婚の事……」
メルが心なしか頬を染めて聞き返した。
「そんな事じゃないよ。ネッドに少し大事な話があるんだ。あいつが帰る前に早く呼んで来てくれ」
メルの眉間に大きなスジが寄る。
「”そんな事”ですって!? パパにとって私の結婚は”そんな事”レベルの話なわけ?」
ガントよりだいぶ背の高いメルが、腰を折り曲げ父親に詰め寄った。
「い……いや、勿論そんな事はないんだが……、あ、また呼び方がパパになってるぞ」
誤魔化すように目をそらすガント。
「なに言ってるのよ。結婚はプライベートな話でしょ? むしろパパと呼ぶのは当然です!」
メルの剣幕は止まらない。
「いい加減にしないか。いいからさっさとネッドを呼んで来なさい。これはギルマスとしての命令だ」
娘の癇癪にいつまでも付き合ってはいられないとばかりに、ガントは強権を発動した。
「もー、ギルマス風を吹かせちゃって! はいはい、わかりました。仰せの通り、さっさとネッドを呼んで参ります、ギルドマスター様!」
これ以上は抵抗できぬと悟ったのか、メルは渋々ロビーへとネッドを探しに向かう。それをヤレヤレと言った表情で見送る、年頃の娘の扱いに苦労する只の父親ガント・ライザー。
「ちょーっと、あんたたち。ネッドを見なかった?」
メルは閑散とし始めたロビーに残るライルたちに声をかけた。ガントの演説中も職務そっちのけでネッドの方ばかり見ていたメルは、彼がライルたちと同じテーブルについていた事を見逃さない。
「あぁ、メル主幹。ネッドならとっくの昔に帰ったよ」
「えぇ? もう面倒くさいな!」
戦士ライルの言葉に、メルは外へと通じる扉を乱暴に開け姿を消した。
「ねぇ、向かいのカフェにいること言った方が良かったんじゃ……」
「あ!」
ヌーンの一言に、しまったとばかり自分の頭を叩くライル。
「……あんた、やっぱりバカでしょ」
魔法使いマルチェナの容赦のない口撃が浴びせられる。
「向かいのカフェに、知らせに言った方が良くはないですかねぇ」
「別にいいんじゃない? 私たちを振り切っていたんだから、ちょっとした罰ってところよ」
カンナンの提案をヌーンがあっさりと否定した。
「おーい、そこのパーティー。申し込むんなら早くしてくれよ」
ギルド館のスタッフがライルたちに声をかける。ギルマスから話のあった今回の探索は大掛かりなものになる。編成などを調整する為に、依頼は早めにというのがギルド側の意向であり、先に申し込んだ方がより有利なポジションで参加出来るとの事だった。
「ん~、じゃネッドには悪いけど申し込みの方を先にしちゃおうや。ま、さっさと逃げ出したのとこれでお相子って事で」
ライルがそう言うと、カンナンとマルチェナは後ろ髪を引かれる思いがしたものの、ネッドの件はそれほど深刻な問題でもないだろうと、二人ともライルの言に従った。
「もう、どこまで行っちゃったのかしら!?」
ネッドの店へと続く道を走りながら、短気なハーフダークエルフが文句を垂れる。彼がすぐ向かいのカフェに居たなどとは思いもよらず、ただひたすら従弟の機能付加職人を追っていたのであった。
そして、いつまでたってもネッドの後姿を発見できない事に不信を抱きつつも、メルはネッドの店「ハッピーアディション」が見える林の入り口まで辿り着く。
「うーん、完全に行き違いになっちゃったみたいだわ。……これから戻って探しても見つかる確率は低いだろうし……」
幾ら娘に弱い父親だからと言っても、指示を放棄してしまえば大きな雷が落ちるのは避けられない。メルは取りあえず店に赴き、父の伝言を伝えておく事にした。
そこで”最大のライバル”に出会う事など露ほども知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます