第22話 天啓《スキル》『魔力付与』

 魔力を相手に伝えながら『魔力操作』も兼ねている。

 そんな天啓スキルなんて、何かあっただろうか?

 気になることは沢山あった。だが、今は考えている場合でもない。


「ドロシー。魔力、溜まりそう?」

「う、うん。でもクロエ、これって……?」

「私もよく分かんない。……ただ。ここからどうにかできる? お願い」

「……うん。分かった! よーし、離れててクロエ」


 ドロシーが言う。同時に、ドラゴスネークも体勢を整えていた。

 鋭い眼光をこちらに飛ばしてくるそいつに、ドロシーは手をかざす。

 そして、そいつに動く隙を与えないまま──。


「『アイスランス』」


 放たれる氷の槍。

 先のよりも大きく見えるそれは、容赦無しにドラゴスネークを貫く。


「ギャアアアアアア!!」


 わずか一瞬だった。

 ドラゴスネークは地面に倒れ、絶命する。

 ドロシーは次の戦闘に備えるように、辺りを見回す。

 が、流石に三体目のドラゴスネークの登場はなさそうだった。

 「ふぅ」と、ドロシーはホッとしたように息を吐くと、くるりと私を向いて、


「よかったぁ。ほんと、一時はどうなることかと……」

「……いやほんと、ありがとうドロシー。やっぱり、ドロシーは強いね」


 それに可愛い。羨ましいな、と思った。


「そんなことないよ! クロエがいなかったら、ダメだったと思うし……。それにしても、さっきのはなんだったの? もしかして『魔力付与』?」

「魔力付与? それも天啓スキル?」


 初めて耳にする天啓スキルだった。

 相変わらず私には知識が無いなと苦笑する。


「そう! さっきクロエがやったみたいに、自身の魔力を相手に付与することできるの」

「なるほど。……ん? でも天啓スキルは二つ以上授かることはないんだよね?」

「そうなの、だから不思議だなって。私も『魔力操作』と『魔力付与』が同時にできる天啓スキルなんて聞いたことないし……」


 ドロシーは顎に手を添えて唸る。

 そんなドロシーに私はパッと浮かんだ考えを口にした。


「もしかしたら、私の本当の両親が凄い人なのかも」

「あー! それはあるかも。けどクロエの両親って、アテがないんだよね?」

「そう。物心ついた時には、サニスの町で養って貰っていたって感じだから……」

「じゃあ本当に凄い人だったのかもね? ……ま! お話は後にして、とりあえずツノを回収して森を出よっか。また魔物が来ても怖いしね」


 ドロシーは腰につけた布袋から素材回収用なナイフを取り出す。

 二つの死体からささっとツノを剥ぎ取る様は、まるで本業さながらだった。

 そういえば学園の授業でも、剥ぎ取りは教わった気がする。

 やっぱり、私と違って優秀だな、ドロシーは。


         ※


 森を出た私たちは、そのまま帰路に就いた。

 またこの距離を歩くのかぁ、と。憂鬱な気分で王都を目指していると。

 ドロシーはやはり私の天啓スキルのことが気になるらしく、


「ねぇクロエ。もう一度、手を繋いでみてくれない?」


 立ち止まり、そんなことを若干緊張した様子で言ってきた。

 私は特に何も考えず、差し出された手を握る。

 そして氷属性の魔力をその手に注ぎ込んだ。

 やはり、私の中の魔力が失われていくのを感じる。


「どう?」

「…………」


 問うてみたが、反応は無い。

 魔力の流れを感じているのだろうか?

 どこかぼーっとしているような気もするけど……。

 そう思い「ドロシー?」と首を傾げると、彼女はハッとしたような声を出した。


「……あ! うん! 流れてきてる!」

「どんな感じがする?」

「……あったかい」

「あったかい?」

「あ、いや!」


 あったかい……って、私の手が、だろうか。

 まさか氷の魔力が、なんてことはないだろうし。

 と、意識してみると確かに、手汗を掻いていた。

 これじゃ申し訳ない。


「ごめんごめん」


 と、私は繋いだ手をパッと離した。

 だが途端にドロシーは不満げにほっぺを膨らませる。


「そういうことじゃないのに……」

「えっ。あ、まぁ確かに、熱いってわけじゃ無いのか」

「そういうことでもない……」

「あれ?」

「ちょっと急に話を変えるんですけど──」


 焦る私を、ドロシーはジトーっとした目つきで見上げて、


「クロエって、その……恋愛ってしたことある?」

「本当に急すぎるね」


 何も脈絡のない話題転換に笑いそうになりながらも、一応真面目に考えてみる。


「まぁ……無い、かな。というか仲の良い人すら今までいなかったんだよ?」

「なるほどね。……分かった。うん、分かったよ」

「何が分かったの?」

「クロエの性格が」


 え、と声を漏らす。


「私の?」

「うん」


 頷くと、ドロシーは歩みを再開させた。

 結局、私がどんな性格かは教えてくれなかった。


「ねぇクロエ、もう一回」


 と、ドロシーは手を握ってきた。

 魔力を注ぎながら『魔力付与』は、確かに凄い能力だなと思った。

 でも、結局それじゃあ、他人頼りの戦いになりそうなのが、少し歯痒くもある。

 私は私自身の力で、強くなれるのだろうか。

 今の私は、最強とは程遠い気がした。


「ドロシー。ちょっと」


 手汗を掻いて、手を離そうとすると、強く握ってきて離せない。

 どこか満足げなドロシーを横目に、まぁいいか、と私は力を緩めた。


 途中、王都の方から警鐘が聞こえた。また魔王軍が攻めてきたのだろう。

 もう既に、魔王軍に対する危機感は覚えなくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る