第14話 第二王女、リリアン・フォン=アレクシス
目を覚ませば、まだ夢の中では無いのかと自分を疑った。
半身を起こしながら見る光景は、あまりにも非現実的で。
豪華なベッドに、鮮やかな絨毯。光り輝く装飾品に、部屋の隅に佇む甲冑。
私、どうしてこんなところにいるんだっけ?
確か私は、森の中で、誰かに助けて貰って、それで……。
「クロエ、大丈夫!?」
聞き慣れた声がどこからか飛んできて、不思議と肩の荷が降りる。
声の方を向くと、ドロシーが笑みを浮かべながらこちらに近付いてきていた。
前のめりに私の手を取ると、そのままぎゅっと力強く握ってくる。
ドロシーはパジャマだったはずだけど、私の予備の衣服に着替えていた。
「無事でよかった!」
「……あ、あぁうん。よかった。けど、何がなんやらで……ここは?」
「そうだよね。私もびっくりなんだけど、ここ、王都の城内だって」
「王都の城内!? どうして? いや、どうして!?」
ドロシーのサラリとした発言に、私は否応無しと言った風に大声をあげる。
「うん。なんか色々とあって」
「色々とあって!? え、ほんとにここは城の中?」
「私もびっくりなんだけど、そうみたい」
ドロシーは、ぎゅっと握った手を離して「ほら」と窓の外を指した。
豪華な枠組みの窓の外には、活気ある街並みが広がっている。
確かにここは目的地の王都で間違いない。
そしてその街並みが広がっているのは、白い城壁の奥の方で……。
つまりここは本当に、王都の城内?
──ギィ。
と、未だ現実を受け入れられずにいると、奥のドア音を立てて開かれた。
出てきたのは、一人の女騎士。そのまま、私たちの元へとやってくる。
その上品な足取りは背格好は、思わず目を奪われてしまいそうなくらいだ。
女騎士はベッドに辿り着くと私たちに視線を行き交わせる。
ベッドから降りた方がいいかな、なんて思った矢先、女騎士は口を開いた。
「身体の調子はどうだ?」
「は、はい! 大丈夫です!」
その凜とした声に、思わず肩に力が入る。
やっぱりベッドで半身を起こしている状態っていうのは失礼だろうか。
と思ったが、彼女は特に気にする様子もなく一つ頷く。
「それはよかった。早速で悪いのだが、今から君たちには部屋を移動をして貰いたい。向かうのは、第二王女、リリアン・フォン=アレクシス様のお部屋だ。……と、その前に、軽く説明をさせて頂こう」
彼女は私たちの言葉も待たずに説明を始めた。
情報整理が追い付かない。
というか今、第二王女って?
※
女騎士の話を纏めると。
あの時、魔物から私たちを守ってくれたのがアレクシス王国の第二王女だった。
そしてその第二王女様は、私たちにお礼を伝えたい。そして色々と話を聞きたいとのことらしい。だから私が起きるまで城内のベッドで寝かせてくれた……と。
という訳で、私は今、その第二王女様の部屋へと向かっていたのである。
今更だが、ここは本当に王都の城内らしい。
実感が湧かない。
私はどうしてこんな大層な場所に。
それに王族相手に、私はどうすればいいんだ。
無礼を働くなと言われても、礼なんて分からないし。
下手したら首を飛ばされる、なんてこともあるかもしれない。
現に女騎士との話し方でさえも、よく分かっていないのだ。
ただドロシーはかなり礼儀を弁えているらしく、言葉の一つ一つが洗練されている。
だから大方の会話はドロシーの方に任せっきりだった。
「ここだ」
現実に焦点を戻せば、一つの扉の前まで辿り着いていた。
恐らくここが、第二王女様の自室なのだろう。
しかし、その割には警備体制がしっかりとしていない気もする。
そもそも、私みたいな一般人が入っていいようなものなのだろうか。
「ここが、第二王女リリアン・フォン=アレクシス様のお部屋だ。無礼の無いよう」
女騎士は淡々とした口調で私たちに告げ、ドアをノックし、部屋の扉をゆっくりと開く。
「…………」
飛び込んだ景色に対しての最初の感想は『えらい質素な部屋だな』だった。
別に馬鹿にしている訳じゃない、一般人とは比較にならないほどの部屋ではある。
でもさっき私が寝ていた部屋と比べても装飾はほとんどないし、部屋の前に番はいない。
華やかさの無い内装。それなりのベッドに、これはやはり高級そうな天井の照明。
そして部屋の隅の椅子に腰を掛ける、金髪の王女様。一つ一つが繊細なその金色の髪は、やはりここが王族の部屋なのだと再認識させてくれる。
「リリアン様、客人をお連れ致しました」
女騎士の言葉に、呼ばれた王女様は立ち上がり、こちらを真っ直ぐ見た。
「初めまして。私はアレクシス王国第二王女、リリアン・フォン=アレクシスと申します。先程は、ありがとうございました」
王女様は丁寧に頭を下げ、金色の髪を揺らす。
ドロシーはごくりと喉を鳴らし、深々と頭を下げた返した。
それなのに、私は何も返せない。返さないと、そう思っても何も言えない。
言葉が詰まって、息が詰まって、視界が狭くなる感覚を覚える。
「……って、あの、大丈夫?」
王女様は、心配そうに首を傾げた。
だけど私は、それどころじゃなかった。
既視感を覚えたのだ。その王女様に。
そしてすぐ既視感の正体は暴かれて、心臓がドクンとなった。
見間違い? いや、そんなはずはない。確信があった。
彼女はあの日、私に夢を抱かせてくれた──強くてカワイイ魔法使いだった。
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