第5話 才能開花
魔法の威力上昇の方法を授業で習ったことがある。
それは自身の魔力を、手に注ぎ続ける方法だ。
しかしそれは体力を多く消費するため、推奨されていない。
教師からは『ここぞという時、以外に使うな』と言われていたくらいだ。
けれど、私の
それに、ここぞという時があるならば、それは今だ。
「じゃあ、行ってくる」
ドロシーさんは頷くと、ドラゴスネークの元へと駆け出した。
申し訳ないけど、彼女には今から時間稼ぎをして貰おうと思う。
そして風魔法で私の元へ飛ばして貰い、体勢を崩したドラゴスネークに私の魔法でズドンだ。
以上が、ドロシーさんに囁いた私の『考え』である。
「ギシャアアアア!!」
ドラゴスネークが咆哮を上げた。
空気をビリビリと震わすその咆哮に、思わず身震いする。
けれどドロシーさんは迷い無く、ドラゴスネークの死角に回った。
学園最強の彼女は、もちろん運動神経も良い。
うまくドラゴスネークを錯乱できているようだった。
「……よし」
そんな彼女の様子を見ながら、私は一歩二歩と前に出る。
さぁ始めよう、とそう思った矢先、後方から声がぶつけられた。
「え? なんでクロエがいるの?」
「なにしてんだ、あいつ!」
「危ないから戻ってこい!」
クラスメイトの誰かと、教師の声。
心配するようなことを言いながら誰も私の元へ来ない辺り、私の程度なんてこんなものだ。
でも。私がそんな程度なのは、私の責任でもあるのかな。と思いながら、
「すっ──」
軽い呼吸と共に、私は目を瞑る。
魔力の流れを感じて、それを右手に注力する。
私は火属性の魔力を注ぐ。注ぎ続ける。
身体への負担は、言われていたほどに感じない。
それでも確かに、私の右手に溜まる魔力は強大なものになっていくのが分かる。
「クロエさん! 行くよ!」
その合図に、私は目を見開く。
「『テンペスト』!」
風属性の中級魔法──テンペストによって、ドラゴスネークが宙を舞った。
そしてそれは確かに、身をくねらせながら私の方へと飛んでくる。
魔法適正 Fランクじゃ、こんな巨大な魔力を放ったって外れてしまう可能性が高い。
だから私は、耐える。直前まで、魔力を注ぎ続ける。
ドラゴスネークが寸前まで近付いたところで、
「『ファイヤボール』ッ!!」
私は──。
考えるよりも先に、大きく目を見開いた。
私の手から放たれた魔法は、かつてのような小さな炎では無い。
──え?
それは。
太陽よりも鮮烈に赤く。
視界を隠すほどに巨大な。
伝わる熱気も、恐ろしいほどの。
そんな『ファイヤボール』だった。
「ギィィャアアアア!!!!」
炎に包まれたドラゴスネークは、身をよじらせ、やがて動きを止めた。
後方にいた教師陣が、燃え広がる炎に慌てた様子で水魔法を放つ。
安堵からか思わず尻餅をついてしまった私は、そのままポカンと口を開けてしまう。
そしてまた、生徒の声が私の耳に飛び込んできた。
「え、今の、クロエがやったの?」
「おい。クロエって確か、適正 Fランクだったよな?」
「だけど魔力蓄積が Sとも言ってたし……」
ここばっかりは、この人たちの声に同感だ。
Fランクの私が、ドラゴスネークを討伐した?
目の前にそれは事実としてあるのに、どうしても疑ってしまう。
けれど確かに、私の魔力は失われているのを感じる。
それに、手が異常な熱を帯びている。
じゃあ本当に、今の魔法を私が──?
「クロエさーん!」
ドラゴスネークの影から、ドロシーさんが手を振りながらやってきた。
「凄いじゃん! 今の魔法!」
ドロシーさんは私に視線を合わせるようにしゃがむと、嬉しそうに言ってくる。
「やっぱり、クロエさんみたいな人が夢を諦める必要ないよ!」
その言葉に、何か温かいものが胸に広がっていくのを感じた。
そうだ。今日私は、夢を諦めるつもりで森に出向いたんだった。
けれどなぜか今、私は魔法で魔物を倒すことができた。
──なら、私は夢を目指してもいいの?
なんて、浮かれたことを思ってしまって。
おかしな問いが、私の口を衝いて飛び出してしまう。
「今の私、強くて可愛かった?」
言ってから『あーやっちゃった』と思った。
熱くなる顔を隠そうと、思わず俯いてしまう。
でもドロシーさんは、そんな私に呆れる様子も無く。
私の耳元で、快活な声を囁いた。
「強くてカッコよかったよ……!」
あれ。なんだ、もっと熱くなってきたぞこれ。
人に褒められるなんて、今まで経験なかったからかな。
けど、なんだかもういいやって、顔を上げてドロシーさんを見る。
無邪気な笑顔を浮かべたドロシーさんは、やっぱり可愛かった。
可愛さじゃ彼女には敵わないよな、なんて思いつつ。
「あはは、そっか。うん……ありがと」
私はその言葉の響きを噛み締めるように頷いた。
強くてカッコいいってのは、私の求めるものとは少し違ったけれど。
今ばかりは、それも悪くないのかなと思いながら。
それでも私の中で再度、心に決めたことが一つある。
強くてカワイイ最強の魔法使いになろう。
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