お兄ちゃん、ごめんなさい

 私が水着から着替え終わって下に戻ると、お兄ちゃんは脱衣所で倒れていた。

 呼吸は荒くなっていて、だいぶ悪化したのがすぐにわかった。

 

「本当にごめんね。いまリビングに連れていくから!お姉さんキャラは辞めて、いつも通りにするから許して!」


 用意しておいたパジャマには着替えてくれていたようで、蹲っているお兄ちゃんの脇に腕を通し、なんとか力を込めて支える。


「うっ、重いぃぃ」


 お兄ちゃんもなんとか踏ん張ってくれて、2人でゆっくり時間をかけてリビングのソファに到着した。


「お風呂の時間も思ったより長くなっちゃったよね。調子乗ってごめんなさい」


 私がつい調子に乗ったせいでお兄ちゃんの熱は上がってしまった。

 私が逆の立場だったら激怒してるくらいなのに、お兄ちゃんは「いいよ」と小さくいい、脱力してソファに沈んだ。


「お兄ちゃん、ありがとう。辛いのに体拭いて、パジャマまで着てくれたんだね。提案したのは私だったのに途中で投げ出してごめんなさい」


 半泣きになりながら、お風呂場から持ってきたタオルで洗い立ての髪を急いで拭く。

 ある程度水気が取れたら、ドライヤーで完全に髪の毛の水気を飛ばす。


「冷蔵庫にあった、冷却シート使う?」


 いつ買い置きしていたものかわからないけど、冷蔵庫に何枚か残りがあった。

 たぶん母親が買い置きしていたのだろう。


「あとはひんやり枕だね。新しいタオルで巻いてきたから安心して」


 冷凍庫から持ってきた冷え冷えの柔らかい枕を、ソファへ横になったお兄ちゃんの頭の下に置く。

 ひんやりした感じが気持ちいのか、うっとりと目を閉じている。


「あとはなにか欲しいものある?」


 アイスが欲しいと即答で返ってきた。

 だいぶ熱が上がっているのだろうか。吐息が熱ぽい。


「待ってね。うーん。果実系の某アイスかバニラのカップアイスか、チョコの吸うタイプのアイスがあるけど、どれがいい?」


 お兄ちゃんはバニラ味が好きだからバニラを選ぶと思ったら、意外にも吸うタイプのアイスを選んだ。

 二個一緒にくっついているタイプで、片方が余るため、ちゃっかり自分の分にする。

 プラスチックのキャップを捻って一つを渡す。


「おいひい?ん、ちゅ」

「思ったより冷たくて頭痛くなっちゃった。お兄ちゃんは大丈夫?」


 熱い口内には心地いいのか、哺乳瓶を吸うような形でお兄ちゃんが一生懸命吸っている姿が少し可愛い。


「ちゅ、ん、ずーっ、ちゅぱっ」

 

 一気に吸い込むと自分のはあっという間に食べ終わった。

 お兄ちゃんを見ると半分くらい残っている。


「吸うのが大変なのかな。下部分持って食べやすいようにしようか?私がここ押さえてるから、お兄ちゃんは口離さないようにね」


 チューブの下部分を持ち、残りを徐々に口へ運ぶ。


「はい、あーん」


 私が支えていると、あっという間に食べ終わった。


「ご飯とか、そういうのは食べられる?」

「無理か。薬?たぶん薬箱にいつもの風邪薬はあったと思う」


 薬箱を探すといつものところに風邪薬があった。

 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、薬を適量取り出してお兄ちゃんに渡す。


「これで少しは良くなるといいけど……。寒くない?なにかブランケットみたいなの持ってこようか?」

「いま持ってくるね」


 自室に戻り、まだ肌寒いとき用に使っている小さめのブランケットを持ってきて、お兄ちゃんの上半身にかける。

 少し暖かくなって気持ち良くなったのか、すぐに寝息が聞こえてきた。


「ごめんね」


 ソファの傍に座りお兄ちゃんへ再度謝ると、無意識か頭を撫でられた。

 暖かい。その暖かさに目を閉じた。

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