お風呂2

「いい!いい、私がやる」


 躊躇している私に気づいたのかお兄ちゃんがボディタオルを奪おうとする。

 恥ずかしがってちゃだめだ。介助だ。これは。


「椅子に座ったまま、私のほうに体向けてくれる?そう。ありがとう」


 一旦お姉さんキャラ設定を置いておいて、お兄ちゃんに指示をする。

 お兄ちゃんがこっちを向いてくれたので向き合う形になる。

 目隠しをしているわけじゃないから本当に目を瞑っているのかもわからないから恥ずかしい。


「お、お姉さんが前も綺麗に洗ってあげますからね」


 泡だらけの指先でそっと胸元をなぞるとビクッとした反応があって、こっちまで意識してしまう。

 恥ずかしさを紛らわせるように、さっきよりも大量の泡を作って、泡でお兄ちゃんの体を隠す。


「胸板が厚くて、ここも男の人って感じ。少し撫でてもいいかしら?あら、ビクンってしないで。お姉さんはあくまで洗ってるだけよ」


 興味本位で胸板を触ってみたら硬かった。普通がわからないけど、がっしりしたタイプにはいるんじゃないだろうか。

 腹筋はどうかなと視線を下げたところで、悲鳴をあげそうになる。

 そうだった。問題はここからだ。もうタオル部分に差し掛かる。太もも部分は危険だ。


「タオル部分はどうしましょうか?お姉さんが優しく洗ってあげましょうか?」

「どうする?外してあげましょうか?それとも、タオルすこーしだけ持ち上げて、太もものギリギリから洗ってみる?」

 

 わざとらしく腰の結んである部分を持ち上げる。

 もちろんタオル梨なんて無理だ。でも役になりきるため頑張って言い切った。

 お兄ちゃんもすぐに頭を横に振っていたので安心した。タオルから手を放す。

 

「残念ですが、今回は辞めておきますね」

「また今度。一緒にお風呂入ったら洗ってあげますからね。お好きなところから、ぜーんぶ。あら、耳まで赤くなっちゃって。想像した?」


 耳元で囁くとお兄ちゃんは想像通りの反応をしてくれた。

 私のことを遠ざけたくても、目を閉じているのと、私が水着だから触っていけないと理解しているのか、されるがまま。

 なんだか可愛い。

 

「それでは次は脚を洗いますから、少し脚を前に出してください」


 膝から下のみを洗って、足の指もしっかり洗う。


「どうです?女性に指の先まで洗ってもらう気持ちは?」

「気持ちいいですよね。こんなに尽くしてもらえるなんて、お兄さんは幸せ者ですね」


 立ち上がってシャワーヘッドを取ろうとしたところで、泡に足を取られてお兄ちゃんの上半身へダイブした。


「ぐっ、いったぁ。ごめんね、気をつけてたんだけど」


 顔についた泡を拭ってみると状況がはっきりとわかる。

 私の胸がお兄ちゃんの膝に当たっている。


「こ、こ、こ」


 まるで鶏のような声しか出せない。

 お兄ちゃんも驚いてか目を開けてしまっている。そのためかお風呂場に入って初めて視線が交わる。


「いや、見ちゃ、だめ!」


 シャワーヘッドを勢いよく取り、お兄ちゃんの頭の上からお湯をかける。

 幸いタイミングよく目を瞑ってくれたこともあり、目に入ることは免れた。


「ごめんね。いや、流石にこれは、その……恥ずかしいとかそういうレベルじゃないというか」


 お兄ちゃんが何か言っているが、勢いよく出したシャワーの音でかき消されている。

 さすがに私にも人の心はある。これを始めたのは私だから、最後までやり遂げないと。

 何回か深呼吸をして心を整える。


「はぁ。ごめんね。脚の泡も洗い流しちゃうね。とりあえず、目はまた瞑ったままでいて」


 お姉さんモードを脱ぎ捨てた私は、さっき洗ったばかりの脚にもお湯をかける。

 そこで違和感に気づいた。


「いやああああ!!!」


 お兄ちゃんが腰に巻いていたタオルが外れており、しっかりとそれは握られているが角度的に危うい。

 驚きでシャワーヘッドを落としてしまったため、暴れ始めたシャワーヘッドで私の水着も濡れていく。


「ごめん。ごめん!今度お兄ちゃんの好きなアイス買ってくるから許して!」


 そうして私はお風呂場を勢いよく飛び出し、タオルで体を拭いてから服を持って自室に猛ダッシュした。

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