お風呂

「どうですか?痒いところはありませんか?」


 これだと、美容師さんみたいでお姉さんキャラぽくない。


「ゴシゴシ、ゴシゴシ。どうですか?お姉さんの指圧、気持ちいいですか?」

「もっと気持ちいいところ教えてね。お姉さんがしっかり洗ってあげますからね」


 ちょっとエロく聞こえるように言う。

 それが人気のお姉さんキャラだったはず。


「では流しますよ。シャンプーの泡が目に入ったら痛い痛いですからね」


 なんだか保育園児を相手にしている保育士さんみたいになっている気がするが、まぁいいだろう。


「髪の毛についた泡流しますよ。お姉さんがいいって言うまで、まだ目開けないでくださいね」

「お姉さん綺麗に洗えたかしら?とってもサラサラ。触っていて気持ちよいから、ずっと触っていたくなっちゃう」


 丁寧に洗った髪はサラサラだった。女である自分よりもサラサラなところに嫉妬してしまう。

 

「よーく、目に泡が入らないようにできましたね。いい子、いい子」


 頭を軽く撫でる。目の開閉について会話しているが、お兄ちゃんの目は閉じっぱなしだ。

 私との約束を守ってくれて嬉しい。


「じゃあ次はどこにしようかな」


 面白半分に背中をつーっと撫でると、お兄ちゃんの顔がより赤くなった気がして私も恥ずかしくなってきたが後には引けない。


「次は体洗おうね。ボディタオルにする?それともお姉さんの手がいいかな?」


 素早くお兄ちゃんにボディタオルを渡された。


「ボディタオルは脚下です。お姉さんの手で、隅から隅まで綺麗にしちゃいましょうね」

「ほーら。観念しなさない。お姉さんのいうことは絶対です。めっ」


 ボディタオルにボディソープを絡ませて、真っ白な泡を作り出す。

 

「今から洗っていきますよ。まずは背中から」


 背中にテニスボールくらいの大きさの泡を乗せる。

 私からの提案で手を使って洗っているけど、本当はボディタオルでゴシゴシ洗いたい。恥ずかしすぎる。でもそれではこのお姉さんごっこはすぐに終わってしまう。

 羞恥心よりも興味心が上回り、なんとか役に入っていけている。

 

「あら、いつの間にか広い背中になって。男の子っていうより、男の人ね」

「肩幅もしっかりしていて、かっこいいわ。いつもお仕事頑張ってる方の背中ね」


 何年かぶりに見るお兄ちゃんの背中は思ったよりも広かった。

 そして思ったより筋肉があった。

 

「お姉さんの体ならこれくらいの泡でも十分だけど、こんなにかっこいい男の人の背中だと泡が足りないかしら」


 ボディタオルから泡を追加し、背中を満遍なく泡で埋め尽くしていく。

 背中と同じく指も真っ白に変わっていく。


「腕も綺麗にしましょうね。少し腕を上げてくれる?」


 少し上がった腕の下に、泡のついた指を絡ませる。

 私の少しぽよぽよした二の腕とは違い、少し硬い。

 

「そう。いい子。がっしりしていて、こっちも男の人って感じね」


 腕を泡で包んで、両手で握るようにして上下に動かす。

 私とは違う硬い筋肉を柔らかくするように揉んでいく。

 

「わぁ、手も大きくなって、ほらこんなにも大きさが違う」


 手の平を合わせると関節一個分以上大きさが違った。

 いつからこんなに大きさが変わったんだろう。


「せっかくだから手の平も綺麗に洗いましょうか。ほら、きゅって握って」

「そう、で、ぎゅゅぎゅっ」


 恋人繋ぎのようにしながら手の平の指の間まで綺麗に洗っていく。

 次は脇だけど、どうしようと思っていると、お兄ちゃんがサッと自分の手で洗っていた。


「じゃあ一旦泡流しましょうね」


 シャワーヘッドで首から腰まで一気に泡を流す。


「じゃあ次は――、えっ、と次は」


 次に洗うなら順番的に上半身の前側だろう。

 さすがに抵抗があり、一瞬巣に戻ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る