お姉ちゃんキャラになってみたい

「お待たせ。水着持ってきた」

「なんでって、そりゃお兄ちゃんがシャワー浴びるのを介助するためであって、これが最適かなって思って」

「笑わないでよ。笑う余裕があるなら大丈夫だね。よし、お兄ちゃんは先にお風呂場入って。タオル巻いて待っててね。タオルはしっかり巻いてね。しっかりだよ!?」


 勢いで水着を持ってきたけど恥ずかしい。でも見られてもいちおう大丈夫で濡れても大丈夫となるとこれしか思いつかなかった。

 この上からタオルを巻こうか悩んだけど、それだと洗いづらいだろうし、洗濯ものも増えてお母さんが怒りそうだ。


「なか入った?」

「じゃあ、私も脱衣所入るよ」


 お兄ちゃんが浴室に入ったのをしっかり確認して、浴室へと繋がる脱衣所に足を踏み入れる。


「な、なんか恥ずかしいからこっち見ないでね!」


 浴室のドア越しだと影くらいしか見えないだろうけど、着替えるわけだからなんとなく恥ずかしい。

 お兄ちゃんを待たせるのも良くないし、羞恥心を捨てささっと着替える。

 ぱさっと服が下に落ちる音さえ、恥ずかしく思えてきた。


「え、これやっぱり恥ずかしいかも」


 家で水着というのはかなり恥ずかしいものなのかもしれない。

 普通にお風呂入るときよりも羞恥心が上回る。


「今更だけど辞めておく?お兄ちゃんには自分でシャワー浴びて貰って……。でもあの様子じゃ辛そうだったし、提案しておいて今更撤回するのもダメだよね」

「よし!頑張れ。水着は裸じゃないし、下着でもない!うん!大丈夫!」


 脱衣所に写る自分の姿から目を逸らし、ぎゅっと手を握って勇気づけた。

 

「お兄ちゃん、入るよ?いまからもう目瞑って。絶対私の姿見ちゃだめだからね」


 中から返事が聞こえてお風呂場に足を進める。


「ちゃんと水着だから安心してね。お兄ちゃんのこともなるべく見ないようにするから!お兄ちゃんは絶対こっち見ないでね。見たら冷蔵庫にあるシュークリーム全部私が食べちゃうからね!」


 お風呂の椅子に座ったお兄ちゃんの背後に立ち、お兄ちゃんがしっかりとタオルを巻いているのを確認する。


「頭から洗うよ。目、瞑ってね。あ、絶対鏡見ないでよ」


 高校生最後の夏だからと調子に乗ってビキニタイプの水着を新調したのが悔やまれる。

 あのときおすすめしてきた友人にはあとでクレームの連絡を入れておこう。


「絶対動かないでね。動いたら、アイス以外にも、もーっと高いもの買ってもらうから」


 湯気で少し曇った鏡を見ると、がっつり谷間が写ってる。

 さすがに血が繋がっているとはいえ、お兄ちゃんに見られたくない。


「お湯かけるからね。温度気になったら言ってね」


 シャワーヘッドを手に持ち、勢いよく頭からお湯をかける。

 水着だから濡れても大丈夫だけど、あとで拭くのがめんどくさいから濡れないようにある程度の距離をとる。

 あと一歩前に進んだら胸が当たってしまうというのも、距離を開ける理由。


「わっ、髪の毛サラサラ。羨ましい」


 普段はセットされている髪が地毛に戻り、意外なサラサラ感にびっくりする。

 きゅっと蛇口を締め、ボトルからシャンプーを二プッシュほど手に出して泡立てる。

 

「小さい頃はお兄ちゃんに頭洗ってもらったことはあるけど、洗ってもらうのは初めてだね。なんかお姉ちゃんになったみたい」


 なんだか楽しくなってきて鼻歌でも歌いそうな気分になってきた。弟ができたみたい。

 

「そうだ!いま流行りのお姉さん系でお世話してもいい?」


 私の趣味はソーシャルゲーム。その中で最近話題のお姉さんキャラの口調を真似したくなって提案してみた。

 しかし即却下された。

 熱があるのに案外頭は回ってるみたい。

 

「なんでよー。みんな憧れのお姉ちゃんキャラだよ?こんな機会滅多にないんだよ?勿体なくない?」


 即却下されたけどこの機会を逃すわけにはいかない。


「まあ、お兄ちゃんの意思は無視して、今回はお姉ちゃんキャラでやってみよ」


 どんな感じかな?

 ゲーム内をイメージして「あー」とか「うー」とか声を出してみる。

 いつもより声のトーンを落としてみたほうが、イメージするキャラに近いかもしれない。

 

「今からゴシゴシして綺麗に洗いましょうね。まずは髪の毛から」


 お兄ちゃんが文句を言っているが無視して髪を洗い始めた。

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