第3話
一度だって俺は傷を負ったことがない。
だから痛みを知らない。
だから人の痛みも分からないのだ、そう罵られたことがあった。
確かに俺は痛みを知らない。
外傷なんて負ったことがない。
でも、俺、やっぱり、人間だから。
かなしかったら、胸が、裂けそうなほど、痛いよ。
ああ、うずくまりたい程、胸が、痛い。
帰ってほしい男が、首を垂れてる。
柔らかそうな髪なのに、冷たく冷えて固まってるように見えた。
大きく育ったはずなのに、ちっちゃいあの子に見えてきた。
俺は、ついぞ、口に、してしまった。
「…じゃあさ、やめてくれたら、いいよ」
ぱっと顔があげられる。
真っ赤な眼がさらに真っ赤になって痛々しい。
「全部、やめてくれたら、ここに、居て、いいよ」
どうしようもないこと言ってる自覚ある。
どうしようもない奴だからいいかなって思う。
たまには自分を守らないといけない。
壊れてる自覚はあるけど、こんなん耐えたらもっと壊れる。
それくらいの喪失だったんだ。
君を失ったのは。
「…やめたら…また…守って…いただけるんですか…?」
必死に絞り出した声に、俺は素直に答えた。
「うん、守るよ。俺はお前を前と変わらず守ると誓おう」
「でわ、やめます」
「…え、なんて?」
「やめます。すべて、やめます」
…そ、即決ぅ。
立ち眩みを覚えた。
これは、帝国終わったわ。
ごめん帝国。
滅ぼすつもりはなかったんだけど。
まじごめん。
でもしょうがないよね。
俺は、これが、守れれば、なんでもいいのだホントごめん。
「ホントにやめちゃうの?いいの?」
「かまいません。もとよりあなたの為に戦った結果得た地位なんて、あなたを守れない、あなたと共に居られない足かせになるなら、不必要です」
淀みなくすらすらと、しっかり、壊れたこと言って。
誰が育てた。
俺が育てたんだった。
しょうがないか。
居ない物扱いされてて、俺と出会って、俺が育て守ってきたんだから。
俺に似ててもしょうがない。
「…じゃ、いいよ。今日からここで俺と暮らそう」
元々犬小屋みたいなとこで暮らしてた子だから、どんな環境可でも寛げるはずだ。
いや、俺が作った我が家はとっても暖かいし綺麗だし、美味しい物一杯食べられますぞ。
…改善する余地が一杯出てきたので、明日から頑張ろ。
綺麗な綺麗な青年が、ぐずっと鼻水啜った。
涙を拭い微笑んだ。
「ふつつかものですが、よろしくおねがいいたします」
そうしてきちんと座って頭を下げる。
優雅に上がったその顔は、もう泣いてなくて清々しかった。
「うん。じゃあ、久しぶりに一緒に寝ような」
「はい。初夜ですね。たくさん励まさせていただきます…可愛がってくださいませ」
「うん…俺はそーゆー教育を間違った気がしてる…とりあえず、ご飯、食べようか」
「はい。お手伝い、致します」
ということで、一先ず出来上がった夕飯を一緒に食べることになった。
後のことは後で考えよ。
だって、俺の可愛い子が嬉しそうに寄り添ってくるから。
幸せで、たまんない。
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