第36話 仮入部編⑤
前書き
この回には実在の楽曲の歌詞が登場します。
法律で定められた引用の条件を満たすため、引用した部分を『』で囲み、後書きに楽曲名と作詞作曲者名を明記します。
本文
「バンドを結成したのは良いけど、何の曲を演奏するの? 私、最近の曲は全然知らないわよ」
「じゃあ津軽海峡・冬景色か天城越えにしますか?」
「それは昔過ぎるわよ! あなた、その歌の時代にはまだ生まれてないでしょ!」
「じゃあどうしましょうか?」
「この曲にしようよん!」
レイナはどこからか楽譜を取り出し、得意気に掲げた。
「あ、これ知ってます! 少し昔のアニソンですよね?」
「僕、このアニメハマってたなぁ。これにしようよ! バンド向きの盛り上がるような曲だし」
「私もこの曲は知ってるけど、織田先生がわからないと思うわ」
ユリはそんな懸念を口にすると、織田の方をチラリと見て様子を伺った。
「そんなことないですよ〜、私もこのアニメのDVDを買って見てましたから。授業時間を潰して、教室で上映会を開いたりもしましたね〜」
織田は過去の生徒達との思い出を回想して、しんみりとしている。
教師が授業時間を勝手に潰してアニメ鑑賞をしたことを武田が知れば、卒倒するレベルのショックを受けるであろう。
「先輩、楽曲が決まりました!」
「OK! それじゃあ準備でき次第、始めていいよ」
いざ歌うとなると途端に緊張の気持ちが襲ってきて、チカの鼓動は信じられないほど速くなっていた。
心を落ち着けるために胸に手を当てて深呼吸をすると、力強くマイクを掴んだ。
「皆さん、今日は私達のために集まってくれてありがとうございます! それでは聞いてください、God knows!」
「フゥーーー!!」
チカが大声で宣言し終わると同時に曲のイントロが流れ始め、観客達が黄色い歓声をあげた。
『乾いた心で駆け抜ける ごめんね何もできなくて 痛みを分かち合うことさえ あなたは許してくれない』※
普段のぼんやりした様子からは想像できない、鈴を転がすような美声でチカは歌っている。
観客達は皆、彼女の声に聞き入っていた。
『無垢に生きるため振り向かず 背中向けて去ってしまう on the lonely rall』※
サビの直前でチカは大きく息を吸い込んだ。
『私ついていくよ どんな辛い世界の闇の中でさえ きっとあなたは輝いて』※
「ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイ!」
サビに入って盛り上がると、観客達は立ち上がり、拳を振りながら合いの手をいれ始めた。中には激しくジャンプをし続けるような熱狂的な生徒もいた。
『超える未来の果て 弱さ故に魂こわされぬように my way 重なるよ いまふたりに God bless…』※
チカの歌声を聞きながら、軽音部の上級生達が何やら耳うちでひそひそと会話をしている。
「ねぇ、さっきの私達の演奏よりも盛り上がってない?」
「あのボーカルの子のレベルが段違いなのよ。将来は歌手になるかもしれないわね……」
『あなたがいて 私がいて ほかの人は消えてしまった』※
Cメロに入ると先程までの盛り上がっていた雰囲気とは打って変わって会場は静まり返り、静かにただ歌声に耳を傾けた。
『淡い夢の美しさ描きながら』※
「皆さん行きますよ! せ〜の!」
『傷跡なぞるーー!!』※
部室に敷き詰められた生徒達が一斉に発した声は、校舎の外にまで響いた。
『だから 私ついていくよ どんな辛い世界の闇の中でさえ きっとあなたは輝いて』※
「おおーー!」
「ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイ!」
ラストのサビが始まり、会場の熱気は最高潮に達した。
『超える未来の果て 弱さ故に魂こわされぬように my way 重なるよ いまふたりに God bless…』※
「聞いてくれてありがとうございました!」
演奏が終わるとバンドの五人はペコリと頭を下げた、ステージから下りた。
「最高だったよー!」
「超上手!」
「アンコール!」
「格好良かった! 結婚して!」
観客達からの熱いエールが彼女達に投げかけられた。
「皆、素晴らしい演奏だったね!」
「あ、先輩! ありがとうございます!」
「特にボーカルの君。その美声は千年に一度の逸材だよ! 良かったらうちに入らない?」
「え、私がですか!?」
「活動日数はそこまで多くないからプライベートもきちんと確保できるよ。君みたいな子に来てもらえると嬉しいな!」
「わかりました。入ります!」
「本当!? 嬉しいな! じゃあこっちに来て、入部手続きを……」
チカは上級生に伴われて部屋の奥へと連れていかれた。
「色んな部活を体験できて楽しかったですね〜」
軽音部の後も色々な部活を巡り、既に空には月が浮かんでいる。四人は駅前のベンチに座って談笑している。
「まさかチカが軽音部に入るとは思わなかったわ。絶対にDQNに染まらないでよ! 急にスカートの丈を短くしたり、髪をモヒカンにしたりしたら許さないんだからね!」
ユリは人差し指をビシッと向けながら、強い口調で言った。
「そんな心配しなくて大丈夫ですよ。ところでユリちゃんはかるた部からの勧誘どうするつもりなんですか?」
「ちょっと考えてみたんだけど、せっかくだから入部することにしたわ。何かに熱中するのも青春だと思うの!」
「そうなんですね、とっても良いことだと思います! リョウコちゃんは元々バドミントン部に入る予定でしたよね?」
「うん、そうだよ。僕としてはレイナにも入部して欲しいんだけどね。色々な運動部から勧誘来てるんでしょ? せっかく才能あるんだから、何か運動した方が良いと思うよ」
「んー、別に運動なら休日にプライベートでもできるし、それに何より私はバイトでお金を稼ぎたいんだよん! 貧乏から脱却して皆と女子高生らしい生活を送りたいんだ!」
「確かにバイトをすることも大切な青春の一ページになるかもしれないわね。でも、ちゃんと勉強もしないと駄目よ」
「わかってるよん! もうこんな時間だし、そろそろ帰らないかい?」
「そうね。今日は楽しかったわ、また明日!」
「さようなら〜!」
リョウコとユリが駅の改札に向かっていくのを手を振って見送ると、チカとレイナは自宅に向けて歩きだした。
後書き
楽曲名「God knows...」
作詞:畑亜貴 作曲:神前暁
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