第35話 仮入部編④

「いい? 少しでもヤバいと思ったらすぐに逃げるのよ!」


「ユリはビビり過ぎだって〜。軽音はそんなに怖い物じゃないよん!」


「それじゃあ開けますよ……」


 チカが軽音部の部室の扉に手をかけ、恐る恐る開けた。


「失礼します」


「おっ、いらっしゃーい! 君達も一緒に音楽を楽しもうぜーい!」


 四人が中に入ると、奇抜な格好をした女の上級生がやけに高いテンションで歓迎してくれた。


「ひいっ、レインボーの髪の毛!? やっぱりDQNの巣窟よ! 逃げないと……」


 ユリは一八〇度反転して、恐怖のあまり涙を流しながら部屋の外に出ようとする。


「待って、これはカツラだから! こういうファッションなの!」


「ぐすん……本当ですか?」


 上級生に引き止められ、ユリは足を止めると涙を拭った。  


「安心して! 私達も普通の高校生だよ。DQNなんかじゃないから!」


「コカインとかヘロインとか吸いませんか?」


「吸う訳ないでしょ! 君は私達のこと何だと思ってるのかな!?」


「なら良かった……変な目で見てしまってすみません!」


「まあこういう派手な見た目してたら怖いと感じちゃうよね。良かったら、私達の演奏を聞いていかない?」


「ぜひ、お願いします!」


「それじゃあ準備するから、待ってて」


 部室には四人以外にもたくさんの一年生が演奏を聞きに来ていた。どうやら大人気の部活のようだ。


 上級生達は楽器を用意を終えると、ステージに上った。

 ステージ上にはギター、ベース、キーボード、ドラム、ボーカルの五人のメンバーが立っている。先程、四人と話していたのはボーカルの生徒のようだ。


「お前らー! 盛り上がってるかぁー!」


「「「おおーー!」」」


 ボーカルの女子生徒がマイクを握って語りかけると、観客達が大声で応える。部室の中はライブ会場のような独特な雰囲気に包まれていた。


「す、すごい気迫ですね」


「私はこういう雰囲気、大好きだよん!」


「僕も何だか楽しい気分になってきたよ!」


 レイナとリョウコはワクワクした様子でステージの上を見つめている。


「それじゃあ聞いてくれ! ワン、ツー、ワンツースリーフォー!」


 ボーカルの合図と共に、激しいロック調の音楽の演奏が始まった。


「お前ら全員殺す ぶっ殺してやる 俺の熱い魂が お前を骨まで焼き尽くす」


「すごく物騒なこと言ってるわ…やっぱり危ない人達なんじゃ……」


「そういう歌詞なんですよ。怖がらなくて大丈夫ですから!」


 ユリは聞き慣れないロックに圧倒されて部屋から逃げ出そうとしたが、チカにがっちり腕を掴まれて阻止された。


「お前ら全員殺す殺す 残らず地獄へgo to hell それ! 殺す殺す殺す殺す 殺す殺す殺す殺す」


「ずっと殺すって連呼してるじゃない! どう考えてもヤバいわよ!」


「きっとロックっていうのはそういう物なんですよ」


「絶対違うと思うわ!」


「ほらレイナちゃん達を見てください。とっても楽しそうですよ!」


「「ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイ!」」


 リョウコとレイナは肩を組みながら、リズムに合わせてピョンピョンとびはねている。


「最近の若者の感性はよくわからないわね……」


 ユリは少し呆れ気味に溜め息をついた。


「皆、聞いてくれてありがとうー!」


「「「うぉーーー!」」」


 演奏が終わる頃には会場の中に一体感のような物が生まれていた。


「素晴らしかったよん!」


「僕のハートに響いたよ、ブラボー!」


 レイナとリョウコは激しく動き過ぎたせいで、まるでランニング直後のように汗だくになっていた。


「私達の音楽はどうだった?」


 演奏を終わりバンドメンバーがステージから下りると、ボーカルの生徒がチカ達の方に駆け寄ってきた。


「とっても感動したんだよん! あれこそが真の音楽だよん!」


「僕の魂に深く刻み込まれました。後でサインください!」

 

「楽しんでもらえたようで何よりだよ。よかったら君達も演奏していかないかい?」


「え、良いんですか!? ぜひ僕達にやらせてください!」


 リョウコとレイナはステージの上まで駆け上がった。


「ほら、ユリとチカもおいでよん!」


「私もですか!? じゃあ、せっかくですしやらせていただきましょうか!」


「私は遠慮しとくわ。あんまり目立つのは好きじゃないし」


「そんなこと言わずにユリちゃんも行きますよ!」


「え、ちょっとチカ〜!」


 チカは強引にユリの手を引っ張りながらステージに上がった。


「誰がどの楽器を使いますか?」


「僕、ドラムやりたい! 力強さを存分に発揮できそうだからね」


「私、ギターやるよん! 少しだけ経験あるんだよね」


「私はキーボードをやるわね。昔、ピアノを習ってたから」


「じゃあ私がボーカルやりますね。でも、そしたらベースをやる人がいませんね……」


「はいは〜い、私がベースやりま〜す!」


 ベースの担当が決まらずに悩んでいると、一人の女性がルンルンとステージに上ってきた。


「え、織田先生!? いたんですか?」


「私こう見えてバンドの経験あるんですよ。一緒に演奏しましょうよ〜!」


「じゃあお願いします!」


 教師である織田を加えた五人組のバンドがここに結成した。

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