第34話 仮入部編③
「かるた楽しかったですね〜」
「ユリとレイナがずっと札を取り続けてて僕は手も足も出なかったよ。僕の方が二人よりも筋肉があるはずなのにどうして……」
「あのねぇリョウコ、かるたに筋肉は関係ないわよ」
「え、そうなの!?」
かるた部の仮入部を終えた四人は、次の体験先を探して廊下をぶらぶら歩きしている。
「次はどこに行きましょうか?」
「僕、家庭科部に行ってみたい!」
「あの筋肉馬鹿のリョウコが家庭科に興味を持つなんて。やっと女の子らしくなったのね……」
ユリは感極まって、目から涙をこぼした。
「いや、ただお腹が空いただけだよ。家庭科室なら何かしら食べ物があると思って」
「私の感動を返してよー!」
そんな会話をしながら歩いているうちに四人は家庭科室に到着した。
「ごめんくださ〜い!」
チカは扉を開けると元気よく挨拶した。
「こんにちは。仮入部期間中は料理の体験会をしているんだけど、あなた達もやってく?」
四人が家庭科室に入ると、エプロンを来ている上級生達が暖かく迎えてくれた。
「ぜひとも僕に料理をさせてください! 料理をやりた過ぎてウズウズしてるんです!」
「リョウコは料理よりも食べるのが目的でしょ?」
「そ、そんなことは……」
「あはは、食べるのが好きな子は大歓迎だよ! ほらこっちにおいで!」
家庭科部員の上級生は四人を調理台に案内した。
「今回はハンバーグを作ってもらうよ。食材は一通り揃っているから自由に作ってもらって構わないよ。何かわからないことがあれば気軽に聞いてね!」
「わかりました!」
上級生がその場を去ると、四人は料理を始めた。
「さあ早く作るぞぉ!」
リョウコは玉ねぎをまな板の上に置いた。そして両手で包丁を持つと大きく振りかぶって、そのまま勢いよく振りおろした。
「めぇーーーーん!」
玉ねぎは一刀両断という言葉が相応しいほど、綺麗に真っ二つに切れていた。
「一本! お見事だよん!」
「一本じゃないです! 危ないですよ、リョウコちゃん! 怪我してしまいます」
「あれ? 料理ってこんな感じじゃなかったっけ?」
「それは剣道です!」
「リョウコは危なっかしいから、料理禁止!」
ユリは慌ててリョウコの手から包丁を没収すると玉ねぎを刻み始めた。
「私も手伝いますね!」
チカは包丁を持ってユリの隣に立ち、一緒に玉ねぎを刻む。
「ねぇねぇ、私も何かやりたい!」
「そうですねぇ……じゃあレイナちゃんはソースでも作ってもらえますか? ケチャップとウスターソースをフライパンで煮込むと美味しいハンバーグソースができるんですよ!」
「りょーかい!」
レイナはチカに言われた通りにソース作りを始めた。
料理下手のリョウコ以外の三人で手分けして作業すること数十分、遂にハンバーグが完成した。
「できました〜! 食べましょう!」
「いただきます!」
四人は声を揃えて元気よく言った。
「噛むと肉汁がジュワッと滲み出してきて、とってもジューシーで美味しいよん! チカの焼き加減が的確だったお陰だね!」
「レイナちゃんの作ったソースも美味しいですよ!」
チカとレイナはお互いの料理の腕を称えあった。
「僕は何もできなかった……」
「リョウコちゃんには今度、私が料理のやり方を教えてあげますよ」
「本当!? 僕、頑張るよ。女子力をアップさせるんだ!」
リョウコは瞳に炎を宿らせながら強く決意した。
「ようやく決心してくれたのね! 私も全力で応援するから、何か手伝えることがあったら言ってね!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。やっぱりユリは僕の大切な幼馴染みだね!」
「リョウコ……」
「ユリ……」
(何だかとっても良い雰囲気ですね……)
手を握って見つめ合う二人を、チカは微笑ましく眺めている。
なおレイナはそんな光景を気にも留めず、ハンバーグをひたすらパクパク食べ続けていた。
「ごちそうさまでした!」
昼休みからかなり時間が経ち、空は夕焼け色に染まっていたので四人はかなりお腹が空いていたようだ。かなり大きめのハンバーグを短時間で平らげてしまった。
「じゃあお片付けしましょうか」
「リョウコ、女子力アップの修行その一、皿洗いをやってごらんなさい」
「はい、ユリ師匠!」
元気よく返事するとリョウコはスポンジに洗剤をつけた。
「さて、洗うぞ! あっ……」
リョウコが皿を持った瞬間に手から滑り落ち、その直後ガシャーンという音と共に皿がバラバラに割れた。
「大丈夫、怪我は無い!?」
音を聞きつけて、上級生が慌てて駆けつけた。
「先輩、ごめんなさい。ちゃんと弁償します……」
「リョウコが女の子らしくなるにはまだまだ時間がかかりそうね……」
ユリは腹の底から大きな溜め息をついた。
片付けが終わると、四人は家庭科室を後にして次の目的地を探し始めた。
「お腹いっぱいですね〜。次はどこに行きますか?」
「やっぱり高校の部活と言ったらあれしか無いよん!」
「あれとは何でしょうか?」
「けいおん!」
「軽音部ですか、楽しそうですね! 行ってみましょうか!」
「駄目よ! 軽音だけは絶対に駄目!」
ユリは必死の形相で軽音部へ行くことを阻止しようとしている。
「そんなに血相を変えてどうしたんですか!?」
「軽音部っていうのはDQNの巣窟なのよ! チャラチャラした男女が集まって飲酒や喫煙、そして薬物なんかに手を出す危険な集団なのよ」
飲酒に関してはユリも手を出しているはずだが、そこは棚に上げて軽音部がいかに悪いかを熱く語った。
「ユリちゃんの偏見がすごいです……」
「まあまあ、とりあえず行ってみるだけ行ってみようよん! 危なそうだったら逃げればいいしさ」
「もう、仕方ないわね」
レイナの説得でユリが折れ、四人の次の行き先は軽音部に決まった。
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