第2章 仮入部〜ゴールデンウィーク

第32話 仮入部編①

「今日は放課後に部活動の仮入部があります。興味のある人はこの後、各部活動の活動場所に行ってみてくださいね。それでは解散です!」


 ホームルームが終わると一年A組の生徒達はそれぞれ興味のある部活動の仮入部に向かったり、帰宅するなりしてバラバラに散っていった。


 教室がガラガラになった頃、チカの机にレイナ、リョウコ、ユリの三人が集まってきた。


「ねえねえ、チカはどこか部活とか入るのかい?」


 レイナは可愛らしく首をかしげた。


「特にどこかの部活に入るつもりは無いですね。皆はどうですか?」


「私も部活に入るつもりは無いねぇ。アルバイトを沢山してお金をじゃんじゃん稼ぎたいからさ!」


 心なしか、レイナの目には¥マークが浮かんでいるように見える。


「私も何も入らないつもりよ。運動神経は壊滅的だし、何か文化的な才能がある訳でもないから」


「僕はバドミントン部かな。昔からずっと続けてるからね!」


「皆、どうするか決まってるんですね」


「でもせっかくだから僕は仮入部には行ってみたいな。色々な部活を経験するめったにないチャンスだからね」


「そうですね! まずはどこから行ってみましょうか?」


 四人は仮入部を周る順番を相談しながら教室を後にした。






 





「かっとばせーリョウコ! かっとばせーリョウコ!」


 レイナはメガホンを手にリョウコに熱い声援を送っている。


 四人が最初に訪れたのはソフトボール部だ。現在、部員が投げたボールを打つ体験をしている最中だ。


「毎日の筋トレの成果、見せてあげるよ。僕のフルスイングを喰らえ!」


 リョウコは己の魂をバットにこめて全力で振った。

 しかし、ボールはバットに命中することなくキャッチャーミットに収まった。


「リョウコ三振だよん! 交代して!」


「絶対に打てると思ったんだけどな〜」


 リョウコは悔しそうに拳を地面に打ちつけた。

 現役ピッチャーの球は思っていたよりも速かったようで、筋肉だけで太刀打ちできるほど甘くはなかったようだ。


「私の番だよん! ピッチャーびびんなよー!」


 リョウコの次にレイナがバッターボックスに立つと、ピッチャーの手からボールがものすごい速度で放たれた。


「お前の球は見切った……」


 レイナは流れるような動きでバットを振ると、見事に豪速球に命中しカキーンと気持ちの良い音を立てる。


「やった、打てたよん! すっごく飛んだよん!」


 レイナの打ったボールは空高く飛んでいき、遂には学校の敷地外に出てしまった。

 

 レイナが喜びながらジャンプしていると、ピッチャーをしていた上級生が駆け寄ってきた。


「あんなに素晴らしい場外ホームランを打たれたのは初めてだよ! これは私の宝物だ。君のような逸材に持っていて欲しい!」


 ピッチャーの上級生はレイナの掌にボールを乗せた。有名なプロ野球選手のサインボールだ。


「わーい! ありがとう!」


 レイナがサインボールを貰うと、四人は次の部活の活動場所へと向かっていった。










「チカ、頑張るのよ! 思いっきり決めて!」


 ユリはチカに精一杯の大声で声援を送っていた。その横ではレイナが楽しそうにブブゼラを吹いている。


 彼女達はソフトボール部の体験を終えた次に、サッカー部の体験をしにきていた。

 チカはサッカーゴールの前で上級生とPK対決をしている。


「いきますよ〜、そいやっ!」


 チカが気合をこめて思い切りボールを蹴ったものの、ボールはコロコロと地面を殺がるだけでキーパーに簡単に止められてしまった。


「あちゃー、失敗です!」


「次は僕がいくよ!」


 チカがトボトボとコートから退場すると、リョウコがコートに入りボールの前に立った。


「僕のシュートを喰らえ! 必殺ファイアートルネード!」


「おお! あの有名なサッカーアニメみたいだよん!」


 リョウコに蹴られたボールは、砲弾のように勢いよく一直線にゴールに向かっていった。


「確かに速いけど、歴戦のキーパーである私には勝てないよ!」


 キーパーは足をバネのようにしてボールに飛び込み、リョウコのシュートを簡単に止めてしまった。

 

「くっそー! やっぱり現役部員には勝てないかぁ……」


「私もやるよん!」


 リョウコの次にレイナがコートに立った。


「いっくよーん! 必殺デススピアー!」


 レイナに放たれたシュートはまるで瞬間移動するかのように一瞬でゴールに近づき、キーパーは反応できずに一歩も動けないでいた。

 そしてそのままゴールに入りレイナがPK対決に勝利した。


「なんて速度なんだ……君は今まで会った中で一番のプレイヤーだよ。ぜひ私の宝物をもらってくれ!」


 サッカー部のキーパーはレイナに、有名なJリーガーのサインボールを渡した。


「またサインボール!? まあ、ありがたくいただくよん!」


「それじゃあ、次の部活に行ってみましょう!」


 四人はサッカーコートを後にして次の部活の活動場所へと歩いていった。









「楽しかったですね〜。そろそろ帰りましょうか」


 四人はサッカー部の後、テニス部やバスケ部やバレーボール部など様々な部活を周った。

 既に最終下校時刻は過ぎており、夕日は沈みかけていた。


「これだけたくさんのサインボールを持って帰るのは大変だよん……」


 レイナの両手には大量のサインボールが抱えられていた。色々な運動部で活躍した結果、上級生達からサインボールを渡されたのだ。


「運動部ばっかりで私は何もできなかったから、明日は文化部に行ってみたいわ」


「そうですね!」


 夕日が沈み空が真っ暗になった頃、四人は駅に到着して別れた後それぞれの家に帰宅した。

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