第26話 スプリングセミナー編二日目➁
チカはユリをおんぶした状態でホテルの中に入った。周りの人々はそんな二人を見て訝しげな視線を向ける。
「いったんお部屋に戻りましょうか」
「そうね。階段は自分で上がれるから、降ろしてもらっても大丈夫よ」
「いえいえ、ユリちゃんはしっかりと体を休ませてください。このままお部屋まで運んであげますから」
「五階まで上がるのよ。大丈夫なの?」
「ユリちゃんのためならどんな事でも頑張れます!」
「そ、そういう事をストレートに言わないでちょうだい! すっごく恥ずかしいから!」
チカはユリを背負った状態のまま階段を上り、部屋に帰還した。
「リョウコちゃん、レイナちゃん、ただいま戻りましたー!」
「二人ともお帰り。ずいぶんと遅かったね」
「待ちくたびれたよん! そろそろ朝食の時間だから会場に向かおう!」
だいぶ前に部屋に戻っていたリョウコとレイナは、畳でゴロゴロしながらテレビを見ていた。
「汗を流したいのでシャワーを浴びてきても良いですか?」
「良いよん。でもお腹空いたからなるはやでお願いね〜」
「私もシャワー浴びたいんだけど」
「そうですか。なら時間短縮のため二人で入っちゃいましょう!」
「嫌よ! 別に二人で一緒に入ろうと一人ずつ入ろうとかかる時間は変わらないじゃない!」
「まあまあ、良いじゃないですか〜」
結局ユリはチカに押し切られ、二人で一緒に浴室へと入っていった。
「はぁ〜〜。汗をたっぷりかいた後のシャワーは気持ちいいですね!」
「そうね。運動は大嫌いだけど、運動の後のシャワーは大好きよ!」
二人は交代しながらシャワーを浴びる。
「ユリちゃん、背中洗いますねー」
「自分で洗うから良いわよ!」
「友達と背中を洗いっこするっていうのに憧れるんですよ。どうかお願いします!」
「仕方ないわね。そこまで言うなら洗ってもらおうかしら」
「それじゃあ失礼しますね〜」
チカは手に泡を沢山つけると、ユリの背中を洗い始めた。
「ちょっと背中にぷにぷにした物が当たってるんだけど」
「あ、すみません! 胸が当たってました」
チカは即座に謝罪すると背中洗いを再開した。
「ねえ、また当たってるんだけど! もしかしてわざとやってる?」
「すみません、本当にすみません」
「まあいいわ、それじゃあ交代ね」
ユリの背中を洗い終わると、次はユリがチカの背中を洗い始めた。
「どうかしら?」
「すごい気持ちいいです!」
「それは良かったわ!」
それから二人はシャワーを浴び終わり、体を拭くと浴室から退出した。
「それでは全員、揃いましたね〜? いただきます!」
「いただきます!」
全ての生徒が集まると朝食の時間が始まった。
ホテルの朝食は、皿の上に各々が食べたい物を乗せていくバイキング方式のようだ。
「唐揚げと、コロッケと、アジフライと……」
「レイナちゃん、野菜も食べないと健康に良くないですよ」
「わかったよん! これでOK?」
レイナは自分の皿に山盛りのポテトフライを乗せ、大量にケチャップをかけた。
「じゃがいもは野菜だし、トマトも野菜! これで健康になれるよん!」
レイナはアメリカ人の子供のような謎理論で成人病まっしぐらの揚げ物朝食を完成させたので、チカは慌てて大量のサラダをレイナの皿に投入した。
「チカは和食ばっかりだね」
レイナがチカの皿を覗きこみながら言った。
「ご飯、納豆、味噌汁、焼き魚、日本人の朝食といったらこれですよ!」
「こってりとした油が一切無いけど大丈夫?」
「むしろこってりした油は無い方が良いんですよ、レイナちゃん……」
好きな料理を一通り盛りつけ終わったチカとレイナは席に戻った。
既に料理をとり終わっていたユリとリョウコは先に食事を始めていた。
「よくそんなに鶏肉ばっかり食べられるわね……」
「鶏肉は筋肉に良いんだよ! ユリも食べる?」
「いや、遠慮しておくわ…」
リョウコの皿のほとんどは、鶏肉を使った料理で満たされていた。彼女は一瞬のうちに全ての料理を平らげると、牛乳を飲み始めた。
「牛乳もう三杯も飲んでるわよ! 大丈夫なの?」
「トレーニング後の牛乳は筋肉増強に効率的なんだよ! 後、胸も大きくなるらしいよ」
「それは本当!? 飲まなきゃ……牛乳を沢山飲まなきゃ……」
ユリは何かに取り憑かれたように牛乳のガブ飲みを始めた。
「そういえばさっきのランニング、リョウコちゃんとレイナちゃん、どっちが勝ったんですか?」
「僕が勝った!」
「いや、私が勝ったよん!」
「僕が勝ったって!」
「絶対、私が勝った!」
レイナとリョウコは互いに火花を散らしあっている。
「僕の方が一秒先にゴールを踏んだ!」
「私は頭がゴールラインを超えてたもん!」
「二人とも落ち着いてください! ここはいったん、引き分けということにしておきましょう」
「また引き分けかぁ……」
「次こそ決着をつけるよん!」
チカが諌めた事で、二人の争いはどうにか収まったようだ。
「デザートのプリン、とっても美味しいわ!」
「こっちのケーキも美味しいですよ。コーヒーに合います!」
四人は最初に盛りつけた分の料理を食べ終わり、デザートを食べていた。
「もぐもぐもぐもぐ」
「レイナちゃん、すごい勢いで食べてますね!」
「糖分は補給できるうちに補給しておかないと!」
レイナはスイーツを貪るように食べていた。彼女の家は経済的な余裕があまりないため、たまにしか甘い物を食べられないのだ。
四人がデザートを食べ終わったちょうどその頃、朝食の時間が終了した。
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