第24話 スプリングセミナー編一日目⑰
「はい、どーぞ!」
「うわぁ、アワアワです!」
レイナはグラスにビールを注ぎ、皆に配り始めた。
「はい、リョウコもどうぞ!」
「ありがとう!」
「ほいっ、これはユリの分!」
レイナはユリにもビールを渡そうとする。
「私はいらないわよ! 私は不良になんかならないんだから!」
「ユリちゃん、ちょっとだけでも飲んでみましょうよ〜」
「チカが言うなら少しだけ……本当に少しだけよ! ほんの一滴だけ!」
「はいよっ!」
レイナはユリにグラスを渡し、四人全員にビールが行き渡った。
「それじゃあ、行くよん! 乾杯!」
「乾杯!」
レイナの音頭に合わせて乾杯をすると、四人はビールを飲み始めた。
「ぷはぁーっ! 美味しいよん!」
「ゲホッゲホッ! ただ苦いだけじゃないの! こんなののどこが良いの!」
ユリは始めて口にする酒の味に咳込んでいた。
「確かに苦いけど、その中に身体に染み渡るような何かがあるよ。僕は好きかも」
「クリーミーな泡、そして何よりのどごしが良いですよ! のどごしが!」
「チカ、おじさんみたいな事を言わないで……やっぱり私はお酒は好きになれないわ」
「そんな人のためにこんなのも持ってきたよん!」
レイナはスーツケースの中から先程とは違うパッケージデザインのアルミ缶を取り出した。
「ふわよい〜!」
「ふわよい? 何よそれ」
「ユリでも飲めそうな美味しいお酒、ジュースみたいな味だよん!」
「嘘よ!? お酒なんて全部不味いに決まってるわ!」
「まあまあそう言わずに、騙されたと思って飲んでみてよん!」
レイナはグラスを無理矢理ユリの口に近づけて酒を飲ませた。
「あれ? 美味しい……甘くて美味しいわ!」
「でしょでしょ! 皆の分もあるよん!」
レイナは全員分のふわよいを空いている別のグラスに注いだ。
「これはこれで美味しいですね!」
「そういえば僕、煎餅持ってきたんだ! おつまみに皆で食べない?」
「流石、リョウコ! 気がきくねぇ」
リョウコは大量の個包装された煎餅をテーブルの上に乗せた。塩煎餅、醤油煎餅、胡麻煎餅など様々な種類の煎餅がある。
「お煎餅美味しいわね!」
「醤油煎餅がビールに合いますね。このしょっぱさがビールの味を引き立てます」
「チカ、本当におじさんみたいな味覚ね……」
「私の味覚はお父さんに似たんだと思います」
四人は煎餅をポリポリと食べながら未成年飲酒を満喫した。
酒を全て飲み終わり飲酒の証拠を隠滅した頃、時計の針は消灯時間の三分前を指していた。
「そろそろ消灯時間ですね。どうしましょうか?」
「僕はまだ眠くないけど、とりあえず電気は消しておこうか。先生達が見周りに来るかもしれないし」
リョウコとユリは布団に、チカとレイナはベッドに横たわった。
「よし、じゃあ暗くするよん!」
全員が自分の寝床についたのを確認するとレイナは部屋の電気のスイッチを切った。
「せっかくですし何かお話しながら寝ませんか? 暗い中で小さな声でお喋りするのもなんだか良いと思いませんか?」
「それじゃあモッツアレラチーズゲームをやろうよん!」
「流石に暗い中でゲームは無理じゃないですか?」
「大丈夫、モッツアレラチーズゲームは何も道具を使わずに自分の口だけで遊べるゲームだよん!」
「そうなんですね。それならやってみてもいいかもしれませんね!」
「名前からしてクソゲーの予感しかしないけど、一応ルールだけは聞いてあげるわ」
「クソゲーだなんてユリは酷いなぁ。きっと楽しいよん! それじゃあルールを説明するね!」
レイナはゲームの説明を始めた。
モッツアレラチーズゲームのルールをかいつまんで説明するとこうだ。
複数人で集まり、始まりの人を1人選ぶ。始まりの人から時計回りに順番に「モッツァレラチーズ」と言っていく。但し、前の人よりもハイテンションに言わなければならない。
ハイテンションになっているかどうかの判断はその場にいる全員で行い、ハイテンションになっていないと判断されると脱落となる。
「どう? 楽しそうでしょ?」
「どう考えてもクソゲーじゃない!」
「まあまあそう言わず、一回やってみようよん!」
「じゃあまず私から行きますね! モッツアレラチーズ!」
チカは普段話すのと同じくらいのトーンで言った。
「次は私がいくよん! モッツアレラチーズ!」
レイナは先程のチカの声よりも、少しだけ大きな声で言った。
「僕の番だね、モッツアレラチーズ! はい、次はユリの番!」
「え、私もやるの……モ、モッツアレラチーズ!」
そこから四人のターンを順番に繰り返していき、徐々に声が大きくなっていった。
「モッツアレラチーズ!! 少し喉が痛くなってきました……」
「じゃあそろそろ決着をつけるよん!」
レイナは大きく息を吸い込んで、腹の底から声を出した。
「モッツアレラチーーーーズ!!!!!!!!」
鼓膜を破壊するような大声が部屋の中に響き渡った。
それから数秒後、部屋の扉がピシャーンと音をたてて勢いよく開かれた。
「うるさい! もう消灯時間はとっくに過ぎているんですよ!」
「うわぁ! 武田っち!?」
レイナの声は外に聞こえる程大きかったようで、それを聞きつけた武田が部屋に入ってきた。 レイナ以外の三人は慌てて寝たふりをする。
「丹羽さん、あなたにはもっときつい指導が必要みたいですね!」
武田はレイナの手を掴むと部屋の外へと引きずり出した。
「ちょっと、どこに連れてかれるの!?」
「罰として今夜は私の部屋で寝てもらいます!」
「嫌だ、嫌だ!」
「大人しく来なさい!」
武田は両手でレイナの体を抱え上げると、そのまま自分の部屋へと帰っていった。
「行っちゃいましたね……」
「一日に何回も怒られて、もしかしたらレイナ退学させられるかもね……」
「ちょっとリョウコ! 不吉な事言わないで!」
「ごめんごめん、冗談だよ」
「一人いなくなるだけで、ずいぶん寂しくなってしまいましたね……」
チカは隣のベッドに誰もいなくなってしまい、心細そうに溜め息をついた。
「そういえばレイナがいなくなって一つベッドが空いたよね? 僕が使っちゃお!」
リョウコは助走をつけて空いているベッドに向けてダイブした。
「やっぱりベッドはふかふかで最高だ!」
「なら私もベッドで寝るわね!」
「ユリちゃん、ベッドは二つしか無いですよ」
「なら、こうすれば良いのよ!」
ユリはふらふらとした足取りでベッドの方まで歩くと、そのままチカのベッドの中に侵入した。
「ちょっと、ユリちゃん!?」
「うふふ、一緒に寝ましょう!」
「顔が真っ赤です! ユリちゃん酔ってるんですか!?」
少し前までは普通に会話していたはずだが、今になって突然アルコールが体に回ってしまったようだ。
「大好きよ、チカ。私のお姫様……」
「ユリちゃん、正気に戻ってください!」
ユリはチカに自分の体を密着させると、そのまま深い眠りについた。
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