第22話 スプリングセミナー編一日目⑮

「気持ち良かったですね!」


 二周目のサウナを終え、四人は脱衣所で服を着ている。


「ずいぶん体が暖まったわね。これならこの後の自習時間も頑張れるわね!」


「え、自習時間!? な、何ですかそれ……」


 ユリの口から出た自習時間というワードを聞いて、チカの顔は色を失った。


「嘘でしょ、ちゃんとスケジュールチェックしてないの!?」


「普段から『なんくるないさ~』の精神で生きているので……」


 なんくるないさとは沖縄の方言で、なんとかなるさという意味である。


「そんなんでよく今まで生きてこられたわね……ちゃんと説明してあげるから耳の穴をかっぽじて聞きなさい!」


「はい、お願いします!」


「入浴時間が終わったら九十分の自習時間が始まるわ。今日勉強した事を復習しても良いし、明日の事を予習しても良い時間よ」


「それ絶対寝るやつじゃないですか……」


「私が寝る暇が無いくらいみっちり教えこんでおげるから安心してね!」


「ひぃぃ……お手柔らかにお願いします……」


 そんな話をしている間に四人は服を着終わり、暖簾をくぐり外に出た。


「あ〜、気持ちいいわ〜!」


「あ、織田先生!」


 大浴場から少し歩いた所にある休憩スペースのマッサージチェアに、織田が腰かけていた。

 チカは織田を見つけると駆け寄っていった。


「あら、明智さん。お風呂上がったんですね〜」


「先生はだいぶ前に上がったはずですが、お部屋には戻らないんですか?」


「生徒達が全員上がるまではここで見てなきゃいけないんですよ〜」


「大変ですね、お疲れ様です!」


「うふふ、ありがとう!」


 織田とチカが二人で話しているとそこにレイナが小走りで近づいてきた。


「織田っち! 織田っち!」


「丹羽さん、どうしたんですか〜?」


「お風呂上がりといったら瓶に入った牛乳だよね! だからさ私達に奢ってくれない? お願い〜!」


 レイナは眩い笑顔で織田にお願いした。

 そこに遅れて、ユリとリョウコが歩いてきた。


「駄目よ、レイナ! 先生におねだりするなんて流石に図々しいわ!」


「大丈夫ですよ〜。奢ってあげちゃいます!」


「え!?」


 あっさりと承諾した織田に対し、ユリは思わず驚きの声をあげてしまった。


「他の生徒達には秘密ですよ〜」


「織田っち、ありがとう! 先生の鑑だよ!」


 織田がマッサージチェアから立ち上がり、近くにある自販機の前に歩いていくと、四人もその後を追いかけた。


「さあ、好きなのを選んでください!」


 自販機には普通の牛乳だけでなく、コーヒー牛乳、いちご牛乳、フルーツ牛乳、そして飲むヨーグルトなど様々な飲み物がラインナップされている。


「じゃあ私、コーヒー牛乳にします! 少量ですがカフェイン入ってそうですし」


「私はフルーツ牛乳にするよん!」


「私はいちご牛乳にするわ。甘いの大好きなのよ!」


「僕は普通の牛乳かな」


 織田は自販機に千円札を投入すると、四人分の牛乳を購入した。


「はい、ど〜ぞ!」


「かんぱ〜い!!」


 四人は瓶を軽くぶつけて乾杯をすると、蓋を開けてグビグビと牛乳を飲んだ。


「うん、とっても美味しいよん!」


「サウナでたっぷりと汗を流した後に飲む牛乳は最高ですね!」


「うふふ、喜んでもらえて良かったわ〜」


 四人は牛乳を飲み終えると空き瓶をゴミ箱に捨てた。


「先生、ありがとうございました!」


「どういたしまして〜。皆さん、この後の自習時間頑張ってくださいね〜」


 四人は織田とお別れして、休憩スペースを後にした。







 日中、勉強をしていたAホールに生徒達は再び敷き詰められている。

 時計の針は午後十時を指しており、自習時間も残すところ十五分程度となっていた。


「旧石器時代は打製石器、新石器時代は磨製石器よ! 覚えた?」


「覚えました!」


「本当に?」


「た、多分大丈夫! だと良いんですけど……」


 チカは隣の席に座っているユリから、この日やった日本史の内容を教わっている。


「じゃあ問題を解いてもらうわね」


 ユリは自分の鞄を漁ると日本史のワークを取り出した。


「このページの小テストを解いてみて。今日学んだ事が完璧なら百点をとれるはずよ!」


「はい! 頑張ります!」


 チカはシャーペンを持つと問題を解き始めた。

 

 十分程経過すると、シャーペンを動かす手が止まった。


「終わりました!」


「それじゃあ採点してみるわね」


 ユリは赤ペンを持つと、小テストの採点を始めた。

 採点が進むにつれてユリの顔つきがどんどん険しくなっていった。


「ユリちゃん、どうでした?」


「五点よ……」


 ユリは声を絞り出すように言った。


「え、何て言いました? 良く聞こえないのですが」


「だから五点だって言ってるでしょ! このおバカ!」


 真っ青だったユリの顔色が一瞬のうちに真っ赤に変わった。


「ご、五点!? そんなはずは無いです! 今回のはそれなりに自信があるんです!」


「あなた、磨製石器の時代は江戸時代って解答してるわよ! そんなんでよく自信があるなんて言えるわね!」


「磨製石器は江戸時代の物ではないのですか!?」


「正直、チカがそこまで勉強ができないとは思わなかったわ……これは基礎の基礎から丁寧に教えてあげないといけないみたいね……」


 ユリは大きく溜め息をついた。


「自習時間終了です。この後は速やかに部屋に戻り、消灯時間までには寝るように!」


 自習時間が終わり、生徒達はそれぞれの部屋へと帰り始めた。

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