第21話 スプリングセミナー編一日目⑭

「サウナの次は水風呂へ行こうか!」


 リョウコが最初に水風呂に入ると、他の三人も後に続いた。


「あ〜、最高!」


「リョウコちゃん、本当にこれ気持ちいいんですか? ただ寒いだけの気がするのですが……」


「リョウコぉーー! これ普通に死ぬわぁ!」


「寒いよん、寒いよん……」


 気持ちよさそうな顔をして水風呂に浸かっているリョウコに対して、他の三人は冷たさのあまりガタガタと震えていた。


「ずっと同じ姿勢を保っていると、だんだんと気持よくなってくるよ。試してごらん」


 三人は体育座りの姿勢をとると、リョウコに言われた通りにその姿勢を維持し続けた。


「あ、何だか気持よくなってきました!」


「水の中のはずなのにあったかい!」


「確かに何だかポカポカしてきた気がするわ」


 水風呂の中で同じ姿勢を維持し続ける事でサウナで温まった体が周りの水温を上昇させ、体の周りに温かい水の層を作り出す。こうして、体がポカポカして気持ちいいと感じるのだ。


「さて、お次は外気浴だよ。ついておいで!」


 水風呂に一分程浸かると四人は立ち上がり、外風呂の方へ歩いていった。

 

 





 横開きの扉を通り過ぎると外に出た。空は既に真っ暗になっており、星が輝いている。


「皆、ここに座ってね!」


 外には沢山の椅子が並べてあり、そこに四人は一列に腰かけた。


「楽な姿勢を維持してごらん」


 リョウコに言われた通り、各々が一番楽な姿勢でだらんとリラックスした。


「夜の風が気持ちいいですねぇ……」


「あれ、なんだか肌がパリっとする気がするよん!」


「本当だわ! 何だか不思議な感じ!」


「ふふっ、感じるかい? それが整うという感覚だよ。これこそサウナの醍醐味さ!」


「整うってとても良い気分ですね! 私もサウナにハマりそうです!」


 それから数分間外気浴を続け、四人は整うという不思議な感覚を満喫した。







「外気に触れ続けたら少し冷えてしまいましたね。次は露天風呂に入ってみませんか?」


「ここのメインは露天風呂だものね。私、ずっと楽しみにしてたのよ!」


 四人は椅子から立ち上がると踊るような足取りで露天風呂へと入っていった。


「はぁ〜、暖まるわぁ……」


「なんだかお湯が黒っぽいですね」


「温泉の成分で黒く染まっているのよ。美肌効果があるみたいよ!」


 露天風呂で四人がくつろいでいると、ちゃぷんと音を立てて誰かが浴槽に入ってきた。


「あ、武田っち〜!」


「武田っちじゃありません、武田先生でしょ!」


「武田先生こんばんは!」


 四人はペコリと頭を下げて武田に挨拶をした。

 

「先生も温泉を楽しみに来たんですか?」 


 リョウコは武田の隣に移動して話しかけた。


「ええ、一通り仕事が片付いたので」


「疲れた体にはやっぱり温泉が効きますよね!」

 

「私が疲れている原因は主にあなたと丹羽さんなんですけどね」


「迷惑かけてばっかですみません……」


 リョウコがうなだれていると、レイナが武田の方へ少しずつ近寄って来た。


「どうしたんですか、丹羽さん?」


「うりゃぁー!」


「きゃぁーー! 何するんですか!?」


 レイナは突然、両手で武田の胸を鷲掴みした。


「武田っち、おっぱい超大きい〜! 流石、大人だね!」


「やめなさい! 離しなさい! この変態!」


「良いではないか〜、良いではないか〜」


「良い加減にしなさい!」


 武田はレイナの手を無理矢理引き剥がすと、怒って室内へと戻ってしまった。


「レイナ、後でこっぴどく叱られても知らないわよ」


「だって教師のおっぱいなんてなかなか拝めないよ。レアだから触っとかないと!」


「レアだから触るってどういう事よ!」


 レイナとユリが騒いでいると、浴槽の中にまた誰かが入って来た。


「あらあら皆さん賑やかですね〜」


「織田っち、やっほ〜!」


「丹羽さん、やっほ〜!」


 織田はレイナの隣に腰を下ろした。


「あ、そうそう丹羽さん」


 織田は突然何かを思い出したような様子でレイナに話しかける。


「どしたん、織田っち」


「あんまりカオリをいじめないであげてくださいね。さっきすれ違った時、いきなり胸を触られたって顔を真っ赤にしてましたよ」


「ん? カオリって誰だっけ?」


「あ、いけない! 職場では名前で呼ぶなって言われてたんだったわ……」


「もしかして武田っちの事?」


「そうです! 武田先生の事をいじめるのはほどほどにしておいてください。あの子、生徒の前では気丈に振る舞ってるけど意外と心が弱いんですよ」


「はい、わかりましたぜ!」


 レイナは大きな声で元気よく返事した。


「それにしても夜空が綺麗ですね〜」


「確かに星がいっぱいだね!」


「田舎だと街の光が少ないですからね〜」


 織田とレイナは空に浮かぶ美しく星を、うっとりと眺める。


 彼女達が通っている高校は、関東のそれなりに開発されている地域であるため、夜空の星を見られる機会が少ないのだ。


「あれは春の大三角ね!」


 ユリが夜空を指さして言った。


「春の大三角ってどれですか?」


「ほら、あれよ! あれ!」


 ユリが一生懸命、春の大三角の場所を教えようとするがチカは全く理解できないでいた。


「うしかい座のアルクトゥールスとおとめ座のスピカ、そしてしし座のデネボラを結んでできる三角形よ! ちゃんとよく見なさい!」


「え? どれがどれでどれでしたっけ?」


 詳しい説明を聞いたが、チカはかえって混乱してしまったようだ。


「僕も全くわかんない。星が全部同じに見えるよ」


「もう! 今度、あなた達にはみっちり星座について頭に叩き込んでやるわ!」


「まあ! 滝川さんは勉強熱心なんですね〜!」


「べ、別にそんな事はないです! 得意な事が何も無いのでせめて学力だけでもと……」


「立派な事ですよ、もっと自分に自信持ってください!」


「あ、ありがとうございます!」


「それじゃあ私はそろそろ上がりますね〜!」


 織田は浴槽から出ると、室内へと戻っていった。


「僕達もそろそろ上がろうか」


「その前にもう一回だけサウナに入りませんか? ちょっとハマってしまって」


「いいわね! 私も行きたいわ!」


 四人は再びサウナルームへと足を運んだ。

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