第20話 スプリングセミナー編一日目⑬
「サウナに入る前には水分補給だよ! だいたいペットボトル一本分の水が必要だから、ちゃんと飲んでね!」
サウナは大量の汗を流す事になるため、自分が気づかない内に脱水症状に陥りやすい。そのため、水分を大量に摂取することが必須なのである。
リョウコが用意した500mlの水を四人はグビグビと飲み干した。
「お風呂に入ってとても温まったので水がとても美味しく感じます!」
「皆ちゃんと飲んだね? それじゃあ行こう!」
ペットボトルをゴミ箱に捨て、四人はサウナルームに入室した。
このホテルのサウナはいわゆるタワーサウナで、椅子が階段状になっているおり、部屋の壁にはテレビが埋め込まれている。
「あっちぃーー! 七十度だって!」
サウナルームに入るなりムワッとした熱気に襲われたレイナは温度計を見ると、想像以上の暑さに驚いた。
「上に行けば行く程、暑くなるよ。一番上の段は九十度になっているよ」
リョウコは躊躇なく一番上の段へと上り、椅子に腰を下ろした。
「リョウコちゃん、すごいですね! せっかくですし私も一番上に行きますね!」
「私も行ってみるわね!」
「え〜、皆が行くなら私も挑戦してみるよん!」
左からリョウコ、ユリ、レイナ、チカの順番で一番上の段に一列に座った。
「かなり暑いですね……」
チカは早くも汗まみれになっている。
「せっかくだし、誰が一番長く入ってられるか勝負しようよん!」
「駄目だよレイナ。サウナの入り過ぎは体に良くないんだ。勝負なんてしたら無理して長く入っちゃうでしょ」
「じゃあどれくらいで出ればいいんだい?」
「僕はいつもだいたい十分くらい入ってるよ。あそこに時計があるからあれで時間を計ろう」
リョウコは壁に設置された十二分計を指さした。
「ピッチャービビってるヘイヘイヘイ! よっしゃ、打ったー!」
レイナはテレビで放送されている野球の試合を興奮しながら観戦している。
自分の応援するチームが点を入れた時は雄叫びを上げるなど、かなりのはしゃぎようであった。
「はぁはぁ……息が切れたよん……」
サウナの中の酸素は通常の半分程度となっている。そんな状況の中で大声を出せば酸素が足りなくなるのは当然の事だ。
疲れたレイナは大人しくなって声を出さなくなった。
四人で黙々と汗を流し続けて数分間が経過した。サウナに慣れているリョウコは余裕そうな表情をしているが、他の三人は顔が真っ赤になっていて少ししんどそうな様子だ。
「レイナちゃん、どうかしましたか? さっきから私の事をじっと見ている気がするのですが」
「いやぁ、チカって意外とおっぱい大きいなぁって思って」
「え!?」
突然、レイナが変な事を言い出したためチカは少し動揺した。
「服の上からだと全然わかんないけど、脱いだら意外とすごいんだねぇ」
「そんな事ないですよ、Cあるか無いかくらいです。レイナちゃんの方が大きいじゃないですか」
「えへへ、そうかな?」
レイナはどこか誇らしげに笑いながら言った。
そして、手を伸ばしてチカの胸を優しく手のひらで包み込んだ。
「きゃっ!?」
「あはは、チカのおっぱいふわふわで気持ちいい!」
「もう、いきなり触るからびっくりするじゃないですか〜」
チカはクスリと笑い、レイナの頭を優しくなでた。
「ちょっとレイナ、そういう事はやめなさいよ! 破廉恥よ!」
「どしたの、ユリ? ユリもチカのおっぱい触りたくて嫉妬してるのかい?」
「ちちちちちちちち違うわよ! 確かに少し大きいなとは思ったけども、少し気になりはしたけども、触りたいとは……」
「そんなに触りたいなら別に触っても良いですよ。女の子同士ですし、減る物じゃありませんから」
「あなた意外とオープンな性格なのね……まあそこまで言うなら遠慮なく触らせてもらうわね」
ユリは恐る恐る手を伸ばすと、指先で軽くチカの胸をつついた。
(チカ、すごく柔らかい……良い気持ち……)
ユリは目を閉じて、気持ち悪い位に顔がニヤニヤしている。
「どうだい、ユリ? チカはぺったんこのユリには無い物を持ってるでしょ?」
その言葉を聞くと、ユリはレイナの事を怒りの眼差しで睨みつけた。
「誰がぺったんこですってぇ? 私だって少しはあるわよ。ほら、よく見なさい!」
「ユリは紛うことなきぺったんこだよ。だって真っ平らだもん。一ミリの傾斜も無い平野」
「へ、平野!? そんなはずは無いわ! 小高い丘くらいはあるはずよ。触ってみなさい!」
ユリはレイナの前に立つと、レイナの手を無理矢理掴み、自分の胸を触らせた。
「いやぁ、何の弾力も感じない。まるでまな板に手を当てているみたい」
「そ、そんなぁ……」
ユリはショックのあまり膝から床に崩れ落ちた。
「胸が小さくだって気にする事ないよ! 運動とかするのには胸が無い方が便利だよ!」
「胸があるのに運動もできるリョウコに言われても説得力が無いわ……」
チカやレイナより若干小さいものの、リョウコもそれなりに立派な物を所有していた。
「ユリも僕みたいに胸筋を鍛えたらどう? 少しは大きくなると思うよ」
「無理無理、私に筋トレは無理よ。体が壊れて死んでしまうわ!」
「胸の大きさは遺伝による要因が強いと言われていますよね」
ユリは頭の中に自分の親戚の女性をできるだけ思い浮かべた。
「母も祖母も曾祖母も真っ平らだわ…望みは潰えたわ。全て終わりよ! あはははははー!!」
ユリは絶望しすぎて頭のネジが吹き飛んだのか、甲高い声で笑い始めた。
「ユリちゃんがおかしくなってしまいました!」
「そんな時はこれだぁ!」
「ちょっとレイナちゃん!? その竹刀どこから出したんですか!?」
レイナはどこからか竹刀を取り出し、笑い続けるユリを思い切り叩いた。
「うっ……何があったか思い出せないけど、とんでもなく絶望していた気がするわ……」
「ユリちゃん、正気に戻ったんですね、良かったです!」
チカは目に涙を浮かべながらユリの事を強く抱きしめた。
「ちょ、ちょっとチカ、いきなりどうしたのよ!? 近い、近いわ! ゼロ距離で密着してるわよ!」
ユリはサウナで赤くなった顔を更に赤くしながら、チカを自分から引き離した。
その時、どこからか水が流れるような音がした。
「この音は何でしょうか?」
「皆、あれを見てごらん!」
リョウコが指をさした先には大量に積まれた石のような物があり、その上の蛇口から水が注がれている。
すると、その石からモワッとした熱気が発生して四人の方へとやって来た。
「わぁ! すごい暑さです!」
「これは僕が好きなロウリュウだね! 体の芯から温まるでしょう?」
「確かに体の内側までポカポカしてきた気がします! あとなんだか良い匂いがしますね!」
ロウリュウとはサウナの本場、フィンランドで行われている熱気浴だ。
加熱したサウナストーンにアロマ水を注ぐと、マイナスイオンを豊富に含んだ蒸気が発生し、一時的に体感温度が上昇していく。
この熱気とアロマのリラックスした空間で発汗作用が促進され、この上ない爽快感を得ることができる。
四人はロウリュウの熱気により、更に暑くなったサウナを楽しんだ。
「私、そろそろ出たいよん……」
「もうすぐ十分間経ちますね。出ましょうか」
暑くなった四人はサウナルームから退出した。
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