第13話 スプリングセミナー編一日目⑥
「お昼ごはん美味しかったですね!」
「だけどこの後は辛い辛い勉強の時間が待っているぞ〜」
「ちょっとリョウコちゃん、怖いことを言わないでください!」
「現実と向き合うんだよ、チカ! 僕だって勉強は好きじゃないけど頑張るから!」
昼食を食べ終えて、A組の生徒達は駐車場に向けて歩いている。
「お腹いっぱいになったらなんだか眠くなってきたなぁ……」
レイナは口を大きく開けてあくびをした。
「さっきバスの中でたくさん寝たじゃない。そんなんで今日一日を乗り切れるの?」
「カフェインで目を覚まして乗り切るよん。ホテルに自動販売機くらいはあるでしょ。そういうユリは大丈夫なのかい?」
「私は大丈夫よ。今はとっても元気だし、それにもともと勉強は得意だから!」
「ユリはどうしてそんなに元気なんだい? あっ、チカにご飯食べさせてもらったからか〜。ユリはチカが大好きだもんね〜」
ユリが異常に元気な原因はチカにご飯を食べさせてもらったからというのは事実だ。心を見透かされたユリは、いつものように顔を紅潮させた。
「別にチカが大好きな訳じゃないわよ!」
「そうなの? じゃあ良かった。チカは将来、私のお嫁さんになる予定だからね〜。毎日、美味しい料理を作ってもらうんだ!」
「そ、そんなの駄目よ! 絶対に認めないわ!」
ユリはこれまでにないくらい鋭い目つきでレイナを見つめて憤慨した。
「チカはモテるね〜」
「どういうことですか? リョウコちゃん」
チカは鈍感なのか自分が原因でユリとレイナが争っているのに気づいていないようだ。
そんな会話をして歩いているうちに一同は駐車場にたどり着いた。
「皆さん、それではバスに乗ってくださ〜い」
A組の生徒達は皆バスに乗り込み、それぞれ自分の座席に座った。
「もう既に長野県内ですのでホテルまで近いです。もうすぐ到着するので皆さん心の準備をしっかりしておいてくださいね〜。それでは出発進行!」
織田が車内のマイクを使ってアナウンスし終わった直後にバスにエンジンがかかり、駐車場を出発した。
数十分程走行していると窓の外に大きな湖が見えた。
「あちらに見えますのが諏訪湖でございま〜す!うふふ、こういうバスガイドさんみたいなの一度やってみたかったんです!」
織田がノリノリでバスガイドの真似事をしてから少しして、バスは遂にホテルに到着した。
長い長いバス旅がここに終了したのである。
「バスを降りたらフロントでいったん集合しますのでよろしくお願いしま〜す!」
生徒達はバスから降りると駐車場からホテルの方へ向けてぞろぞろと歩き始めた。
「あれがホテルですか〜。とっても大きくて立派ですね!」
チカが前方の建物を指さして言った。
「私、ホテルに泊まるのって小学校と中学校の修学旅行以来の三回目だからとっても楽しみだよん!」
「修学旅行以外でホテルに泊まったことが無いっていうのも珍しいわね。レイナは今まで家族旅行とかした事無いの?」
「あれ、ユリには言ってなかったっけ? うちはものすごく貧乏なんだよね〜。だから旅行とかは行く余裕が無いのだ!」
「そ、そうなのね……無神経な事を聞いてしまってごめんなさい」
レイナの身の上話を聞いて気まずい雰囲気になってしまったと感じたユリは、すかさず謝罪の言葉を述べる。
「あっはっは! 別に気にしなくていいよ! 貧乏なのは慣れっこなのさ!」
謝られたレイナは自分が貧乏な事など全く気にしていないようで、明るく笑い飛ばしていた。
話しながら歩いているうちにホテルの入口にたどり着いた。
自動ドアを通り過ぎると掃除の行き届いた綺麗で豪華なフロントに到着した。
「うっひょ〜すごい! シャンデリアだ! シャンデリアがあるよん!」
久しぶりにやってきたホテルにレイナはものすごくテンションが上がっている。
「こら、レイナ! ホテルのフロントは声が響くからあんまりうるさくしないの! 早く並ぶわよ!」
フロントではクラスごとに列が作られていたので、四人はA組の列に並んだ。
「皆さん揃いましたね〜? それではまずはそれぞれのお部屋に行って荷物を置いてきてもらいます。一時間後から勉強をしてもらいますので、それまではお部屋で休憩していてくださ〜い!」
集まっていた生徒達は解散すると、それぞれの班が割り当てられた部屋に向けて歩いていった。
「私達の部屋は『503号室』よね。しおりにはエレベーターは使用禁止と書いてあるから、階段で行かないといけないみたい。五階まで階段はさすがにきついわ……」
二百人以上いる生徒達がエレベーターを使うと一般客の迷惑になるため、階段を使わなければならないのだ。
「よし、誰が一番最初に部屋につくか競争だよん!」
レイナは勢いよく駆け出すと階段を一段飛ばしで上がっていった。
「僕に勝てると思わない事だね!」
レイナを追いかけるようにリョウコも階段を駆け上がっていった。
「元気ですね〜」
「全くあの二人ったら…鍵を持ってるのは私だから、どんなに早く着いても部屋には入れないのに」
勢いよく駆け出していった二人に遅れる形でユリとチカはゆっくりと階段を上がっていった。
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