第11話 スプリングセミナー編一日目④

「よし、これで僕の勝ちだぁ! なんとか最下位は免れたぞ!」


「リョウコ、ウノって言ってないよん! ペナルティとして二枚ドローね!」


「ううっ……おのれぇ……」


「リョウコちゃん同じ失敗三回目ですね。意外とうっかりやさんなんですね!」


 バスが高速道路を走っている間、四人はウノをして遊んでいる。


「そんじゃあ私が上がらせてもらうよん!」


 レイナが最後の一枚のカードを場に出したことでリョウコが最下位となりウノの勝負が終了した。


「うう……悔しい……もう一戦やろうよ!」


 リョウコはウノを言い忘れるという初歩的なミスで負けたのに納得がいかなかったのか、再戦することを求めた。


「え〜、もうここまでで何戦したと思ってるの? もう疲れたんだけど」


 そう言うと、レイナは口を大きく開けてあくびをした。


「確かに疲れたわね。ホテルに着いたら夜までぶっ通しで勉強するわけだから、ここらで少し休憩したいわ」


 ユリのまぶたは垂れ下がっていてとても眠そうな顔をしている。


「お願いお願い、もう一戦だけ! これが本当のラストだから! このままじゃ僕の気が済まないんだ!」


 リョウコは両手を合わせて必死に頭を下げてお願いした。

 

「もう仕方ないわねぇ……皆が良いならもう一戦やってもいいわよ!」


「私は昨日の夜にたっぷり寝たので全然大丈夫ですよ」


「ん〜、特別に一戦だけならやってしんぜよう。でも、これが本当に本当にラストだからね!」


「皆、本当にありがとう! それじゃあ最後の勝負スタートだ!」


 リョウコのわがままを皆が受け入れてくれたお陰で、ウノの最終対決が始まった。


 四人が順番にカードを出していき、勝負は順調に進んでいった。


「ウノ! 今回は言い忘れないよ!」


 手札の枚数が残り一枚になり、リョウコは声高に叫んだ。


「んじゃ次は私ね。ドロー2だよん!」


「それじゃあ私もドロー2です!」


「私もドロー2よ!」


 レイナが出したドロー2のカードの上にチカとユリもドロー2を重ねて出した。


「ぎゃぁぁぁ! 何てことしてくれたんだ貴様らぁぁぁ!!」


 三枚のドロー2カードが積み重なったことで合計六枚のカードを引かされることになったリョウコは、ショックのあまり喉が張り裂けんばかりの大声で叫んだ。


 あまりにも大きな叫び声だったため眠っていた生徒達も目を覚ました。


「ああっ……うるさくしてごめんなさい!」


 車内にいる全ての生徒から注目を浴びたリョウコは慌てて頭を下げた。

 

 それから気を取り直してウノを続行した。


「ウノ! 今度こそ……今度こそ勝てる!」


 それから色々とあり、リョウコの手札は再び一枚になっていた。


「んじゃ私のターンだよん! ドロー4!」


「私もドロー4です!」


「私もドロー4よ!」


 ドロー4カードの集中砲火を浴び、リョウコはなんと合計十ニ枚のカードを引かされることになった。


「あっ……あぁっ……」


 リョウコは突然、白目を向いてバタッと倒れて座席から落ちた。


「リョウコちゃん!? 大丈夫ですか!?」


「し、死んでる……」


「ちょっとレイナ! 縁起でもないこと言わないでちょうだい!」


 どうやらリョウコはショックのあまり気絶してしまったようだ。

 隣に座っていたユリは急いでリョウコを座席の上に乗せると、落ちないようにしっかりとシートベルトを締めた。


「ふぅ…これでもう大丈夫ね」


「大騒ぎして疲れたから私はもう寝るよん……」


 言い終わると同時にレイナは目を閉じて眠りについた。


「私達ももう寝ましょ! 勉強するために体力を温存しておきたいし」


「そうですね、おやすみなさい!」


 チカとユリも続けて眠りついた。







「皆さ〜ん! もうすぐ、お昼ごはんの時間ですよ〜。起きてくださ〜い!」


 織田のアナウンスで眠っていた生徒達は次々と目を覚ました。

 既に高速道路は抜けており、景色を見渡す限り今は長野県の一般道を走っているようだ。


「ふぁぁ……よく寝ました。もうお昼ですか」


「お昼ごはん楽しみだね!」  


 目を覚ましたチカとレイナが和気あいあいと話していると、ユリが今にも泣き出しそうな顔で振り向いた。


「ねぇ二人とも、どうしよう……リョウコが目を覚まさないの。もしかして本当に死んじゃったんじゃ……」


「そんな時にはこうだ! バシーン!」


 レイナは座席の下から竹刀を取り出すと、意識の無いリョウコに向かって勢いよく振り下ろした。


「どうして竹刀なんか持って来てるのよ!」


 突然のレイナの奇行にユリは頭が追いついていないようだ。


「今朝チカをぶっ叩いたのを、間違えてそのまんま持ってきちゃったみたい」


「いったい何を言っているの!?」


 そんなやりとりをしているうちにリョウコが目を覚ました。頭を右手でおさえている。


「いてててて……何故か頭がすごく痛い……あ、皆おはよう!」


「良かったリョウコ! 生きてたのね!」


 ユリはリョウコが目を覚ましたのがよほど嬉しかったのか、目に涙を浮かべながらリョウコを強く抱きしめた。


「ちょっとユリ、どうしたの?」


 リョウコは状況が理解できておらず、困惑した様子だった。


「皆さんバスから降りてくださ〜い。今日の昼食はここのお店で食べますよ〜」


 バスが停車すると生徒達はバスから降り、駐車場から昼食の店に向けて歩き始めた。


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