第4話 敏腕教師織田友美
廊下を全力ダッシュしたことで乱れた呼吸を整えて、チカとレイナは自分の席についた。
チャイムが鳴ってから二分近く経つが幸い授業担当の先生がまだ到着していなかったため、遅刻はバレずに済みそうである。
(確か次の授業は国語でしたね。早く準備をしましょう)
チカが教科書やノートを机の上に用意したのとほぼ同時のタイミングで教室の扉が開いた。
中に入って来たのはA組の担任の先生である織田だ。
「はーい皆さ〜ん、国語の担当は私で〜す! それでは早速授業を始めましょう」
「起立、礼、着席」
日直の生徒が号令をかけると二時間目の国語の授業がスタートした。
「今回学習するのは教科書の四ページ。まずは本文を音読してみましょう。皆さん起立してください!」
生徒達は全員、同時に起立したため椅子を動かすガチャガチャとした音の合奏が教室に響き渡った。
全員が立ったことを確認すると織田は大きく息を吸ってからハキハキとした声で音読を始めた。
「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている……それでは皆さん繰り返してください!」
織田が促すと生徒達は声を揃えて復唱した。
「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている」
「はい、今読んだところはテストにも頻出する重要な構文なのでしっかりと覚えてくださいね! それでは次の文章を……」
織田が読んだ文を生徒達が後から復唱するという手法で音読は進んでいった。
一時間目の退屈な数学の授業のせいで眠りかけていた生徒がチカやレイナの他にも数名いたが、全員しっかりと目が覚めていた。立ち上がって声を出すということは脳に良いのだ。
(今の私ならどんな問題でも解けそうです!)
チカは先程の休み時間に飲んだコーヒーのカフェインの効能も相まって、目も頭も冴えわたっていた。
「はい皆さん音読お疲れ様でした。元気いっぱいで良かったですよー!」
音読を終えると生徒達は席に座った。
「それでは細かいところを解説していきますねー。まずは最初の文章から……」
織田はポイントとなる部分を黒板に書いた。織田の板書はかなり見やすいもので、あとから見返すとすぐに授業内容を思い出すことができるようなものであった。
そして大半の生徒がノートに書き写したのを確認すると、口頭で解説を始めた。
「評論文では大切なことを最初に書きます。この文章で作者が一番言いたいことは日本はこのままではいけないということですね」
織田はそれからも文章の解説を一つ一つ丁寧に行っていった。
「私この前東京に遊びに行った時ね、山手線の中でうっかり居眠りしちゃって終電までの間、五周くらい乗ってしまっていたんですよ!」
途中、雑談を挟んだりして生徒達の興味が薄れないように授業を進めていった。
(あれ? 私、評論文苦手なはずなのになぜか理解できてます)
チカは中学生の頃から国語があまり得意ではなかった。小説などの文章はなんとか読むことができていたが、評論文は文字を見るだけで拒否反応を起こすほどであった。
そんなチカに評論文を理解させることができる織田の教師としての手腕はまだ若手とは思えないほどすごいものだ。
一時間目で爆睡していたレイナもニコニコと楽しそうな表情で織田の授業を聞いていた。
このような楽しい雰囲気のまま授業は進んでいき、授業時間は残り十分程になった。
「少しだけ時間が余ってしまったので最後に漢字テストをやってみましょう。中学校の復習だからそんなに難しくないですよ〜」
織田はクリアファイルの中から漢字テストのプリントを取り出すと生徒達に配り始める。
配られたのは一問五点の全二十問のプリントだった。
「制限時間は五分です。スタート!」
織田が合図すると生徒達はいっせいにペンをカリカリと動かし始めた。
(今の私はなら行けるはずです!)
眠気がすっきりと吹っ飛んでいたチカは自信たっぷりに問題を解き始めた。
そして制限時間の五分が経過した。
「はいテスト終了! それでは黒板に答えを書くので自分で丸つけしてみてくださいね〜」
織田はチョークをとると黒板にテストの答えを書き始めた。
(今回のテストは自信があります。丸つけが楽しみです!)
黒板に全ての答えが書かれたのを確認するとチカは赤ペンを手に取り丸つけを始めた。
しばらくするとチカは丸つけを終えて点数を計算した。
その結果はわずか十五点だった。
(え!? 今日は調子が良かったはずなのに……)
思ったように点数が取れずに落ち込んでいるチカだったが、それは当然の結果である。
彼女は中学生の頃の国語の授業をほとんど理解していなかったため中学の復習テストで点数をとることができるはずが無いのである。
学力というものは一朝一夕で身につくものではなく、コツコツと基礎から固めていかなければならない。
(この結果を反省して、中学次代の内容からやり直さなければなりませんね!)
テストの結果が悪かったにも関わらずチカの心は折れてはいない。今回の織田の授業で彼女は国語という学問の面白さに気づかされた。それ故、もっと国語ができるようになりたいと思い、全力で勉強することを決意した。
チカは高校に入り、一つ小さな成長をした。
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