第5話 青空弁当
三時間目、四時間目の授業を終え昼休みがやってきた。
チカは鞄の中から弁当を取り出し立ち上がるとレイナの席へと向かう。
「レイナちゃん、良かったらお昼ごはんを一緒に食べませんか?」
中学時代は班ごとに別れての給食だったので、高校で好きな友達で集まって弁当を食べるという行為にチカは大きな憧れを抱いていたのだ。
「お、いいねぇ! 昼食をとるのにいい場所があるからちょっと着いてきてよ!」
「あっ、待ってくださーい!」
勢いよく教室から飛び出していったレイナを、チカは息を切らしながらも全速力で追いかける。
(入学してからずっと走っている気がします……)
二人は廊下をしばらく走ると階段にたどりついた。そしてその階段をひたすら上り続けた。
階段を一番上まで上りきると目の前に一つのドアが現れる。
「レイナちゃん、ここって……」
「屋上だよん!」
「勝手に入って大丈夫なんですか?」
「ここ鍵が壊れてるから大丈夫大丈夫!」
校則に生徒が勝手に屋上に行ってはいけないと明記されているので全然大丈夫ではないのだが、気にせずレイナは扉を開けて外に出た。
「ふぅ〜、風が気持ちいいよ! チカもおいで!」
レイナに促され、チカも外に出る。屋上に吹く風は心地の良いもので、そこからの景色は町を一望できるとても素晴らしいものだった。
「良い場所ですね屋上! 早速、お弁当の準備をしましょう!」
「私レジャーシート持ってきたんだ!」
始めから屋上でお弁当を食べる予定だったレイナは自宅から持参したレジャーシートを地面に敷いた。
そして二人はそこに座り、弁当箱を取り出し声をあわせていただきますをした。
「眺めも綺麗ですし日当たりも良くて屋上はお弁当を食べるのに最適の場所ですね!」
「だねぇ、弁当の美味しさが引き立つよん!」
入学する前は知らない土地に一人でやってきてとても不安感じていたチカだったが、こうしてレイナというかけがえのない友人に出会い、二人で弁当を食べることで幸せを噛み締めていた。
(この時間がいつまでも続けばいいのに……)
チカは軽く目をつぶり、しみじみとした気持ちになっていた。
「チカの弁当って玉子焼きとかきんぴらとか美味しそうなおかずがたくさんあるねぇ!」
レイナはチカの弁当箱の中をキラキラとした目で見ている。チカの弁当は様々な食材が入ったカラフルな弁当で、美味しくて色々な栄養素をバランス良く摂取することができるものだ。
「自分で作ったんです! 良かったらレイナちゃん少し食べますか?」
チカは時々、母親の手伝いとして家族全員分の夕飯を作っている。彼女は頭はあまり良くないのだが、家事はそれなりにできるのだ。
今日持ってきた弁当は昨日の夕飯の残りを詰め合わせたものだ。
「え、いいの!? それじゃあ、ありがたく頂戴するね!」
レイナはチカの弁当箱に箸を伸ばし、おかずをいくつか掴むと自分の弁当箱に移した。
そしてもらったおかずを自分の口へと運んだ。
「美味しいよ、チカ! すごく美味しい!」
レイナはほっぺたが落ちそうだと言わんばかりの表情でチカの料理の腕を称賛した。
「喜んでもらえて嬉しいです! 頑張って作った甲斐がありました!」
自分の作った料理を家族以外に食べてもらうのは初めてで、それを美味しいと言ってもらえてチカはこれまでに無いほどの幸福感に包まれていた。
「チカは料理が美味しいだけじゃなくて、優しい性格で顔もかわいいよね! 私チカみたいなお嫁さんが欲しいな!」
「レ、レイナちゃん……それはどういう……」
突然褒めちぎられたため、チカの顔は湯気が出そうなほど真っ赤になり、体温も上昇した。
「あれれ、チカ照れてるぅ? かわいい〜!」
「あ、あんまりからかわないでください!」
チカはぷくぅーっと頬を膨らませて言った。
「あはは、ごめんごめん! ほら私の弁当も分けてあげるから機嫌直して!うちのお母さんが作った奴だけど美味しいと思うよん!」
「それではレイナちゃんのお弁当も食べさせて頂きましょう」
レイナの弁当は唐揚げやコロッケなどの揚げ物を中心とした、いわゆる茶色い食事というやつだ。野菜は一切この食事を毎日続ければ間違いなく生活習慣病になるだろう。
「味付けがしっかりしていて、なかなか美味しいですね!」
「でしょでしょ? 私、揚げ物大好きなんだぁ!」
「でも野菜が入ってないです。これじゃあ栄養バランスが偏りますよ!」
「うち貧乏だからさぁ、野菜は高くてあんまり買えないんだよねぇ…」
レイナの実家の経済状況は裕福とは言えないものだったが、彼女の母親はどうにかやりくりして彼女の好きな揚げ物を作ってくれているようだ。
「でしたらたまに私がレイナちゃんのために栄養バランスの良いお弁当を作ってあげますよ! レイナちゃんの好きな揚げ物も練習して作れるようにします!」
「ありがとう、チカ! やっぱりチカは私のお嫁さんになって欲しいなぁ!」
レイナはとびっきりの笑顔でチカに抱きついて、頬ずりをした。
「もう、レイナちゃんったら……もうすぐ五時間目の授業が始まるので教室に戻りますよ!」
「はいは〜い」
二人は片付けをすると屋上を後にして、教室へと歩いていった。
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