第2話


不安で吐き気が。

血の気が引いてきた。

たおれ、そ。


「…俺は、ゆずくんのだよ」


一瞬、何を言われたのかわからなかった。


「ずっとそのつもりだし…でも、あいつらとつるむから、嫌われた、って思ってた」


それを確かめるの怖くって、そう呟くのっちゃんが本当に泣きそうで、俺は慌てて抱き付いた。

のっちゃんが今言ってくれた言葉は、妄想でも聞き間違えでもないんだ。


「違う違う!のっちゃんが誰と友達になってものっちゃんを嫌うわけない!ただ、すごい仲良さそうだから!俺の、のっちゃん、とって、やだな、とは思ってる!だから、声を掛けられなかった…」


のっちゃんが俺を抱き締める。

俺ののっちゃんに話掛けんな見るな触るな関わるな!と怒鳴り散らしてしまいそうな俺を、ぎゅうってしてくれる。


「ゆずくん…俺、ゆずくん…嫌われて、もうだめなんだってあきらめてた…。ごめん、俺、拒絶されたら、それこそ俺が駄目になるから…ごめん…」


「俺が悪いんだ、のっちゃん悪くないよ」


「じゃあ、お互い悪かった、ごめん、もうゆずくんのことあきらめない」


「ごめんなさいのっちゃん、俺、もう拗ねないでのっちゃんのこと我慢しない」


抱き締め合いながら謝る。

不安が消えてく。

のっちゃん、俺のって言っていいって、嬉しい。

んで、のっちゃんも同じ気持ちって、サイコー。


頭を撫でながらのっちゃんが俺を解放する。

物凄く名残惜しい。

でも俺ののっちゃんだからいつでもハグして貰おう。


「さ、帰ろ」


「うん、帰ろ」


のっちゃんが笑うから俺も笑う。

なにこれ。

なんでこれ我慢出来てたんだ?

二度とのっちゃん我慢しない。




ふたりとも自転車登校なのだが、乗らずに押して帰る事になった。

おしゃべりをたくさんしたかったからだ。

それでも全然喋り足りなかったから、俺は家にのっちゃんを招く事にした。


坂を下って角を曲がれば、俺とのっちゃんの家に着く。


「ゆずくん、そういえばあの漫画のさ」


坂を下ってく。

自転車に引っ張られ、ブレーキを握る。

漫画ってどの漫画?そう言おうとした時だった。



「あ」



そう坂の途中には、あの雑木林が。

あるんだった忘れてただってのっちゃんと一緒に居るから楽しくて。

そうして見つけてしまった。

どのあたりかなんてほら夢で見たから。

そこに奥に、人影が。


しかも、ふたり。


「ゆずくん?どうした?」


「のっちゃ…」


急激な吐き気。

恐怖。

夢。

思わずふらっと来て倒れそうになる。


「ゆずくんっ」


自転車を捨て、のっちゃんが俺を支えてくれた。

二台分の自転車が横転する音が周囲に響く。

雑木林のふたりにも音は聞こえたんだろう。

人影がさらに奥へと消えていく。


「あいつ…なにしてんだ…?」


「のっちゃん、いかないで」


無意識でのっちゃんのブレザーの端を握ってしまった。

行かれてしまったら。

ひとりになったら。


ゆめがよみがえる。


「ゆずくん」


大丈夫、だというようにのっちゃんが抱き締めてくれた。

背中を撫でてくれた。

何も、言えない。

こわい、から。


「このまま俺んち行こ、自転車は俺が回収してくるから」


「ぅ、うんっ」


のっちゃんが俺をそのまま連れ去ってくれる。

こわい俺はされるがまま、のっちゃんに全部任せた。

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