結局それは因果律

狐照

第1話

胸糞で気色の悪い夢を見た。


学校の帰り道、男に襲われて雑木林で犯される、という夢だ。


客観的視点だったけど、最悪で。

目覚めた今も、記憶にしっかり残ってる。


ただの夢だと切り捨てられない。

場所は、何処行くにも絶対通る坂道の横にある雑木林だった。

自転車を置いて、雑木林で怪我した助けてって言ってるひとに、襲われる。

後は乱暴。

性的な。

本当に客観的視点で良くないけど良かった。

まだ、多少、思い出しても、耐えられる。

いや、一回吐いとこ。




そんな感じで夢が頭から離れなくて、一日中上の空で過ごしてしまった。

だからもう放課後で、帰宅部の俺は下校してよい訳で。

ひとりでなんて、帰れない。

リュックを背負い廊下に出る。

ふたつ離れたクラスの教室を覗く。

まだ居るだろうか。

居て欲しい。


騒がしい連中が教室の隅を占領していた。

そのひとりと目が合う。

少し驚いた顔をして、でも動かない俺に気を使って傍に寄って来てくれた。


「ゆずくん、どした?」


「のっちゃん…」


のっちゃんは家が隣の幼馴染だ。

生まれた時から一緒に育った。

のっちゃんは明るい性格で、俺と違って誰とでも仲良くなれる奴だった。

だけど高校上がったら、なんでかちょっと悪目立ちする連中とつるむようになった。

影でアウトロー一歩手前集団とか言われてるような奴らだ。

そんな連中の輪から抜け出してきてくれたのっちゃんは、久し振りに声を掛けた俺に以前と同じように反応をしてくれた。

思わずホっと、してしまう。

自分からのっちゃんを避けたのに、いざ声を掛けたらメンドクせ、みたいな反応をされたらどうしよう、なんて思ってた。

前よりずっと背が高くなったのっちゃんを見上げる。


「その、今日」


「能登ぉ、帰ろぉぜぇ!」


「悪い、先帰って」


不服そうな声をひとりの男子が漏らすが、のっちゃんは帰れ帰れと手を振った。

怒られないのだろうか?

俺の心配をよそに、彼らはじゃあなぁ!と素直に引き下がり下校してった。

ひとり、不満気に俺を睨んでる奴が居たけど。


「で、どしたのゆずくん」


のっちゃんの、俺と彼らとでは対応が違う事に気付いてしまう。

どうしよう、今まで通りしゃべれない。

どんな感じで話してたか、分らなくなる。


「うん、その」


思わす下を、上履きを見てしまう。

のっちゃん足も大きくなってる。

いや何考えてんだ。

呼び止めたんだ、要件を言え要件を。

意を決して顔を上げる。

のっちゃんが優しく微笑んでくれてた。


「ぅ、今日一緒帰らない?」


のっちゃんが目を丸くした。

そうだよね、急だよね、俺もそう思うけど。


「…俺、ゆずくんに、嫌われたんだと思ってた」


びっくりするほど暗いトーンでそう言われてしまった。

俺もびっくりした。

そんな風に思われてたなんて。

いや、そう思われてもおかしくない行動をしていたけれど。


「ち、ちがっ、嫌ってない!嫌ってない…ただ」


泣きそう。

俺ものっちゃんも。


「ただ?」


唇を震わして目が潤んでるのっちゃんに、言わないと駄目なんだろうか。

悲しそうな顔してるのっちゃんに、言わないと、駄目なんだろうなぁ。


「のっちゃんが」


唾を飲みこむ。

心臓がすごい速さで鼓動してる。


「うん…」


「あいつらと、つるむようになって」


「うん…」


言うぞ。

言えよ?

これ言って逆に嫌われない?

でも言わないとのっちゃんは多分泣く。

のっちゃんを泣かすなんて、絶対に許されない。


「の、のっちゃん、とられて、くやしくて」


のっちゃんは誰とでも仲良くなれる。

だからクラスメイトと仲良くなっただけ。

ただそれだけ。

なのに、俺の、のっちゃん、盗られたと。

クラスが違うから、もう、悔しくて悔しくて。

だってのっちゃんは、約束したのに、のっちゃんが。


「おれの、のっちゃんなのに」


想像以上に俺はヤバイ奴だったようだ。

子供の口約束指切りげんまん約束だぞ?

それを今も信じて妄執。

恥ずかしい。

これは、嫌われるというか、キモがられるのでは?

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