PHASE-02 : 高校3年生 4月
春休みが明け、高校3年生になった。
俺は春休みの間に、一大決心をした。
それは、九条佐緒里に告白をする事だ。
4月、遅くとも5月の内に。受験の事を考えれば、今の時期に告白するのは迷惑なのかもしれない。でも、これを引き延ばしてしまえば、更に告白をする事は難しくなると思ったからだ。
「たっ、拓巳!? イメチェンしたのかよ!? 似合ってる似合ってる、格好良いじゃん!!」
久しぶりに会った純太は、手放しで俺のイメチェンを褒めてくれた。俺も純太のように、髪を染めたのだ。
「夏休み終了までの限定カラーだけどな! それ以降はやっぱ、黒髪に戻そうと思ってるけど。純太は?」
「俺もどこかのタイミングでな! 3年になってまで染めてるのって、俺たち以外は殆どいないけどな!」
純太は笑いながら、俺の肩をパンパンと叩いた。
幸運な事に、また純太と同じクラスになれた。その上、告白を決意した九条佐緒里とも同じクラスになれたのだ。
これは……
これは……いけるかもしれない……
3年の担任になった山城は、俺の髪色を見て嫌悪感を露わにした。そのくせ、純太には親しげに話しかけたりしている。正直、気分は良くなかった。
だが、嬉しい事もあった。黒板に視線を向けると、その手前に九条佐緒里がいるのだ。次の席替えがあるまで、俺はずっと九条佐緒里を見ていられる。こんな嬉しい事は無かった。
そして、告白は一日でも早くすべきだと思った。こんな状態で勉強なんて、手に付くはずがなかったからだ。
*********
告白当日、放課後を迎えるまで、何度か九条佐緒里に視線を送った。だが、一度も目が合うことは無かった。
……ああ、やっぱりダメなのかもしれない。
でも、もしかして……なんて、心のどこかで思っている自分もいる。
そして、とうとう……
運命の放課後がやってきた。
「ごっ、ごめんな、時間作ってもらって……」
「い、いや、大丈夫……で、何の用かな……?」
そう聞かれて、すぐに次の言葉が出なかった。九条はきっと、俺が何を言うか想像は付いていると思う。だが、その言葉を期待しているようには見えない。適当な事でも言って、逃げ出したい気持ちに駆られる……
次の言葉が出ない、空白の時間。
そんな二人の間に、校庭からの部活の掛け声が微かに聞こえる……
「な、なんとなく、想像が付いてるとは思うんだけど……お、俺、九条の事……」
やっとの事で絞り出した言葉に、一番大事な「好き」というワードは欠けていた。
「も、もし、お付き合いとかのお話しって事なら……私いま、付き合ってる人がいて……ごめんなさい……」
——九条佐緒里には彼氏がいた。
フラれる事は覚悟をしていた。だが、彼氏がいたのは想定外だった。俺が知っている限りでは、高2の終わりまではフリーだったはずなのに。春休み中に何かあったのだろうか……
「そ、そっか……ごめんな、放課後まで残って貰って」
「い、いや、全然……じゃあ、私帰るから……」
九条はそう言うと、カバンを肩に掛け、教室を出て行った。
人生初めての告白は、見事に砕け散った。
*********
「どうした拓巳! 元気ないじゃん」
告白した翌日の休憩時間、純太が声を掛けてきた。友人が多い純太は、他所のクラスで休み時間を過ごす事も多く、久しぶりに声を掛けられた気がする。
「いやまあ、その、何て言うか……」
「何だ何だ!? もしかして誰かにフラれたりしたか? ん!?」
下を向いたまま答えられないでいると、純太は俺の肩に手を回して小声で言った。
「す、すまん、マジだったのか? 本当だったのなら、悪かった……」
純太はこういう優しい一面も持っている。俺が髪を染めた理由の一つは、純太への憧れもあったからだ。
「……誰にも言わない、ってなら。……聞いて欲しい」
「オッケー、分かった……放課後にでも聞かせてくれよ」
純太はそう言って、優しく俺の肩を二度叩いた。
俺は2日連続で、放課後の教室で告白をする事になった。
*********
放課後、スマホをいじって待っていると、純太が教室にやってきた。
「昼間は悪かったな……フラれたって、告白でもしたのか?」
「ああ、昨日。今と同じ時間、同じ場所で」
「……そっか。でも勇気あるじゃん、直接告白するなんて」
「いや、迷ったよ。DMで告白しようとも思った。でも、なんとなく……初めての告白は、直接言いたかったってのがあってさ……」
「そっか、頑張ったんだな……偉いと思うよ、俺は」
純太は足元に視線を落とし、「そっか……」と繰り返していた。
「まあ、ついでだから言っちゃうけど、九条に告白したんだ」
そう言うと、純太は驚いた表情で顔を上げた。
「も、もしかして、何か知ってる……? 九条、誰かと付き合ってるらしいんだ」
そう言うと、純太は目をそらした。純太は何か知っているに違いない……
いや、知っているどころか、もしかして……
「——誰にも言わないって、約束出来るか?」
純太は俺を見据えて、そう言った。
「も、もちろん……俺だって、九条にフラれた事は誰にも知られたくないから……」
「……確かにそうだな。分かった、話すよ」
純太は空いている席に腰を下ろすと、一息吐いてから話し始めた。
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