告白[Confession of love]
靣音:Monet
PHASE-01 : 高校2年生 1月
「じゃ、教室入ろうか。頭ぶつけないように気をつけてね」
今日から担任になる、鈴木先生が言った。緊張気味に「はい」と答えた俺は、先生に続いて教室に入る。教室の引き戸をくぐると、ザワついていた教室が静まりかえった。
「あら、どうしたの? ……みんな、シーンとしちゃって。今日からクラスメイトになる、
「は、はい。はじめまして、木村拓巳です。二つ隣の
鈴木先生が拍手をすると、生徒もそれにならって拍手をしてくれた。
「……木村君、背高いよね? いくつあるの?」
「……191センチです」
鈴木先生の問いに答えると、教室からは「お〜」という歓声が上がった。
「191センチかー。スポーツとかやってたの?」
「中学の時はバスケやってたんですが、前の高校では帰宅部でした」
「あー、そうなんだ。ウチのバスケ部に、木村君が入ったら強くなるかもね、うんうん。……何か、木村君に質問のある人いる?」
先生が言うと、すぐに手を上げた生徒がいた。短髪で明るい髪の、みるからに活発そうな男子だ。
「木村君は何て呼んだらいい? あだ名とかあった? あ、ちなみに俺は
神野という生徒は、よく通る声でそう言った。
「名字よりも名前で呼ばれる事が多かったかな……拓巳って。……あ、キムタクって呼ぶ女子もいたけど」
教室が少しわいた。どんな自己紹介をするか考えていた事の一つに、キムタクのネタはあった。
「アハハ、そうなんだ。じゃ、俺も拓巳って呼ぶわ。俺の事は、純太で!」
神野……いや純太はそう言って、俺に手を振った。
「……じゃ、質問はそんな感じでいいかな? 神野君はああ見えて頼りになる子だから、分からない事あったらどんどん聞いちゃってね」
「ああ見えてって何だよ、先生!」
そう言って純太は笑った。周りの生徒達も笑っている様子を見ると、純太はクラスの人気者なのだろう。
「じゃ、挨拶はこのくらいにして、木村君も席に着こうか。えーと……あそこの空いている席ね。……
九条さんと呼ばれた女子生徒は、澄んだ声で「はい」と答えた。
そして、俺の視線が九条さんを捉えた瞬間——
俺は恋に落ちた。
*********
「今のクラスは残り3ヶ月ほどだけど、宜しくな!」
休憩時間に入ると、純太は俺の席まで来て声を掛けてくれた。
「ハハハ、ホント中途半端な時期の転校だよね。純太……くんだよね、よろしく」
「ハハハ、『くん』なんて付けんなよ! 純太でいいよ、俺も拓巳って呼ぶし。にしても、191センチって凄いな。学年で一番高いんじゃないかな」
「そうなんだ! 前にいた学校は196センチの奴がいたんだよ、そいつも高2で。俺より目線が上の奴ってなかなか居ないから、新鮮だったよ」
そう言って笑うと、純太も「すげー」と笑った。
「ところでさ、純太……って髪の毛明るいけど、地毛じゃ無いよね?」
「ああ、もちろん」
純太はカラッと答えた。
「校則とか大丈夫なの?」
「どうだろ? 他のクラスにもチラホラいるし、先生に怒られた事もないな。……拓巳もやってみたいとか?」
「いやいや、前の学校の校則は厳しかったからさ……何か自由で良いなって思って」
「そうなんだ。 前の学校の校則ってどんなだったのよ?」
そんな感じで、純太はどんどんと話題を広げてくれた。休憩時間をどう過ごすか悩んでいた事もあり、本当に助かった。
神野純太。
転校初日から、俺は良い友人に巡り会えた。
*********
2時間目は地理の授業だった。地理の先生と軽く挨拶を終えると、すぐに授業が始まった。
「先週配った資料、忘れてないなー? 5ページ目開いてー」
先生が言うと、周りの席からパラパラと資料をめくる音が聞こえる。直後、ガタガタと机を動かす音が、隣から聞こえてきた。
「もちろん、持ってないよねこれ? 一緒に見よう」
九条さんは、俺の方に机を寄せようとしていた。
「ごっ、ごめん! 俺が動かさないといけないのに!」
そう言うと、九条さんはクスッと笑った。そして、隙間無く机をくっ付けると、資料を二人の間で広げた。
「く、九条さん、もうちょっとそっちでいいよ資料。俺、視力は良いから」
九条さんは、開いてと言われた5ページ目の殆どを、俺の机側に乗せてくれていたのだ。
「ううん、この資料面白くて事前に読んじゃってたの。気にしないで」
九条さんはそう言うと、再び黒板に向き直った。
*********
転校してきてから、早くも2週間が経った。
純太達と昼ご飯を一緒に食べるようになり、九条さんとも会話が弾むことも増えた。不安でいっぱいだった転校生生活は、順調すぎるスタートを切ったと言える。
そうそう、九条さんの名前は
転校前は彼女が欲しいとか、あまり意識した事が無かった。気になる程度の子はいたし、告白された事もある。でも、それ以上進展することは今まで無かった。俺は恋愛に対して、淡泊なのだろうとまで思っていた。
だがしかし、それは……
本当に好きな人が、現れていなかっただけなのかもしれない。
*********
「拓巳さ、九条の事好きだろ?」
駅までの帰宅途中、純太は唐突に聞いてきた。
何て答えればいいのか迷っただけでなく、自分でも驚くほど赤面してしまっていた。それは、「そうだ」と答えているようなものだった。
「やっぱりなぁ、そっかー。良いと思うよ九条、俺も」
「……それってさ、純太以外にもバレてんのかな? 俺が九条の事を……その……好きっていうの」
「さあ、どうだろ? 案外、九条も気付いてるかもな」
純太はクスクスと笑いながら、そう言った。
「……純太はどうなんだよ? お前も九条の事が好きだとか?」
「九条なあ……可愛いし、性格も良さげだし、良い子だよなぁ……」
「……そういうんじゃなくて、好きかどうかって聞いてるんだよ」
「そりゃ、好きか嫌いかなら、好きだけどさ。付き合うかどうかって言ったら、それはまた別の話。……って言うか、九条は俺みたいなのタイプじゃ無いよ、きっと」
純太は笑って言った。
いや、純太はモテる。
純太が九条さんに告白なんてしたら、俺なんてひとたまりも無いだろう。
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