PHASE-03 : 高校3年生 6月

 純太と九条、そして俺の三人で下校している。


 そう、先週くらいから、このメンバーで帰宅する事が多かった。


「そろそろ、そのジャージ暑くなってきたんじゃない?」


 九条が聞くと、純太が答えた。


「ああ、そろそろ限界かな。でもさ、案外このジャージ好きだったりするんだよね俺。拓巳はどう?」


「ああ、俺も。転校前の学校はダサダサジャージだったからね。お洒落でビックリしたよ、ここの制服。女子の制服も可愛いし」


「なに、九条の方を見ながら言ってんだよ。そういうのは他所でやれ、他所で」


 純太はそう言うと、シッシという仕草で二度手を振った。


「それはそうとさ、数学つまづいてるとこあるんだよね。マック寄って、ちょっと教えてくんない? ドリンクくらい奢るからさ」


「ハハハ、神野くんってそういう所、律儀だよね。奢ってくれなくていいよ、行こ行こマック」


「俺もオッケー。数学だけは九条より、俺の方が得意だからな。まあ、俺はちゃんと奢って貰うけどな!」


 そう言うと、純太と九条は笑った。




 そんな和やかムードでマックに向かう途中、すれ違う男子生徒に純太が声を掛けた。


「お、おう! 学校戻るのか?」


 声を掛けられた男子……確か、九条に告白をした男子生徒だ。


「そ、そう。教室に忘れ物しちゃってさ。……じゃ、じゃあ」


 その彼は気まずそうに返事をすると、高校への道を戻っていった。


「——気まずかっただろうな、フラれた女子とすれ違うのは」


 俺が言うと、純太は「えっ!?」と声を上げた。


「な、なんだよ、アイツが九条にフラれた事、知ってたのか?」


「ご、ごめんなさい、それ言っちゃったの私なの。放課後、校門で拓巳を待たせてたから、待たせた理由も言わなきゃって……」


「い、いや……そりゃ、付き合ってたらそんな話も出て当然だよな……実は黙ってたけど、俺もアイツが九条にフラれた事は知ってたんだ」


 今度は、俺と九条が大声で「えっ!?」と返す番だった。


「ああ、確か……1年生の時に同じクラスだったんだよね、神野くんと吉野くんは。結構、仲良かったんだ」


「まあ、仲良いって言っても、そこそこだけどね……その日はアイツ、元気無さそうだったから声を掛けたんだよ。そしたら、『昨日フラれたんだ』みたいな話になって……」


「神野くんって、結構お人好しな所あるもんね……で、言っちゃったんだ、私たちが付き合ってる事」


 九条は気に掛けている風でもなく、純太に聞いた。


「すまん……お互いに、絶対他の奴には話さないって約束してな。拓巳からは、九条と付き合いだした事、黙っててくれって言われてたのに……ホント、悪かった……」


 純太は頭を下げた。真剣に謝るのが、なんとも純太らしかった。


「いやいや、謝るなよ。結局、あの日を機にコソコソ一緒に帰宅するのやめたんだから。もう知られちゃった方がラクなんじゃない? って感じで」


「そうそう。その頃からだよね、神野くんも一緒に帰るようになったのは」


「なんだよー、真剣に謝って損したじゃんか。ドリンク奢るのやめやめ!」


 むくれて言う、純太のセリフに俺たちは笑った。




*********

 



 マックを出てからの帰路は、九条……いや佐緒里と二人になった。電車通学の純太とは、さっき駅で別れたところ。ここから先は、いつも二人きりだ。


「さっきすれ違った、もう一人の拓巳……吉野だっけ?」


「……そう、吉野拓巳くん」


「俺たち三人とすれ違うのは、気まずかっただろうな……」


 そう言うと、佐緒里は「そうだね……」と、繋いでいた手にキュッと力を入れた。もちろん、手を繋ぐのは二人きりの時だけだ。


「関係無いとは思うけどさ……フラれた相手の彼氏が同じ名前って、何か嫌だろうな。なんとなくだけど、俺だったら嫌だなって……」


「……漢字まで一緒だもんね。でも、もうやめよう。吉野くんの話は」


 佐緒里は俺を見上げて言った。


「そうだな。……にしても、春休み中に佐緒里に告白しておいて良かったよ。もしかしたら、俺がフラれた側の拓巳になっていたかもしれないし……」


「何言ってるの! 私も拓巳の事が好きだったんだから、告白の順番なんて関係無いし! って言うか……この話は、終わりって言ったじゃん!!」


 そう言って、佐緒里は俺を突き飛ばしてきた。


 学校ではあまり見せない、俺の大好きな……


 満面の笑みを浮かべながら。




〈 告白[Confession of love] 了〉

※次ページの補足も是非、ご覧ください!

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