第2話

彼は、夢だと、夢心地に、笑いながら、引き千切り続けた。

築くは山だ。

頭だけの山。

腕だけの山。

脚だけの、上半身だけの。

それだけの彼の。

繊維も解き骨も砕き砂に換えながら肉を圧縮し小さく、赤に。

おびただしい赤。



感覚がない指先は冷えきり、赤い液体でぬるんだそれで顔を、彼は覆った懺悔後悔するよに。

小刻みに震えること甚だ愚かで不似合いと分かっても。

抑えることができなかった。

充足感に満たされることが。







「楽しかったですか?」


心と体に優しい声色が背中に触れる。

胸が久しぶりに熱くなる。

彼は、まさかと、恐る恐る振り返った。

ずっと見つめていたいほど整った柔らかい微笑み、皆上くん。


「僕で、楽しんで頂けましたか?」


千切り続けた。

楽しくなかったと言えば、皆上くんの嫌いな嘘になる。

彼はその答えが、肯定が恐ろしい選択と知って、ただただ現実を見つめた。

皆上くんは、自分の細切れをまるで草原の草のごとく踏みつけ乗り越え、彼の元へ迷い無く歩み寄る。


「まだ足りませんか?もう少し必要ですか?」


分からない所があったら教えてあげますよ、そう教室で声を掛けられたことを彼は思い出す。


「汚れてしまいましたね。お風呂に入りますか?」


皆上くんは躊躇うことなく彼の両手を取った。


「…それに冷えてしまいましたね…」


皆上くんの白いシャツの袖口が、綺麗な手が皆上くんの体液で赤く汚される。

それよりも彼に衝撃的だったのは、その体温だった。

彼は皆上くんの手を振り解き両手を皆上くんの反対へ追いやる。

手錠か手かせをはめられたかのよにして。


「…さ、触らないで、く、くれ…」


「「…どうしてですか?」


「…こ、怖い…」


「何が、怖いのですか?」


「ち、千切ったら…こ、怖い…」


散々、皆上くんたちを千切っておいて、言える口があるはずない。

けれど彼は怖かった。


暖かい血の通った皆上くんが。

皆上くんを見つめるのが見つめられるのが。

皆上くんと話すのが声を聞くのが。

皆上くんを感じるのが皆上くんを想うのが。


頭も良くて性格も優しく穏健でしかも御曹司。

まるで王子様のような皆上くんは、つまはじきものの彼を怪物と言わず、恐れず語りかけ笑ってくれた。

親にもしてもらったことがない、優しさを皆上くんは彼に見せてくれた。

勉強を教えてくれた。

お昼ご飯を一緒に食べた。

下校はお迎えの車が来るのにも関わらず途中まで歩いてくれた。

休みの日は遊びに出かけた。

触れてくれた撫でてくれた微笑んでくれた。

なにをどうしたらいいのか、衝動に堪え自分を導いてくれた。

惹かれない道理はなく。

触りたい千切ってみたい触れたい千切ってしまいたい愛しい人いやだいやだ。

対極の感情に苛まれ続けた。

そんな彼の苦悩など露知らず、皆上くんはずっと傍に、傍に居てくれた。

彼は、堪えきれず。

我慢できず。

恐ろしく。


彼は皆上くんから目を背け、怪物と化し決別を選んだ。

身を捩られる思いで学舎を捩り切った。

心が裂かれる痛みで以て、学校を裂いた。


大切な皆上くんを衝動のまま引き千切る前に。

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