第2話 姉プレイは嫌悪の素
「ありゃ、もしかして私と血が繋がってないことを気にしてたの? 妹たちに嫉妬しちゃってた? えへっ、か〜わいっ! でも血が繋がってないからこそ、私達は結ばれることができるんだよ。良かったねぇ、理真」
こいつ......どんだけ人の話聞かなけりゃ気が済むんだ。
いや、人の話を聞かないのはとっくに知ってたけども。さすがは気狂い一家の娘だけはある。どこまでもイカレてやがる。
昔から、こいつの『姉』ムーブは本当にどうしようもない。虫酸が走る。
俺の血の繋がった姉は、俺が小学校4年のときに、両親ともども事故で亡くなっている。
コイツだってそのことを知ってるはずなのに、無神経にも、やれ『お姉ちゃん』だとか、不謹慎にもほどがあるだろう。
両親と姉の葬式以降、コイツは自分のことを『お姉ちゃん』と呼んでからんでくるようになった。
そう、俺とコイツ、
なんなら接点だって微々たるものだった。
コイツの実の妹である
今となっては御霊凛火恋とは普通の友達かそれ以下の知り合い。そこまで仲良くもないが仲が悪いわけでもない。
高校は一緒だけど、姉のコイツが妹にまで牽制するおかげで、そこまで親しくしてるわけでもない。
幸か不幸か、今年は御霊凛火恋とクラスメイトになったし、多少は言葉をかわすこともあるけど、それくらいのもん。
要は御霊知夏は、同じ学年の他人の姉。それだけ。だから知夏と俺は完全に他人のはずだ。
コイツが俺に執着さえしてこなけりゃ。タイムマシンがありゃ、昔の俺を殴り飛ばしに行きたい。切実に。
俺はさっさと自立してイッパシの男になって、あの世にいる父さんと母さんと姉ちゃんを安心させてやりたいし、自由を掴みたい。
そんな俺にとって、いつまでも他人が『お姉ちゃん』だとか言って何もできない年下扱いしてくるのは、シンプルにウザい。
最初の頃はまだ、ウザいなぁってくらいだったけど、ずっと続いてるとどんどんムカついてきて、今や生理的に無理なくらいには嫌いになってる。
俺は、対等な関係の、爽やかで可愛い彼女と、普通の、幸せな家族を作るって決めてんだ。
コイツみたいに、俺を下に見て、下衆でウザい、金持ちでイカレた女と、不幸な人生を送る気なんてさらさらないんだよ。
まぁ昔は、悪く感じてなかったんだけどな。
とまぁ現実逃避はともかく、なんにしても今の俺にとっては嫌悪しかないし、いい加減我慢の限界だ。
今日でケリつけさせてもらわんとストレスで胃に穴空くわ。この間血便でてたし、もしかしたらもう空いてるかもしれん。
「なんべんも言ってんだろ。いい加減にしてくれ。もう俺も高校生なんだよ。いつまでもお姉ちゃんとか、そういうのキショいから。つーか、俺のホントの姉ちゃんに失礼だと思わないのかよ。無神経すぎんだよいつまでも。頼むから俺の前から消えてくれ。照れ隠しでもなんでもない。俺は、純っ粋に、アンタのことがキライなんだ......。心の底から。俺の青春を、邪魔しないでくれよ......」
*****
高校に入学してすでに1ヶ月が経った。
なのに俺の周りには友達らしい友達がいない。
俺が悪いんじゃない。入学当初は普通に友達もできてたんだ。
幸いこの高校には一緒の中学から上がってきた知り合いは少なくて、新しい人間関係が作れるチャンス。しかも入学式とか自己紹介とかで仲良くなったみんなはすげぇいいヤツらばっかで。
御霊知夏も、春休みの間ずっと無視し続けてたおかげか、最初の1週間は接触してこなくて。
中学のころの人間関係は、御霊知夏のせいでボロボロだったけど、高校こそは、クラスのみんなと一緒に、俺も爽やかな青春を。
そんな希望は1週間がすぎた次の月曜日には打ち砕かれた。
高校に入学して週が明けた月曜日から、コイツは昔以上に、姉願望とでもいうのか、俺への独占欲をあらわにして、俺の教室まできて友達に牽制しまくりだした。
決定的だったのは、コイツは俺より1学年上でクラスが一緒になるわけないのに、何故か俺のクラスの朝のホームルームの時間に先生に代わって教壇に立って、『この
あまりの勢いに俺は呆然としてしまってて、否定とかもする暇もないままコトが終わってた。
コイツの実家、
みんなそのことを知ってるから、彼女、もとい彼女の実家の不興を買って余計な面倒に巻き込まれないように、彼女の言う通り俺と絡むのを止めるのは自然な流れだった。
みんなのことは責められない。誰しも自分がいちばん大事なのは当然だ。
それに、御霊の家に逆らったら、自分だけじゃなく自分の家族やら大切な人にも危害が及ぶ可能性があるってのは有名な話だし、そういう意味でも俺と距離を置くのは自然な発想。
そんなわけで、入学1ヶ月で、中学の頃と同様、俺は完全に孤立した。
希望に満ち溢れた高校生活から一転、未来への期待すらも一切持てない3年間の始まりだと思い知らされた。
コイツが大人しくしてたのはどうやら俺を絶望の淵に落とすためだったんだろう。一度手に入れてから失う無力感を俺に植え付けて友人づくりなんてしないように仕向けるつもりだ。
本当なら高校だって違う、遠く離れたところに行きたかった。
ただ、両親はとっくの昔に亡くなっていて親戚もおらず、親の保険金でなんとか生きてる施設育ちで、その施設も御霊家に援助してもらってるって立場の俺に、選択権なんてあるはずもなく。
結局、俺に自由はなく、御霊知夏の思うがまま、俺はコイツと同じ高校に通わされることになった、というわけ。
だけどさ。いつまでもこのままなんて、そんなつもりは毛頭ない。
もはや生理的嫌悪すら感じるこの女の手の平の上で、死ぬまで無様に踊り続けるなんて、まっぴら御免被る。
このバケモノは、本気で俺が照れて拒絶するようなことを言ってると思い込んでやがるんだと思う。
なら、俺がガチで嫌がってることをなんとかしてわからせてやれば、この茶番の日々を終わらせられるんじゃねぇか。
こいつとの縁を切れるなら、今にも血管がはち切れそうなこの頭だって下げてやる。
「なぁ、マジで頼むよ。このとおりだ。土下座だけじゃない。なんでもするから、二度と俺に近づかないでくれ。俺の自由を......俺の青春を、壊さないでくれよ......。お願いします」
ほら、校門の眼の前で、地面に額を擦り付ける勢いで土下座してやってんだ。
ここまでやりゃあさすがにわかんだろ。俺が本気で嫌がってること。
あぁクソっ。もっと早く、コイツが教室で舐めたことほざいてたときにこれをやってたらよかったんだ。
けど教室でやるより効果あるだろ。
俺たちが通ってる高校の、朝の登校時間まっさなかの、人通りMaxな中での校門前での全力土下座だ。
俺の青春が致命的に終わりかねない危険な行為だけど、このボケ女にはこれくらいやらないと伝わらねぇ。
「........................」
ほらな、さすがのこいつも、ここまでやりゃあ、俺の本気の拒絶に気づいたろ。勝った。
いっつもペラペラペラペラとうるさい独り善がりなおしゃべりが、珍しく聞こえてきやがらねぇ。
さすがのメンタル強者のコイツも、ここまでやりゃあ傷ついて泣いてたりしやがるかな。
心が痛まないでもないけど、コイツにはこれまで散々にやられてきたんだ。多少の絶望くらいは味わえってんだ。
どれ。その歪んだ顔面、拝んでやる。
足元から徐々に見上げるようにしてたどり着いた視線の先には、口角をブーメランのようにひん曲げてニタニタと嗤う悍ましい表情があった。
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