第4話初勝利を祝って、ハイタッチ

 悪人は地獄で裁かれるべきだ。だからそのために、肉体に宿る魂を地獄に送る必要がある。


 これはこの世界では当たり前のようにまかり通っている考えで、人殺しは割と普通。


 ボクも当然殺ったことがあるわけだ。

 セレナとディーナと一緒にヒーローごっこをしたときに、野盗をちょっとね。


 そそ。普段から修行のために夜中家を抜け出して狩っていたのは秘密の話しだ。


「ふふっ、あなたたちそれでも本当に騎士かしら? こんなにもか弱い女の子に殺られて悔しくないの?」


 サラサラとした黒髪をバサっと掻き上げながら、最高の煽りをかますのは――セレナ!


 ホント、どうしてこんな子に育ったんだろう……。もしかして生来の煽り廚だったりするのかな?

 だったら仕方ないね。


「クソッ、このガキ! お前ら、何としてもこいつをぶっ殺すぞ!」

「「「おう!!!」」」


 あーらら。またセレナの足元に死体が増えて行くよ。騎士たちは何でそんな安い挑発に乗るのかな?

 少しは学習したら?

 ……あっ、

 もしかして訓練しすぎて脳みそまでもが筋肉だったりする? 

 だったらこれまた仕方ないことだね。


 とまあ、セレナは大丈夫そうだ。

 それでディーナは、と……


「氷よ、辺りを銀に染め、己の場とせよ、【氷陣アイスエリア】」

 

 うわーお……。辺り一面が銀世界になった。

 うん。ディーナは髪が白いだけにやっぱり氷魔法が似合うね。

 でも、これだけの大技だとまだまだ無詠唱は難しいといった感じかな。


 まあ、ディーナの足元にも氷の彫刻がいくつも転がってるし、こっちも大丈夫そうだ。


 となると、残りはボクか……


「おいおい。クソガキ。よそ見するとは随分と余裕そうだな……」


 ボクはなんかボスキャラっぽいのに相対してるんだよね。

 あっ、とりあえず奴隷のお二人さんにはボクの背中に隠れてもらってる。


 男は腕を組みながらレグルスのことを見下ろし、ふっ、と嘲笑った。


「最後の忠告だ。その奴隷を俺に渡せ。そしたらお前たちのことは見逃してやる」

「……ふーん……」


 ボクもボスキャラ君の目をジッと見ながら、不敵な笑みを浮かべておく。こっちの方が、余裕そうな空気感が漂うでしょ?

 アイ アム ゴッド、だからね。


「そんなの当然断るさ。この二人はもうボクの国の民なんだから」


 そう言いながら半端前に出て、ボクは両手を広げる。

 ここポイントね。


 腕の高さは低すぎても高すぎてもダメ。


 高すぎればただただ万歳している変態になるし、逆に低すぎれば政治家の演説ポーズになってしまう。


 だから手の高さは大体肩の高さくらいだ。 


 これぞ、神々しさを醸し出す合理的なポーズ。

 二人とも今にボクのことを拝むだろうね。


「お、お前は……」

「お、お主は……」


 ほら来た。あとに言葉が続かないほどだ。


 なお、この後にボソッと呟かれた「何を言ってるんだ?」という大変都合の悪い言葉が、ボクの耳に届くことはなかった。


「貴様の国?」

「そ。今宵新たに建国される偉大な国さ……」


 ボクは両手を広げたままの態勢で、顔だけを少し上げる。まるで天から下界を見下ろすように。


 ……夕陽よ、もう少しボクのことを照らしておくれ。


 すると男は目をぱちぱちとさせながら、少しの間唖然とした。が、


「ぶはははははっ! なかなか面白いことを言うじゃないか!」


 いきなり大声をあげて笑い出したのだ。


 うわ、こっわ。なんか片手でおでこを抑えながら、急に笑い出したんだけど。


 ……あっ、待って。察し。


 きっと深い演技をしてしまうあれを慢性的に患ってたんだろね。可哀想に。

 

 て、思ってたんだけど……


「おい、クソガキ……。あまり図に乗らない方がいい。俺は悪魔教のネームドだ。お前ごときいつでも殺せる」


 ボクのことを睨みつけながら、低い声で宣いましたとさ。


 悪魔教、ね……。確か二十年くらい前に、いきなり姿を現し始めたテロリスト的宗教団体だった気がする。


 何でも精神世界から大悪魔を召喚するのを目的とし、悪魔と協力して大陸各地で問題を起こしているとか……。


 どうしてそんなことをしようとしてるんだろね。ホント不思議。


 とまあ、そんなことをボクが考えても仕方がないね。とりあえず、目の前の男が急にボスキャラムーブを出してきたというわけだ。


 あれでしょ。どうせ何か決め台詞でも言いながらその腰にある剣を抜くんでしょ。


「ガキを殺す趣味はないが、大いなる目的のためだ。背に腹は代えられない。貴様がその奴隷を寄越さないなら貴様を殺すしかない」


 男はそう言いながら、シャキンと音を立てて剣を抜いた。


 そら見た! 患ってる人がやることってどうしてこうもわかりやすいんだろね。

 

 ……ん?

 

 いやいやまさか。ボクは患ってしまったことなんてないよ。一度も。

 ホントだよ。


 ……あーあ。でも残念。本当は剣で遊んであげたかったけど、生憎お家に置いて来ちゃった。ごめんね。魔法で許して。


 うん。そうだね。せめてもの埋め合わせとして瞬殺してあげよう。


「さん……」

「ん、なんだいきなり?」

「にー……」

「な、なんだ体が……」

「いち……」

「や、やめろ――」


 ――パチンッ


 はい。瞬殺。なむあみだぶつ。


 レグルスが指パチした瞬間、男は肉片と化した。まるで内側から爆発したかのように。


「地獄で自分の罪を償って来な。そしたらきっといつか転生できるよ」 


 レグルスは夕陽に赤く染まった空を見上げながらも、地面に向けて声をかけるのだった。


 と、そこで、


 セレナとディアナの様子が気になって、慌てて周囲を見渡す。


 が、


「べらべらとしゃべり過ぎだわよ」

「手を広げてたあれは何ですか?」


 二人ともすでに殺り終えていて、ボクの戦いとは到底言えない神の戯れを並んで見ていたようだった。


 そして、ボクらは誰ともなく集まり、お互いの顔を見合った。


 それから両手を自分の顔の前にまであげて、


 パチッ!


 初勝利を祝って、ハイタッチ。


 その様子を、ぽかんと口を開けながら見ていた二人組がいた。



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★をつけてくれた方、本当にありがとうございます。とても執筆の励みになっています。


また、


★おすすめレビューのお礼(10月25日時点)


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次話の投稿は明後日18:15前後です。


お楽しみにお待ちください!

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