第3話やっぱり神様はいるものだね!
「うわぁ……とても綺麗ね」
「……はい。見事な紅葉ですね」
目をキラキラとさせながら、周囲を見渡すセレナリカとディーナ。
ボクはそんな二人の様子を後ろから眺めながら、今日の『ごっこ』の構想を練っている。
大変残念なことに、ボクは平安時代生まれじゃないから、風情やら趣きやらが全くわかんない。古文に出てくるような、とても深い歌を詠むなど到底無理な話しだ。だからはっきり言って、周囲の紅く染まった葉を見てもつまんない。
でもまあ、幼馴染二人が楽しそうにしているのだからそれだけでボクは大満足さ。
と、今は『ごっこ』について考えとかなくっちゃね!
これは設定が大事なものだ。
「レグルスもそう思うわよね?」
「思いますよね?」
その点は抜かりなくやらなければならない。
「うん。もちろん!」
ボクが最高のシナリオを用意するよ。
「ふふっ、レグルスが一番はしゃいでいるじゃないの」
「そうですね。普段は本読んでばかりで大人っぽいですけど、こういうところは年相応で可愛らしいです」
「ホント!」
うんうん。何か言ってたけど聞き逃した。
けど、声色が明るいことだし、きっとボクが作るシナリオを楽しみにしてくれてるんだろうね。
さてと、これまでも、
木刀がバッキバキになるチャンバラごっこ。
オーブンから火が吹くお料理ごっこ。
創業十秒で潰れるお店屋さんごっこ。
永遠に鬼が決まらないおにごっこ。
子どもらしくたくさんの『ごっこ遊び』をしてきたけど、今日は広大な土地もあることだし、グレードアップさせよう。
そう思って真っ先に浮かんだのが、『お国ごっこ』。
朕は国家なり、なんて一度くらい言ってみたい。玉座に座りながら。
国家の形態はもう考えてある。
神国だ。ボクとセレナリカとディーナの三柱神で。皆の衆、我らを崇めよ的なね。
国名は、あとで三人で決めようと思う。
他のことは……
アドリブを交えつつ、おいおい考えていけばいいかな。そもそもボクほどのアドリブ力となれば、瞬時に設定を構想するくらい容易なもの。根幹部分さえ決まっていれば、あとはどうとでもなる。それに、あまり二人を待たせるわけにもいかないしね。
「セレナ! ディーナ! ここにボクたちの国を建てよう!」
「「国を建てる!?」」
おお、二人ともいい反応。まん丸な目を大きく開いてボクのことを見ている。
そこで、
ボクはどこかの国の政治家のように両手を広げて、もう一度言った。
雰囲気って大事でしょ?
「そう。ボクら三人が治める、偉大な国を」
鷹揚とした声が、静かな森の中に響くのだった。
○▲▽▲○
これが、今から何年前のことだったかは憶えていない。
昼食を食べてすぐあとの授業。いつもならボクの意識はとっくに夢の中にあるはずなのに、その日だけは違った。
朝にコーヒーをキメて来てたから。
特段授業が面白かったとか、いつもの先生が休んで代わりに怖い先生が来たとかなんて理由はない。たまたまカフェインに脳みそをやられて、覚醒していただけ。
「国として認められるにはな、国家の三要素を満たしておく必要がある。それはだな、主権、国民、領土の三つだ」
担任の先生の授業だったから、現代文だったはず……。あれ、やっぱ現代社会だったかもしれない。でもまあ、同じ「現代」ってついてるし、どっちでもいっか。
「先生! その三要素を満たしさえしてれば国として認められるの? ですか!」
ボクは勢いよく席を立つと同時に、椅子を倒しながら質問した。
「おおっ! いつも一番後ろの席で寝てるだけの癖に、たまにはいい質問をするじゃないか!」
こんな感じで、担任の先生は親しみやすくてすごく良い人だったよ。名前は忘れたけど……ごめんね。
学校でいつもぼっちだったボクのことを、卒業するまで気にかけてくれていた。
別にぼっちを嘆いたことはなかったけど、いやむしろ修行の時間が取れて万々歳だったけど、ときどきラーメン屋さんに連れて行ってもらったのはいい思い出だ。もちろん彼女の奢りで。その代わり愚痴をいろいろと聞かされたけどね。
いやーー懐かしい。独身であることをいつも嘆いている人だったけど、今頃結婚して幸せに暮らしてるかな?
んまあ、そうであることを願っておくよ。一応ね。
「レグルス、さっきから何遠くを見てるの?」
「しっ、セレナちゃん。レグルス君はそういう年頃なんですよ」
「……っ! そ、そういうことなのね。男性に顕著に見られるあれ、ね。私のお兄様も……」
なせか諭すように言うディーナに、申し訳なさそうにするセレナリカ。もう愛称のセレナでいっか。
ボクはまだあれを患う時期じゃないって。ただただ昔のことを思い出し懐かしんでただけだっつうの!
「こほん」
特に意味はないけど咳払いをしておく。別に何かを誤魔化してるわけじゃない。
「ここで諸君に聞きたい。どうやったら国ができるでしょーか」
ボクの唐突の質問に、二人は首を傾げながらも「うーん」と考えて、言った。
「……王がいたら?」
「……民がいたら、でしょうか?」
ふむふむ。主権みたいのと国民ね。二人ともいい線いってるじゃん。さすがボクの幼馴染!
「そうそう。それとあとね、領土があったらだよ」
「えっ! それだけなの?」
「たったその三つですか?」
「初めて知った」と呟きながら、二人は周りを見渡した。
「領土はこの森……ということですよね?」
「でも、民は……明らかにいないわね」
辺りは薄暗い森の中。いつの間にか三人は森の深いところまで来ていた。
そう。だから。
「ということで、大変残念ながら民は――」
ご都合主義の極みで、ボクがとてもとても恐縮なことを言おうとしたら、
突然セレナが「ん?」といっと様子で目を細め、遠くをジッと眺め始めた。釣られて、ボクとディーナも彼女の目線を追うように同じ方向に目を向けた。
「……ねえ、二人とも。あそこにいるのは女の子じゃない?」
「本当に……。何やら逃げてる感じですね……」
うん確信。やっぱり神様はいるものだね!
民役となるべく人が湧いて出てきた。しかも二人。
「うーんと……………なんか二人とも首輪をつけてるね。奴隷なのかな?」
身体強化で目を極め、ボクはじっくりと観察した。
と、よく見たら二人とも傷だらけじゃん。ローブのせいで見えづらいけど……。
命からがらに逃げ出して来たといった感じかな?
「お前たち、何としてもその二人を捕えるんだ! 取り逃がしたら命がないと思え! こいつらはあの方に献上される代物だ」
……いや。今も命からがらに逃げている最中だった。
二人の後ろを追う騎士が一人、二人、三人、四人……………発散。もうわかんないや。
とにもかくにも、民役が湧いて出てきたぞ!
これは神様からのプレゼントだ。しかと受け止めないと。
あっ、騎士はいらないから消えてもらう。
「それじゃ。セレナ、ディーナ。最初の民をお迎えしに行こっか!」
ボクはニコリと微笑みながら二人に言った。
すると二人はこくりと頷きながら、セレナは剣を抜き、ディーナは魔法を放つ準備をした。
二人とも美人な顔と可愛い顔してすごい好戦的だからね。そりゃ燃えるよね。
ボクはというと……
「愚か者たちよ。貴様らの罪は地獄の神が審判するであろう」
もちろんやる気満々。ついでに圧倒的強者の空気感を出しておいた。
なにせ、ボクらは今宵新たに建てられる国の三柱神なんだからね。
そこに生きる人々を守るのがボクらの役目さ!
だからまずはキミたち二人の命を救おう。
そして、
平等を享受することを約束しよう。
キミたちに首輪なんて必要ないんだよ。
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