2 9歳


 ショタの神と会った俺は依頼されて異世界に転生した。

 普通の赤子として意気揚々と授乳プレイを楽しんでいた俺であるが、数年が経って言語を覚え周囲の状況を把握することができた。

 ショタ神は約束を守ったようで、俺はシュワ王国の第二王子のヴィンとして生を受けた。小国であるが歴とした王族である。

 第一王子じゃないのは残念だが、それなりに権力は持てるだろうしなんとかなるだろう。と、楽観視していたが、数年経つと俺の状況の危うさに気づいてビクビクする日常を過ごしていた。

 その状況の根は母が平民だったことだ。


 王が平民であった母を一目惚れに近い形で見初めたことがきっかけだ。古今東西あらゆる美女を見て手籠にしてきた王をして母は目を見張るほどの絶世の美女だった。

 父(王)が遠征中に見かけると、その後権力で後宮に無理やり連れ帰ったらしい。

 シンデレラストーリーにも思えるが実際にはただの平民が妾になるというのは軋轢を産むものであり、後宮では陰湿ないじめもあったようだ。

 針の筵のような状況で数年過ごすもついに母は俺を懐妊した。

 その歳は十三歳。王が当時五十代であったことを考えるとロリコンの誹りを受けて当然なのだが、この世界は魔物という脅威があり命が軽く、婚姻年齢が低いため然程おかしくないのだとか。

 母については産まれて即乳母に預けられたことと、父に首っ丈で俺に構うことがほぼないのであまり印象はない。覚えているのはというと……正妻の嫌がらせを受けて癇癪を起こしている様子だな。

 母は俺の世話も侍女に任せっきりではっきり言って育児放棄なのだが、この世界では育児より王の要求に応える方が優先度が高い。産んだ直後からまた王に抱かれるのを再開したようだ。

 母が身籠った時も父は足繁く様子を見に通ったようで、多分この様子だと俺を身籠っている時にもなんらかのプレイを楽しんでいそうである。俺が五体満足で生まれたことを感謝するべきかもしれない。

 そんな感じのため偶に会うことはあるが素っ気ないものである。


 平民である母がこれまでいじめは受けても毒や排斥されなかったのは王の権力が大きいからだ。

 この国は君主制であるため王の権力も大きく、愛妾である母に手を出すと王が激怒するため顔色を窺っているのだろう。

 それに王は筋骨隆々かつ赤い獅子のような髭に鬣のような髪で獣のような外見だ。見た目だけでなく武力も相当のものであり、これまで何度も前線に出て敵を討ち取ってきたという。怒らせると暴れ出しかねない恐ろしさがある。

 王が前線に出るなんて普通なら考えられないがここは異世界で魔法があるので中々死なないのだろう。


 まあでもそろそろ歳だし、王位を譲る可能性もある。そのせいで正妻が謀略を張り巡らせている。


 現在王の寵愛を一身に受けているのは平民出である母で、その美貌がいかに端麗であるか分かる。

 そんな母から俺が産まれたわけで、ショタ神の言う通りきっとイケメンに育つのだろう。


 平民が王族を産むとなれば色々問題もあるわけで、母が俺を産んだことで悪かった状況がさらに悪くなった。というのも、母が平民出のせいで庇護者がいなかったのだ。強いて言えば王がそうだが、妾を贔屓していることに負い目があるようで頼りないと言わざるをえない。


 母は王に気に入られているとはいえ、俺はそうではない。面会を申し込めば会うことはできるがその程度だ。母のようにアポ無しで訪れることも許されず、態々母のように会いに来てくれることもない。

 となれば俺をどうこうしても王の怒りを買わないように見えるわけで、結果俺は正妻から命を狙われる状況のだった。


 毒も既に経験済みだ。二度ほど死にかけた。

 もし一度目の毒でやばいと感じて抵抗力をつけるために毒を少量ずつ服毒して耐性をつけていなかったら二度目で死んでいただろう。

 毒で抵抗力をつけるなんて漫画の世界だが、仕掛けているのが正妻な以上表立って非難することもできないし、取れる手段が限られていた。

 一応食器は銀なんだがそれすら越えてくる毒を仕掛けられてはどうしようもない。

 毒味役も付けられていない。貴族の侍女にとって平民の食べる皿を毒味するなんて恥とでも考えているのだろう。


 毒を呑めば数日は寝込むわけで、お陰で病弱王子なんて思われている。実際にはショタ神から貰ったチートのお陰で超元気なんだけどな。

 その隙に正妻は王には相応しくない身体の弱さなんて情報操作しているようだ。

 訴えても揉み消されるし、王に話しても信じて貰えない。王にとっては後宮はハーレム御殿だろうからその中でドロドロの権力闘争があるなんて戯言に感じているのだろう。

 結局父は妻同士仲良くしなさいとその一点張りだ。


 いや立場が違いすぎて仲良くできるわけないだろ! 


 正妻のいじめが陰湿で表に出ていないため実情を知らないのもあるだろうが、もうちょっと手綱を握っていて欲しいものである。


 ショタ神もさぁ。確かに転生先が王族で間違いないけどなぁ……

 なんで力のない平民出の第二貴族にしたんだ。そこらの奴隷の子として産まれるよりは良かったんだろうが、どうせなら第一王子にしてくれたら良かったのに。このまま何もできずに死んで虫に転生したら後悔してもしきれない。


 才能はあるようなので転生して以来魔法の練習は欠かしていないが、正妻の暗躍のせいで俺には真面な教育が受けられていない。

 蔵書庫でこの世界の常識を勝手に学んでいる状態だ。

 対して第一王子は正妻に溺愛されて帝王学を学んでいるそうだ。やる気を出させるために第一王子の要求で美人の魔法の教師と剣術の教師を呼んだらしい。

 なんだこの差は。


 魔法に関しては、蔵書庫でいいのを探すか、第二王子でもお近づきになりたい貴族を使って魔法書を集めるのをせいぜいだ。まあ俺みたいな奴に媚び売ってくるのなんて木端貴族しかいないが。目の利く奴は大体第一王子に行ってしまっている。

 更に第一王子はこの国に存在する三大貴族と呼ばれる公爵家の三分の二を後ろ盾にしている。そいつらからしても第一王子が即位してもらわないと困るわけで、俺がますます肩身の狭い思いをしているのは言うまでもない。

 ちなみに残りの一人は第三王子と呼ばれる腹違いの俺の弟を支援している。その貴族家の子なんだとか。

 ……平民王子なんてお呼びじゃないんだろう。


 剣は王族の嗜みとか言って一応教師はいるが、ゴリマッチョでサディストだ。いつも剣術の時間になると俺を痣がつくまで嬲ってくる。才能はあるようなので教育とは名ばかりの拷問でもなんだかんだ剣の腕が上がっている。それ以上に受け身の技術が上がっているが。

 傷は侍女に回復魔法で治してもらっているが、精神的苦痛は拭えない。

 第二王子である俺が剣の教師について泣き寝入りしているのは、奴が正妻の手のものだからだ。少しでも俺が不平を言えば、どこまでも捏造して父の耳に入れるだろう。


 うん、なんというべきか。

 想像してたのと違いすぎる! 


 働かず酒池肉林で美女の尻を並べてパコパコすることを期待していたのに、実情はと言えば正妻の顔色を窺う日々だ。

 どうにかして脱出の糸口を掴まないとなぁ……

 なんて魔法の勉強をしながら過ごしている内に。


 9歳になった。

 さらに精通した。


 俺のいる場所は『泡の宮』と呼ばれ、母も住んでいる。

 豪奢な中世風の宮殿で、実際には王のための鳥籠である。王が『泡の宮』に足を運ぶ理由は大体母目的だ。

 住んでいる場所は王の妾である母が住むとあって、男の姿はほとんどない。男は俺みたいな王の子や、剣の教師のような者だけだ。


 女体天国だー! 


 なんて期待は今は全くない。

 平民出な時点で周囲からは見下されているし、正妻の刺客もいるだろうから手を出せるはずがない。

 それに周りにいるのは皆貴族の二女三女が奉公に出されたものだ。こんな気位の高い奴らが俺みたいな平民の血の引く奴に抱かれたいと思うはずがない。

 影で奴らが『泡の宮』に配属されることを外れ扱いしているのも知っているしな。


 対して第一王子は抱きまくってるらしい。貴族も喜んで抱かれにいっているようだ。

 第一王子の高貴なる血統に抱かれるとなれば拒否するはずもない

 第一王子は2歳年上であり最近精通したばかりとあって猿のように盛りまくっている。

 近くを通りかかった時嬌声が聞こえたことも一度二度ではない。防音の魔法なんてものもあるのだが、それを忘れるほど熱中しているようだ。

 子供を無作為に産んだら内乱の原因になるが、この世界には避妊魔法というものがあるため遠慮なくヤリまくっているのだろう。


 それと比べて俺はと言えば右手が恋人である。ショタ神のお陰で絶倫なのだが、女を愉しませるはずのそれはまだ使われたこともない。

 一応親身になってくれる母代わりの侍女はいるが、唯一の味方に手を出すというのも気が引ける。

 王族という利点が欠点になっているのが現状だった。


 このように色々不便はあるが、結局全てあの邪神が悪い。

 あいつが俺を第一王子にさえ転生させていれば、俺は今頃マジチン無双していただろう。あいつなんて目じゃない快楽を与えていたはずだ。

 というのも今の俺の棒は9歳であるのにも関わらず通常状態10cm、勃起状態18cmという暴れん坊だ。太さも指で抱えきれないほどある。

 体は子供でも一部は大人。それもさらに成長の余地を残している。残念なのが当分活用できなさそうなことだが。


 そんな感じの状況でやることが制限されているので、今日も魔法書を読もうと部屋へ向かっていると、第一王子のパウルに遭遇した。

 パウルは父に全く似ておらず色白で細身だが顔は整っており軽薄そうな印象を受ける。母似の金髪で父のような荒々しい印象は一つもない。

 服装は装飾が多く豪華で正妻に溺愛されている事が一目でわかる。

 侍女を侍らしており、俺を目に入れると近づいてきた。


「ようヴィン。元気そうだな」

「はい、お陰様で」


 パウルは侍女の腰に腕を回してニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべていた。

 というか、その侍女見覚えあると思ったら『泡の宮』に仕える侍女の一人だ。

 以前俺の陰口聞いた覚えがあるので記憶に残っていた。


「お前んとこのワーラってやつを借りるが構わねえよな?」


 ワーラという名前のようだ。

 奉公に出されているとあって可愛いためパウルのお眼鏡にかなったようだ。


「彼女がそれを望んだのなら私に止める権利はありません」


 止めるどころか興味もない。

 パウルはこれみよがしに胸を揉みながら、


「くくっ、自分のとこの女を奪われても無関心とは情けない男だぜ」

「……」


 反論して面倒なことにするつもりはない。

 パウルが悦に浸り晒う。


「ワーラもお前に抱かれるくらいなら俺に処女を奪って欲しいってよ。くはは、みっともねえなぁ」


 ワーラは「申し訳ございませんヴィン様」と言うが、その目は侮蔑に染まっていた。

 まあそういう価値観ということで、ワーラに思うところはない。

 そのまま無言でいるとパウルは興味を無くしたようだ。


「お前は顔はいいから女に産まれてきたら可愛がってやったのにな。男に生まれたことを後悔しな」


 と言って、パウルが去っていくのを見つめる。


 状況を好転させるためにも、権力を持つにはパウルをどうにかする必要がある。

 パウルは正妻の影響を大きく受けて育ったため、俺のことを見下しておりパウルが即位することになれば監禁、もしくは処刑されたとて不思議ではない。これでも俺の継承権は第二位なのだ。


 転生する時には上手い話だと思ったが。

 酒池肉林どころか権力闘争に巻き込まれることになってしまった。

 ショタ神の嘲笑する姿が見えるようだ。


 それにショタ神の依頼についても全く進んでいない。

 というか寝取る女って誰だよ状態だ。貴族の女と言っていたので貴族であることは確かだが、貴族なんていくらでもいる。

 チート持ちのはずなのにこの腫れ物扱いの現状からして、相手が恋愛対象として見てくれてくれるかさえ怪しい。

 最悪吊り橋効果を狙おうと思ってはいるが、俺にそんな状況を生み出す権力はない。あるとしたら第二王子という名前だけだ。

 こんな下手すれば殺されかねない状況を挽回する必要がある。

 失敗すれば虫に転生させられるだろう。それは嫌だ。


 なんとかする必要がある。

 そのためにも今出来ることを。と、俺は魔法書を保管している場所へと足を進めたのだった。



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