(邪)神に気に入られた……
@applemax
準備編
1 神の依頼
気づいたら真っ白で何もない空間にいた。
目の前にはショタがいる。キトンを身に纏って片膝を立てているショタだ。
「やあ」
「はぁ」
声をかけてきた。誰だこいつ。
「僕は神だよ。君を殺した神さ」
「はあ!?」
とんでもないことを聞いて思わず飛び上がる。
「死んだ? 俺が?」
「うん」
「ま、ま、待ってくれ。証拠は? 証拠はないのか?」
「信じてももらう必要はないけど、強いて言うならこの状況かな」
確かに何もない空間にいるというのはおかしい。それにショタの服装も普通ではない。
「なんで殺したんだ!?」
「君にお願いがあってね」
俺の動揺なんてどこ吹く風とショタは言う。
「君を異世界に転生させる」
「は!?」
思わず目を見つめるが、そこには一点の曇りもなかった。
異世界転生? 確かにアニメで熱いが、そのブームに神様が乗ろうとでも考えたのか。
「いやそれは全く関係ない」
「……あの、心読んでますよね」
「まあ神だからね」
心を読まれていることでショタが神ということの説得力が増す。
というかこれは現実なのだろうか。夢の可能性はないのか。
「さて、君を転生させる目的なんだけど」
「……それって確定事項なのか」
「このまま死にたいっていうなら止めはしないけど」
「殺しておいてその言い草か」
「それは置いといて」
混乱している俺の無視してショタが本題を切り出した。
「君にはある女を寝取って欲しい」
「寝取る? 魔王を倒して欲しいとかじゃなくて?」
「うん。魔王はいるけど、無視してもいいよ」
「無視していいのか……」
「人類が滅びようが僕にはどうでもいいからね」
……神だとしても、この神は邪神に違いない。
唖然としたが、このショタが神という超常の存在としたら人類なんてその程度の生き物なのかもしれない。
「なんでそんなことをさせるんですか?」
神だと実感を持ったからか思わず敬語になる。
寝取ることが異世界に何か影響を及ぼすように思えないが、この神(邪神)に利益でもあるのだろうか。
「恋愛小説が嫌いなんだよね」と、ショタは話し始めた。
「例えば庶民と貴族の恋愛物語なんかが嫌いでさ。庶民は玉の輿だから貴族に惹かれるのも分かるっちゃ分かるんだけど、貴族が庶民に惹かれるのは全くもって納得いかないんだよ。貴族なんだから庶民が好きなら自分の領民でも手を出しときゃいいんだよ。なのに真実の愛とかさあ、滑稽だよね滑稽。
特にさ、異世界恋愛ものの庶民の主人公が貴族学校に行ったら高貴な女たちから好意を向けられるやつが苛々するんだよね。ヒロインの女たちも一途で、公爵クラスの貴公子から好意を向けられても絶対に靡かないんだよね。
いやそれおかしいでしょ? 玉の輿だよ? 実際金やら立場やらなんでも持っている男が好意を向けられたら、普通揺らぐでしょ。だって人間本能だけじゃなくて理性もあるんだから。なんで迷う余地なく主人公を選ぶのよ。
異世界で朴念仁の普通の男の子に美少女が惚れて何やかんや……みたいな感じの話もよくあるけどさぁ。どうしてもそういう展開が出たら冷めた目で見ちゃうんだよね。いつも貴族が噛ませ犬にされてヒロインが追い打ちかけてるけど、お前貴族の一員になるチャンス逃したんだからな。お前の理性はストーリーの奴隷かっての」
「はぁ」
愚痴、だろうか。
どこか早口になったショタの言葉に生返事を返すことしかできない。
予想以上にくだらない理由だった。
というか、そんなに気に食わないなら小説に手を出さなければ良いのでは。ショタの性格が向いていないだけなのでは。
なんて思ったが口に出す勇気はなかった。
「ふー、君の言うことも一理ある。結局物語なんて、作者の都合でしか動かない。だけど、僕のストレスが限界を迎えた」
口には出さなかったが、心を読まれているため意味なかったようだ。
「ということで今回の依頼だ。君にはある女を寝取ってもらう。これは決定事項だ」
それでさっきの話に繋がると。
話はわかったが、異世界のことも寝取る女のことも何も知らないからなんとも言えない。
そもそも異世界人がタコみたいなやつらだったら断固拒否させてもらうが。
「君には異世界で王族として最高の才能と肉体と頭脳を持った最高のイケメンとして転生してもらうから。それで、その世界には前世で悲恋して転生してきた庶民の男と貴族の娘がいるから、女の方を寝取って欲しいんだよね。お互いのためなら死ねるくらい愛し合っているこいつらなんだけどさ、まあ見ててムカつくから」
性格歪んでるな。こんなのが神だとは世も末……いえ、なんでもないです。
つまりはロミオとジュリエットみたいな感じのオチにして欲しいのか。
実際に実行するとして、王族でチート付きという好条件ならなんとでもなりそうだな、
「あっ、注意だけどさ、権力を背景に脅すのはなしね。心から男を捨てさせて君を選ぶようにすること。初夜にち○ぽ比べさせるのとか最高だよね。君は最高の肉体持ちだから普通の数百倍は快楽を与えさせられるよ。でも快楽落ちはダメだよ。本能じゃなくて理性で君を選ぶところを見たいからね」
なんだその拘り。
数百倍の快楽とか廃人になるのでは。と思ったが、そこは「いい感じに調整しとく」とのこと。
いい感じってどんな感じだよ、と思わず考える。
「まあ中毒にはならないようにしてあげるし、後に引かないようにもしとくよ」
至れり尽くせりのようだ。王族に転生するわけだし女には困らないわけで、精通したら女体天国人生が待っているかもしれない。
これほどハイスペック盛り盛りにするということは、それだけ依頼が難しいと言うことなのだろうか。
そういえば権力を背景に脅すのが無しというのもよく分からない。わざと女を攫わせて助けるみたいなマッチポンプはどうなんだ。
「それはいいよ。僕がお願いしたいのは選択権を奪うような、君を選ばざるを得なくなる状況に落とし込むことを禁止してるだけだからね。例を挙げるなら……家族を人質にとって『婚姻しなければお前の家の血を絶やす』、みたいな感じかな」
なるほど、大体セーフラインは理解した。
ショタが考える俺に向かって言う。
「受けてくれたら次の生を超イージーモードにしてあげるよ。具体的には地球なら世界一の金持ちの御曹司として最高の才能持って転生させてあげる」
「それは美味しい話ですね」
赤子からやり直すのは面倒だが、才能を伸ばす猶予期間が与えられたとも考えられる。
上手くいけば二度の人生を富裕に過ごすことができる。
「断って死んだらどうなりますか?」
「輪廻の輪に帰ることになるね。いや、君には虫に転生してもらおうかな。その方がやる気になってもらえそうだ。失敗しても同じで」
勝手に殺しておいて言うこと聞かなければ虫に転生させると。今思いついた感じなのもまた酷い。
結局選択肢なんてないようなものだ。脅しと何も変わらないが……新しい人生を楽しめるということは魅力的だ。その最中に寝取られる男がいるようだが、他人と自分のどちらを優先するかなんて分かりきったことだ。
まあこのショタは邪神の類のため約束が守られる保証はないが、それでも次の生が王族かつ最高の才能持ちというのは惹かれるものがある。
「決めました、引き受けます。でも、なんで俺なんですか?」
俺の疑問にショタは奇妙なことを聞いたかのように瞼を瞬かせると、
「だって君、寝取りスキー大佐じゃん」
と、俺のtwiterの裏垢を述べたのだった。
俺にそういった性癖があるのは否定しないが……口振り的にしょうもない理由で選ばれたようだ。
「じゃ、いってらっしゃーい。楽しみに見てるよ〜」
「え、ちょ、待っ」
待て待て待て! ターゲットのこと何も聞いてないんだが、俺は誰を寝取ればいいんだよ。
だが抗えず、手を振るショタを見ながら、俺の意識は闇に沈んだ。
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