第34話 本当の彼
前回会った時、家族みんなで話し合ったと言っていたな。何度か高校時代に見たことがある。二人の両親はとても有能な人だ。父親は経営者をしていて、母親は大学の教師をしているんだっけ。そんな両親を持つこと自体がプレッシャーになると思った。
イメージとしては両親共に優しくて、東宮くんのやりたいことを尊重するような人だったように思う。よくそんなことを話しているのを聞いた覚えがある。私が東宮くんと直接話すことはほとんど無かった。
周りの声がよく聞こえたから、盗み聞きをしていたのだ。他の人が話しているのを外野から聞くのが趣味みたいなものだった。
クラスメイト達が羨ましがっている様子がいつもの光景だったように思う。今となっては本当か分からないな。東宮くんも色々辛い思いをしているみたいだし……人というのは外からはよく見えないものだ。
心の奥で思っていることなんて分からないのかもしれない。
東宮くんは影彦くんのことを話し終えると、東宮くんは神妙な面持ちになった。どうしたのか尋ねると、もう一つ話があるらしい。
勇気がいることだからと、少し待って欲しいと言われる。よく分からないが、待つしかない。何を話せばいいか分からなくて、無言の時間が続いた。沈黙を破ったのは、またもや東宮くんだった。
オネエ様が好きだということに気付いていたのだ。まさか……どうして? いつから? そんなに分かりやすいのかな、私。オネエ様も私の気持ちを知っているのだろうか。知られたくない。隠しているつもりだった。
「はは、バレちゃったか……いつから気付いてたの?」
「カフェで初めて話した時。大事な人がいるって言ってたろ? あん時の川瀬、まじで幸せそうに話してたぞ」
「そっか……そうなんだ」
「想い伝えねぇの?」
「そんなの無理だよ……叶わない恋なの。関係が壊れちゃうなら今のままでいい」
「まあ確かに……そうかもな。でも、気持ちに蓋をすんのは辛いだろ?」
「辛いけど、オネエ様が傍に居ないほうが耐えられない」
「一緒に暮らしてんだもんな……そりゃあ言えねえか。俺さ」
東宮くんは足を止めて私を真っ直ぐ見た。この目は、もしかして……ああ、そうか。なんで……私なの。熱を帯びたその目には、私が映っていた。
耳まで赤くなった彼に胸が締め付けられる。これから何を言うのか、わかるのだ。止めることはしない。私の勘違いだろうか。そうであって欲しい。すぐ横に綺麗な川があって、もし私が目の前の貴方を好きなら……素晴らしいシュチュエーションだ。恋愛映画なら視聴者が喜ぶだろう。
なんて……ここは現実だ。彼の目を見るのが辛くなって、視線を落とす。東宮くんは私の手を引き、彼の胸におさまる。一瞬何が起きたのかわからなかった。
「好きだ」と心の底から搾り取るように囁かれる。この言葉はいつでも私を苦しめる。素敵なはずなのに、それはまるで呪いのようだ。私は抱きしめ返すことができなかった。
それをすれば、その想いを受け入れたことになると思ったからだ。
「こんなことをしてごめん。これが最後だから……最後にするから少しだけ……川瀬だけが俺の中身をちゃんと見てくれた。学生の頃も、同窓会で会った時も哀しそうに笑ってたのに、いつの間にか輝いてて……俺のことを必要としてないのはわかってる。
でも、伝えたかった。もう会わねぇから……困らせて悪かった。隠せばいいものを……俺は弱えんだ。お前のこと応援してるから。
川瀬はすげぇよ。影彦のことは心配すんな。報告の連絡はするから……それだけにしよう。じゃ、幸せになれよ」
東宮くんは一方的に話して去っていった。東宮くんだけの温かさを残して消えていった。私は何も言えなかった。なにを言ったらいいのかわからなかった。東宮くんはそれをわかっていたのだろう。
去る直前に苦しそうに笑ったあの顔が脳裏に焼き付いた。私を見ているようだった。叶わない恋……自分からしたいとは思わない。それなのに、心は正直でどうすることもできない。なんで私を好きになるかなぁ……なんでもっと他の人は中身を見ないのかな。
人気者でかっこいいからという理由だけで、好きになるのだろうか。完璧な人はいない。それが人間なのだ。なぜ気付かないのか。なんとも勿体ないと思う。
彼の中身を見た唯一の人が私だという事実が。オネエ様じゃなくて、東宮くんを好きになれなかった私も。
「ねえ」といつの間にか人が近付いてきていた。全然気づかなかった。誰だっけ……見たことある女性だ。「川瀬さんだよね」と言われて周りを見ると、後ろにも女性が二人いた。私を囲んでいる。
「そうですが何か?」と聞くと、「誰だかわかんないか。人に興味ないんだもんね」と吐き捨てるように言った。なぜ怒っているのかよくわからない。
話を聞くと、どうやら高校時代の同級生らしい。東宮くんのことが好きだという。他の二人は何なのだろうか。今の告白を見ていたそうだ。もう……こういうのは懲り懲りなんだけどなあ。さっさと帰りたい。
告白されたのが私で、さらに東宮くんを振ったのが許せないらしい。振ってないんだけどな。東宮くんは好きだという気持ちを伝えたかっただけだったから。
私なんかを彼が好きになってしまったのは、私しか彼の中身を知ろうとしなかったからだと、目の前の女性に言った。すると「あんたに何がわかんの?!」と激怒し始める。私は何も思わなかった。
どうでもいい。好きなら正面から向き合って、ぶつかればいいじゃないか。想いを伝えればいい。振られても諦めなければいい。諦めるなら新しい恋をして、忘れれば……いいじゃん。
私はもう一人しか愛せないのに。これからも他の人を好きになれそうにない。この気持ちを何処にぶつければ良いかも分からない。そっちこそ私の気持ちも考えず、他人に当たらないで欲しい。
「あんたなんかが晴斗と釣り合うわけない。前にも二人で会ってるとこ見たんだから……なのに振ったのは何で? そんな気がないのに何度も二人きりで会うわけ? 男を弄んで優越感を感じてんでしょ。あんたなんか……私は……私だって努力してんだよ!!!!」
「好きなら……好きなら、私に構ってる暇ないんじゃない? 伝えなよ! もっと知ろうと努力して、辛いことは分け合えばいいじゃん……私は……他に好きな人がいるの!! でも伝えられないの! 貴方は伝えられるでしょ……ほっといてよぉぉ!」
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