第29話 性別

「帷が女の子連れてくるなんて初めてだよぉ〜。ビックリしちゃった。大親友って言ってたけど……実際どうなの? 帷のこと好きでしょっ」


「っ……ゴホッ……ち、ち、違いますよ! そんな訳ないじゃないですか。私なんかがそんな……不釣り合いですよ」


「焦っちゃって。もっと自信持ちなよ。そんなんじゃずっと友達のままだよ? 人生は案外短いんだからさ〜。好きなら好きでいいじゃん。勝手にそうなっちゃうんだもん……どうしようもないよ」


「ももさんは……恋してきましたか? あ、いや、なんていうか……気になって。良ければ教えて欲しいなーなんて……嫌ならいいんです!」


「やじゃないよ。そうだなぁ……色んな人とお付き合いしたよ。身体が男の子の時は女装してたかなぁ〜。それでも身体は男だし、ほとんどゲイの人と恋愛してた。


 ノンケ……っていう女の子が好きな男の子ともしたことある。でもやっぱりゲイはゲイと付き合うのがいいよ。この身体になってからは、関係なくノンケの人とも恋してるけどね。


 下の方は手術して女の子みたいに棒はないしちゃんと……ってごめん汚い話して。とにかく……今は女の子として第二の人生を楽しんでるって感じかなぁ〜。


 色んな意見を言ってくる人もいるけど、どうでもいいの! 他人にどう思われるかなんて関係ないもん。どうせ他人は他人だし、自分にしか興味無いから。沙蘭ちゃんが自分自身をどう思うかが一番大事なんだよっ」


「ももさんも凄いなぁ。かっこいいです。私もそうなりたいけど……なかなか難しくて」


「そりゃあずっとそんな考えしてたら難しいよ。ウチもそうだったし。それでいいじゃん。ゆっくりでいいの。好きな人のことを好きでいる自分を許してあげてねっ」


 心が海のように広い人だな。この人も。なぜ好きなのがバレてしまったのか分からないけれど、ゆっくり私を許していこうと思う。


 性別を変えるなんて、簡単なことではない。とても勇気がいるし、お金と体力も奪われる。手術は日本で受けられないし、タイへ行って性転換するのが一般的だ。手術をしてからもホルモン注射を一生打たなければいけないらしい。


 女性ホルモンを打つと、精神状態が不安定になりやすい。急に辛くなって自殺するなんてこともあるのだから。それを乗り越えた彼女は勇者だと思う。大袈裟かもしれないけれど、私にとってはそう。並大抵の努力では不可能なことを成し遂げた。


 自分の思う性別じゃないというのが、それだけ苦しいことなのだろう。自分の身体を見る度に辛くなったと彼女は教えてくれた。ある映画を思い出した。


『リリーのすべて』という映画だ。女性になることを夢見る男性のお話で、結末はとても悲しかった。感情移入してしまって、大泣きした覚えがある。親と見れば楽しめないと思ったから、一人で見たんだよね。あの作品は一生忘れられない。儚くもあり、美しい物語だと思う。


 千九百二十六年のデンマークが舞台で、実話を基にしたフィクションだ。今のように発展した世界ではないし、差別も酷かった時代。過去があって今があるのだ。認知されてきたのは今まで戦ってきた人たちのお陰なのかもしれない。それでもまだまだ批判する人はいて、SNSでもチラホラ見かける。


 なんとも悲しい世界だと思う。認めるとか認めないとか、他人がどうこう言う話ではないはずなのに。人のことを言う前に自分自身を見つめ直した方がいい。よっぽどその人も余裕が無いのかもしれない。辛い人生を送っているせいで自由に生きる人が羨ましくて、憎いのかも。だからってなんでも言って良い訳じゃないのに。温かい世の中に早くなって欲しい。一生ならないのかもしれないけれど。



 ももさんと話している途中でオネエ様が帰ってきて、他のオネエ様たちとも話すことが出来た。皆自分のセクシャリティを受け入れるまでに、辛い思いをしてきたと明かしてくれた。オネエ様の過去について聞いたことないな。今の流れなら聞ける気がする。


「オネエ様は学生の頃どう過ごしてましたか?」


「そうね〜昔はこんなにホゲてなかったわよ。男もいけるってこと隠してたし、皆に合わせて生きてたわぁ〜。メイクするのも隠れてしていたの。最初は母親のメイク道具をこっそり使っていたわ。同じ場所に戻して気付かれないように必死だったわねぇ〜懐かしいっ!」


 オネエ様にもそんな時代があったんだ。想像もできないや。私にとってオネエ様はずっと輝いている人だから。いつか卒業アルバムとか写真とか……見せてくれたらいいな。今日一日過ごしたことで、もっとオネエ様を知ることができた。


 まだまだ知らないことばかりだろうし、これからゆっくり知っていきたいな。オネエ様が辛いことも、私が半分こできたらいいな。私たちはバーで朝まで過ごし、オネエ様の運転で家に帰る。


 楽しかったか聞かれて、楽しかったしオネエ様のことを知れて嬉しいと答えた。Webデザイナーってどういうことをするのかも気になると言ってみる。


 今日昼ご飯のあとに見せてくれると約束してくれた。かなり疲れた……オールなんて初めて。ここでも親に反抗したような気分になった。反抗期なんて来なかったけれど、今来たのかな。こんなに気分が高揚するものなんだ。今まで我慢してきたのが、爆発するような感じ。最近は出来なかったことや夢見ていたこと、初めての経験ばかりで楽しくて仕方がない。


 挑戦するって幸せホルモンが出るんだなあ。よく分からないけれど。家に帰って交代でお風呂に入り、倒れるように眠りについた。流石に寝すぎると夜眠れないから、二時間程度でおさめようと思う。アラームを設定したから大丈夫なはず。



 ピピピピ……と目覚ましの音が鳴り始めた。ちょうど二時間か。オネエ様はまだ寝ているみたいだ。起こさないでおこう。まだ朝だし。お腹減ったな。何かないかな……と思って冷蔵庫を開けてみる。納豆があった。ご飯にかけて食べようかな。いつもはパンだけど、今日はそんな気分だ。納豆って不思議なのが、毎日食べても飽きないんだよね。何でだろう。


 パンは上に乗せるか塗るものを変えれば味も変わる。でもこれはいつも同じ味。美味しくて健康的だなんて、一石二鳥だ。ぼーっとした頭でテレビを見ながらご飯を食べる。いつも見るのはニュースばかり。


 ほとんど見ないのだから、せめて社会の情勢を知っておかないと。世間知らずだと思われたくないし。スマホは好きな情報だけを見ることが出来る。これはいいことでもあるけれど、悪いことでもあると思う。


 昔ガラケーが出来て喜んでいたことを思い出す。今では『歩きスマホ』や『スマホ首』なんて言葉がよく言われるようになった。あれから十数年とか、そのくらいだよね。


 技術の進歩がなんだか恐ろしく感じてしまう。持っているのが当たり前になって、手放すことが出来なくなってしまったことも。アキラオネエ様の動画に追いついてしまい、私はショート動画をひたすら見るようになった。


 不思議と時間があっという間に過ぎていく。結局見終わってから何も覚えていない。やはりこれは良くないのではないかと感じてきた。漫画でも読もうかな。無料で読めるアプリは何個もある。自分好みの漫画が多いアプリを探してみよう。一日一話くらいしか読めないけれど、お金を払わなくていいのは助かる。面白い漫画が多いな。これじゃあ読んでいるうちに作品が混同してごちゃ混ぜになってしまう。


 お金を払って読むべきなんじゃないか、と言うほどのクオリティだ。漫画家さんはちゃんと稼げているのか心配だが、お金を払う気はない。その代わりに……意味があるか分からないけれど、ハートを押したりコメントを書いていく。色々読み漁っていると、オネエ様が起きたようだ。

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