第23話 年越し

 二人でケーキを食べながら、初詣の話になった。人混みが苦手なので、日をずらして行くことに。オネエ様と山に登って日の出を見に行く。


 神社に行ってお参りしたり、おみくじを引くとかではない。


 そんなことをして意味があるのかわからないから。神に頼んで幸せになれるなら、みんなそうなってるじゃん。信じないからなれないの? そんなハズない。幸せとは案外日常に溢れているんだって、気付いた人がなれるの。


 自分が歩み寄らないと見えてこないものなのだから。登る山は『高尾山』だ。東京の八王子市にある山で、富士山が見えるし三百六十度の景色が見える。比較的登るのはそこまでしんどくないらしく、二時間程度で山頂へ辿り着けるらしい。楽しみだな。



「最近親からはどう?」


「連絡は通知オフにして、電話は着信拒否しました。返したい時に返すだけだから楽です。どうせ帰ってくることになるって未だに思ってるみたいですけど……本当に平和で最高です! あれから会いに来なくなりましたし」


「それならよかったわ。たまにはアタシにも構ってよぉ?」


「ふふ、勿論。全部オネエ様のお陰です。本当にありがとうございます」


「そんなことないわよ。行動したのは沙蘭ちゃんなんだから」


 親から年越しくらいは帰りなさいとメッセージが来ている。他にすることがないのかと思う程に、今でも頻繁に。そろそろ諦めて欲しい。どうせほとんど読まないのに、呆れたものだ。


 そろそろ物件を見に行かないとなあ。引越し先はどの辺にするか相談できたし、良さそうなのも見つけた。あとは見に行って決めるだけだ。明日不動産屋さんに電話して予定を組もう。


 初めての引越しにワクワクする。思ったよりスムーズに事が進んで、意外と簡単なのかも……なんて思ってしまう。決めるだけで終わりじゃないもんね。私の希望で二月に引っ越す予定だ。


 もっと早くてもよかったのだが、もう少しここに居たい。



 そういえばオネエ様は愛奈ちゃんの事を『あの女』とか『アンタ』って呼ぶことが多い。私の事は、名前で呼んでくれる。それだけで特別感があって嬉しい。


『オネエ様』と呼ぶのも、私だけがいい。最初は名前で呼ぶのが特別だと思っていたし、帷さんって呼びたかった。けど……今はこの呼び方がそう思えるようになった。オネエ様はきっと名前で呼ばれることが多いだろうから。愛奈ちゃんも帷って言っていたし。


 私だけがいいの。欲張りだけど許して欲しい。珍しくお酒を飲んだ私は、そのままソファで眠ってしまった。弱いお酒を飲んだのに。


 目が覚めるといつの間にかベッドの上に居て、もしかしてオネエ様が運んでくれたのかもしれない。私をお姫様抱っこして……? ああもう、折角の思い出が寝ている間に……仕方ない。眠っていなければ、こんなことにはならなかったのだから。今度眠っている振りでもしようかと思ったが、やめた。何を欲張ってそんなことを……こんな自分が嫌になる。





 時は十二月三十一日になり、テレビは特番だらけ。あの毎年見ていたお笑い番組が終わってしまったから、特に見るものは無い。オネエ様も同じだということで、サブスクで映画を見ることになった。


 SFやサスペンス、スリラーが好きな私は、非現実を味わいたい派だ。オネエ様はコメディやドキュメンタリー、恋愛モノが好き。


 二人とも違ったジャンルをよく見るけれど、基本なんでも見る。今回は『グリーンブック』という、オネエ様オススメの洋画を見るのだ。今年の最後に見るのは明るい話じゃないとね。ジャンルはコメディらしい。ずっと気になっていたけれど、見る機会がなかったから丁度良かった。


 有名な作品だし、きっといい作品に違いない。そして……クリスマス以来の爆食デーだ。実家を出てから好きなだけ食べているが、流石に太り過ぎてはいけないし、甘い物はたまに食べる程度におさめている。


 こういう日だけ好きに食べるの。その方が有難みが増すというものだ。冬だけどアイスを食べたり、高めのお菓子を食べるのが最高に幸せ。


 年を越したらカップ麺の蕎麦で祝う予定だ。手頃な感じがまたいいのだ。映画はかなり面白かった。人種差別がテーマで、昔の差別はとても痛々しかった。その中で二人が打ち解け合っていくのは、面白おかしく時に切ない。本当によく表現出来ていると思った。心がポカポカ温かくなる話だった。


 実話を元にした作品らしい。見終わったあとに、口コミや作品について調べるのも楽しみの一つだ。気付けば二十四時までもう十数分になっていた。お湯をポットで沸かし始める。一分前になって、二人でカウントダウンを始めた。


「三、二、一、明けましておめでとぉ〜!!」


「明けましておめでとうございます!! これからもよろしくお願いします」


「こちらこそ、今年も楽しみましょうねっ!」


 二人で拍手をして、いそいそとカップ麺にお湯を注いでいく。深夜に食べる体に悪い物は格別に美味しい。実家にいたら絶対にできないことだ。少し太ったから、私を見れば驚くだろう。


 見違える程でも無いだろうけど、あんなに私の体型を気にしていた母だから。僅かな違いでも発狂モノだ。お蕎麦を食べ終わってダラダラ過ごして眠りにつく。




 朝目が覚めて、今年初めての日を浴びる。そういえば親から年越しにも来ないなんてと連絡が鬼のように来ていたっけ。朝から憂鬱なことを思い出してしまった。。押しかけてこないよね? 家までは知らないはずだし。


 あれから不動産屋さんと連絡を取り、予定を組むことができている。来週見に行く予定だ。さすがに一日に一件だと勿体ないから、三件程度予定を入れた。離れると決まってから、なんだか寂しい気持ちになる。変だなあ。あれだけ引越ししたがっていたのに。自分のことがまだよく分からない。




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 お久しぶりです! 体調戻ってきたのと、新人賞に向けての執筆が落ち着いたので投稿再開します!


 この頃の私説明が多いですよね。すみません……自分の成長を見る為にも敢えてそのままにして投稿します。

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