第5話

頭を、使いすぎで銀杏の絨毯に潰れる。

横たわってみると中々、冷たくて気持ちが良い。

青い夕暮れが駅舎に掛かっていた。

このまま何かに襲われるのもいいか。

痛む胸が煩わしいから。

それが妙に救いに思えて、俺は思わず笑った。


「何、笑ってんだよーもー」


「…………え?」


掛けられるはずのない声に驚く。

奴が呆れた表情で立っていた。


「なん、で…?」


「なんでってなんだよ」


少し機嫌を悪くして、ひょいっと俺を抱き上げる。

いわゆるお姫様だっこをされた。

けれど俺は理解できず、なんでなんでと繰り返す。


「恋人を、放置したことは悪いって思ったけど」


「こい、び?」


「駅舎ん中綺麗にしたんだからなー」


「きれ…い?」


「まあつまり、俺と一緒に居たいってことだよねー。さっきの列車乗車拒否」


「いっしょ…いたい?」


「なんかじっくりじりじり攻めてた甲斐があったなーうんうん」


「せめてた…?」


「気付いてなかったの?俺が追い込んでたの。わざと冷たくしてたの」


ただただ阿呆の子みたく掻い摘んだオウム返しをしていた俺は、その言葉で何故か救われた気分になっていった。

そもそもこの密着に、温もりに、安堵していた。

頭が思考がおっつかない。

それでもなんとか、なにか別の言葉をと。


「…だまってたり、とかか…?」


「そうそれ。可愛かったからついやりすぎちゃって。今日は我慢できなくてキスしちゃったけど…あれも可愛かったしー」


そうしてこめかみにキスされる。

熱くて震え上がると、寒かったよなごめんな時間掛かっちゃってと運ばれる。


「なんで…なんで?」


どうしても俺にはそれしか言えず、奴は足で駅舎のドアを開ける。

室内は暖房がついていて暖かかった。

むしろ頬が体が熱くて汗が滲んできた。


「素直じゃないから」


「…?」


「俺のこと大好きなくせに、素直じゃないから」


その単語で、カっと全身が熱くなる。

否定しないと、否定しなきゃ。

でも言えない。

どうしても、嫌だ。

そうこうしている内に、俺は大きなソファに寝転がされる。

何すんだと見上げると、緑の目がきらりと光らせ笑う。


「ちょっと意地悪してみた、ごめんねー。明日から元通りにするから」


ああそれからと、俺のブレザーの前を開けつつ、


「今日、抱くからここで今すぐに」


覆い被さられる。

俺は呆然と力なく傍観してしまう。

整理しきれない。

好きってなんで、ばれて?否、好きなんかじゃ。

訂正しないと。

でないと。

だって。

なんで。

嫌だ。

またまたそうこうしているうちにシャツのボタンを外される。

体が熱っぽいのとか、汗を掻いてるとかバレたくない。

そう思うとますます頭が熱くなる。


「好きなんかじゃないって思ってるだろ?じゃあ嫌なら逃げなよ。今ならまだ選ばせたげるから」


耳たぶをしゃぶられ、耳の穴に吹き込むようにして、早く嫌って言えよと脅される。

それすら俺には甘く気持ち良く下半身に刺激的で。

できるわけがない。

そんなこと。

したくない。

嫌だ。

したい。

俺は躊躇い、目線を泳がせ、唾を飲み込み、


「俺のこと、すき?」


意を決して、今までずっと自分から聞けなかったことを求めた。

何度も言われてた。

その口で。

形の良い唇で。

甘くささやくように、軽くフレンドリーに。

何度も幾度も言われた。

いつしか当たり前で。

ここ最近は言われてなくて。

どうしてなのか。

どうでもいいことだと。

でも言って。

言って欲しいと。

なんでどうして俺のこと。

やめろやめろと。

自分を自分でなじって黙れと。

でもと。

確かめたら。

求めたら。

終わりだと。

でも。

嫌だ。

こんなのは嫌だ。

違う。

なのにこの口はもう言ってしまった。

だから答えを待つ刹那。

泣きそうになる。


「好きだよ?好きじゃなきゃ、んな面倒くさい意地悪しない」


真剣な真摯な答えで、泣くのを堪えた俺の口が素直に。


「…お、俺も…」


蚊の鳴く声よりも小さな語尾になってしまったが、軽いキスを落とされる。


「…知ってたよ…ね、それより早く嫌っていいなよ」


初めて見る獣のような表情をされ一瞬怯えて、でも突っぱねる変わりに弱々しく背中に手を回す。

想像よりずっと大きくて、俺より熱かった。


「あー…我慢した我慢した…もう、泣いてもやめたげないから」


乱暴に服を脱がされ裸にされ撫で回され舐め回され。

目の前がちかちかするような部位を弄ばれ。

嫌だと啼いても許してもらえず。

体の中に抱き込まれるように、真っ白に激しく快楽に溺れさせられ気絶させられた。

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