第4話

汽笛が鳴る。


列車がホームに滑り込み、まもなく発車しますもなくいななき走り出す。

そういう音がする。

見ていられるはずがないから。

目を瞑り自分で作った暗闇の中想像する。


窓側に座ったはずだ。

窓側が好きだから。

きっと俺は目障りだから、そっぽを向いた形で座ったはずだ。


景色を眺めやがて人が乗り合わせ、もしかしたら口直しに綺麗な青年でもナンパするだろう。

白磁の肌の妖怪かもしれない。

どの道ひとりになったあいつの隣の席と向かいはすぐに埋まるだろう。

誰かしら俺の知らない美しいなにかと語らい体を重ねるぐらいするだろう。

なにせくだらない遊び相手に苛つかせられたのだから。

捨ててきた玩具のことなどすぐ忘れるさ。

そういう奴だ。

最低な奴だ。

昨晩は楽しかった、また君に抱かれたいと、俺の目の前で白馬の王子様が、すげえ美形の男が奴にそう言った。

なのにあんた誰だっけと、切り捨てた。

湖から手をふる人魚を無視し俺に、今度海見に行こうよ笑いかけた。

そういう奴だ。

だから俺も王子様と人魚と同じになるだけで。


俺とはもう二度と口も聞かないだろう。

だって元々、俺から話しかけたことなんてただの一度もなかったのだから。

口べたな俺に出来るわけない。

おしゃべり上手のあいつから、全部あいつからだった。

遊び相手なのだから。図にのるわけにはいかないと。


好きになんて。

んなわけねぇだろ。

ふざけんな俺。


あんな奴どうでもいい。

興味なんかない。

スポーツが好きで、球技観戦が特に好きで、ハンドボールが好きで。

散歩が好きで甘党で、生クリームが好物なんてどうでもいい。

両親が事故で亡くなってるなんて興味がない。

一人暮らしの家が何処にあってどんな生活ぶりなのかなんて、心配したことなんてない。

嫌だ。

もう嫌だ。


かたつむりになりたい。

なめくじになりたい。

あめふらしになりたい。

何も考えなくて済む、あいつの嫌いな生き物になりたい。

泣きたくない。

砂漠になりたい沼になりたい。

あいつの苦手な場所になりたい。

何か別のものに生まれ変わって、あいつと出会わないものになりたい。


分かってた予兆はあった。

冷たくなったと思う。

前よりずっとうんと話さないのがその証拠だった。

どこか行こうと誘われなくなった。

昼飯も一緒じゃなくなった。

いつ捨てようかと思っていたに違いない。

それが今日だっただけのこと。

傷ついてなんかない、俺は好きでもなんでもないのだから。


興味がない。

あんな奴。

知らない。

映画鑑賞が趣味なんで知らない。

好きなんかじゃない。

好きなんて言葉は嘘に決まっている。

遊びに決まってる。

嘘だった。

悔しくない悲しくない好きなんかじゃない。

好きじゃない。

胸なんか痛くない。

涙が涸れ果てるなんてなんの冗談だ。

意味わかんねえよ。

考えたくない。

好きじゃない。

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