天空へ

鈴乱

第1話


 青い空を眺める。


 雲がひとつ、ふたつ、風に吹かれて静かに流れていく。


 見ようとしなければ、決して見えない、小さな小さな変化がそこにある。


『あなたも、どこかにいらっしゃるのですか?』


 もう遥か昔、あちらへと漕ぎ出していったあの人を思い出す。


 珍しく、昔の夢でも見たからだろうか。


 私と、あの人の住む世界は、あの時分かたれた。


 もう、言葉を交わすことも、笑顔を交わすことも、叶わない。


 だけど……。


 なんとなく、感じるのだ。


 空から、時に、すぐそばから、あの人の気配を感じる。


 あの人の、心配そうな顔を感じる。


 

 他人ひとは、そんな感覚は、偽物だと言う。


 でも、私は――。


 私は、私の感じるこの感覚を、信じたいと思う。


 私が受け取ったものを、感じ取ったものを、本当だと信じたい。



『あぁ、大丈夫ですよ。私は、大丈夫です。そんなに心配そうな顔をしないで』


 通じると信じて、心で話す。


『私は、どうにも諦めが悪いですから。私の願いをすべて叶えるまで、そちらには、参りません』


 私は、私の運命さえ、見通している。


 私の未来、世界の未来、ある程度は、見通せている。


 それが例え、私をひどく傷つけるものだとしても、それでも私はくじけたりしない。


 それこそ、私がこの世界に生を受けた意味。


 私は私を生ききって、絶望から栄光へ。


 最底辺から、最高の舞台へ。


 そうやって変えるために生まれてきたのだ。



 あなたの元に宿った私は、ただの人間ではなかったのですよ。母上。


 決して諦めない、執念深く、欲深く、純粋に願って行動し続ける、そういう魂を持った、特殊な人間だったのです。


 幼い頃には、苦労をかけましたね。


 それでも、私を諦めずに育ててくださったあなたには感謝しています。


 私は、いつでもあなたがたの役に立とうとして生きてきたのです。


 それはいつからか拡大して、家族に留まらず、友人へ、恋人へ、世界へ……と変わって参りましたが。


 元の性質など変わりはしないのです。


 私は、いつまでたっても私なのですよ。

 

 何があろうと、私は、決して諦めない。


 私が諦めては、私という人間が廃りますのでね。

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天空へ 鈴乱 @sorazome

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