流すモノ拾うモノ

一花カナウ・ただふみ

流すモノ拾うモノ

「ボトルメールって知ってる?」


 知らないわけではないから僕は素直に頷く。彼女は無邪気に笑った。


「じゃあ私たちもやってみよう!」

「なんでだよ」

「面白そうじゃん」

「一歩間違えばゴミの不法投棄だろ」

「ゴミじゃないよ、手紙だよ」


 彼女は膨れた。僕はあきれた気持ちを込めて大きく息をついた。


「ボトルメールってのはな、僕のイメージだと遺書みたいなものなんだよ。交流目的で流す場合が多いのは知ってるけどさ、船乗りが沈没寸前の船の中で認めて放流するイメージなわけ。気軽にするもんじゃないんだよ」


 僕が説明すると、彼女は目を輝かせて「それもロマンだねえ」と笑った。


「まあ、それはそれとしてやろう」


 ぐっと親指を立てられた。マジか。


「しつこいな。一人でやればいいだろ」

「二人でやらないと意味がないんだよ」


 どういう意味だ?

 僕は首を傾げる。


「ゴミを増やしたくないっていう君の意見は尊重しよう。瓶は一本だけにする」

「最初から一本しかなかったんじゃなくて?」


 無粋な指摘でからかうと、彼女は咳払いをした。はなから一本しかないんじゃん。


「それを、六年後に拾いに行く」

「んんん?」


 話が見えない。


「潮の流れを計算しておいたの。どのくらいしたらどの辺に届くのか、わかるんだよ」

「正確じゃないだろ」

「正確かどうか、一緒に調べようよ」

「六年後、だろ?」

「約束」

「うーん……覚えていたらな」


 しつこさに根負けして、僕はボトルメールを作ることにした。

 手紙は二通。瓶に入れて封じて。


「なにを書いたんだ?」

「内緒だよ。あー、全部は教えられないけど、拾ったら取りに行くから預かっておいてって書いておいた」

「そうか」

「そっちは何書いた?」

「一応の連絡先。メアドをさ。あと、SNSにはアップすんなって書いておいた」

「あ、それ書くの忘れた……」

「どこに届く予定なんだ?」

「国内だよ。運が悪いと外に行っちゃうけど」

「注意書き、英語にしておいた」

「賢いねえ」


 彼女はケラケラ笑う。


「じゃあ、行ってらっしゃい!」


 埠頭の先、彼女は瓶をぶん投げた。綺麗な放物線を描いて波間に消える。

 六年後、ボトルメールを拾えるかはわからない。だけど、隣で笑う彼女を見ていたら、約束通りに待ち合わせをして探しに行くだろう未来が見えた。


《終わり》

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流すモノ拾うモノ 一花カナウ・ただふみ @tadafumi

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