6.この黒******

とにかくもう着替えたくて、新は応報の手を取りアパートに向かった。


「新」


「何?」


のろい足取りの応報を引っ張るように歩く新。

前のめりになりながら、目的地まで急ぐ。


「新はそんなに臭くなかったぞ」


急ぎたいのに、応報の発言で足を止めてしまう。


「臭い、俺は今、臭いんだよ」


抱き合って応報の匂いの心地よさに、自分の体臭の異常に気付いてしまったのだ。

これが臭くないのなら、良い匂いだと言われたいのだ。

アパートが見えた。

電気は、付いてない。

新は顔を明るくさせ、


「とにかく、俺着替え持ってくるから」


階段の下に応報を待機させ、ドアに鍵を差し込んだ。


「新ちゃんおかえりー」


差し込んだ瞬間裸の男が飛び出す。

よろめき受け止めると、それはままだった。


「暗いのに、居たのかよ」


「いちゃ悪いのか、新くん」


奥からはぱぱの声もする。

これは謎の秘書汐留さんもいるのではないか。

新は警戒しながら部屋に入った。

ままに抱きつかれながら。

これが自分の現実だと、思い知る。


「ぱぱ嫉妬しちゃうなーそれ」


「心籠もってないけど」


言い返しに棘があるのは、早く着替えを持って部屋を出て行きたいからだ。

何も言われなくない。

さっさと応報の元に戻りたい。

新はままを振り解き、押入から私服を漁り鞄に詰め込んだ。


「お仕事さぼって、何処行くの?」


「…」


「新くん?」


新は、まったく答えない。

やりとりして変わったことが一度でもあっただろうか。


「…新、浮浪者には構うな」


弾かれたように目を向けた。

獣のような目つきなる。

ぱぱが少し驚いて、それでも三日月をたたえて。


「自分のことだけ、考えて」


自分の、こと?


「お仕事してなさい」


お前は言うことを聞いていれば良いんだ。

親でもなんでもないくせに。

犯罪で犯罪に拘束させているくせに。

自分のことを、考えろとぱぱは言った。

始めて聞いた。

新はふらりと向き直り、


「俺は俺のことを考えて、…俺はもうやんない」


いつもの啖呵とは別の、


「俺は、あんたの言うことはもう聞けない」


決別を碇屋青梅に告げた。

踵を返す。

もう振り返らない。

振り返れない。

神を選んだ。

悪に染まった子供を選んでくれた応報を。

だから、もう。

もう、決めた。

ままが呆然としていたけれど。

もう、決めた。

理由が、見つかったのだから。

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