5.あの黒**

「新くん、おかえり」


「わぁっおかえり新ちゃん」


思考を煮詰ませながらドアを開け、偽の朝に遭遇してしまった。

マンションではなく事務所だったか。

当てが外れ内心舌打ちを零す。

一気に表情が死ぬ。

当然だ。

笑顔なんて見せたくもない。

新は朝食を並べるふたりを無視して、ロッカーを開けた。予備のシャツとセーターと私服が引っかかっている。


「そういえば、あれ知ってるか?」


ぱぱがままに試すように語りかける。


「あれって?」


私服に着替えようとジーパンに手を伸ばし、


「なんでも腐敗させる浮浪者」


ぱぱの言葉に指先が凍り付いた。

暖かい室内にも関わらず、末端から体温が消えていく。


「新くん」


矛先が、あっという間に自分に変わる。

顔を見なくても分かる。

三日月が凶悪に微笑んでいる、間違いなく。


「新くんは、…お前は頭が良いんだから分かっているよな」


背後で親のようなきついお灸を添える。

本人はそのつもりなのかもしれないが。

新には今までにないくらいの、脅し文句に聞こえた。

ままをこれ以上壊されるのは嫌だった。

でもそれ以上に、あの黒に手を出されるのは。

新は着替えもせず事務所を飛び出そうとした。


「新」


重量のある呼びかけに反応すれば、新しいカードを投げられた。


「さ、今日もたくさん、お薬売っておいで」


綺麗なお月様が、笑うから。

新は拒絶する理由すら探さす逃げ出した。

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