5.あの黒*

着替えたい。

飯が食いたい。

泥に浸かっていたような眠りから、新は覚めた。

漫画気喫茶で夜を明かし椅子で寝るのには慣れたが、やはり布団で横になりたかった。

空腹で目が覚めたのか、自分の異臭で目が覚めたのか。

どちらでも良かった。

アゴを掻いて、コンビニにでも行こうと。

椅子から降りると目眩がした。

みそ汁が飲みたい。

炊きたてのご飯が食べたい。

けれど飲食店にひとりで入る気にはなれない。

ひとりが浮き彫りになるのは避けたい。

罪が浮き彫りになるのは、しんどい。

そもそも、日常がうとましい。


いい加減着替えたくなった新は、近くにある事務所に寄ることにした。明日あたりは学校にだって行きたい。

くだらないことで気を、紛らわしたかった。

そもそも昨夜のあれは、なんだったのか。

抱き合っていたのに、邪魔されて。

突き飛ばされて、上着は崩壊。

あれは、一体どうしてそういう流れになったのか。

考えたいのに、脳が停止を繰り返す。

ぐつぐつ、ぐらぐらする。

自分は優しくされる。

追いかけてもらえる。

庇ってもらえる。

特別なのに、なぜ、腐ったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る