8.そうして、黒*

そして、終幕はあっけなく。

ぱぱは逮捕された。

けれどそれはぱぱのひとつの決断だった。


「応報、おはよ」


「おはよう、新」


キッチンでフライパンを握りしめながら、応報が振り返る。

新は制服に着替えていたが、応報は寝間着の浴衣のままだった。


『動きやすいんだぞ』


とは言うが、危うい感じが新には否めなかった。

テーブルに座ると、新聞を広げていた男が端から顔を覗かせた。


「新くん、ぱぱには?」


「なにが」


「ぱぱにもおはようって言ってよー」


「三日ぶりおはよ」


「嫌な子」


「新は良い子だぞ」


応報の突っ込みに、新は思わず吹き出した。

ぱぱは罰が悪そうに顔をしかめる。

いつかの影を作らないように。


「新ちゃんおはよう」


「おはよう」


スリッパをぱたぱたさせ、黄色の可愛いトレーナーに短パンのままが小走りに横切る。

洗濯物を抱えていた。

今から干していくつもりらしい。

「まま手伝う?」


ぱぱがままを目で追い、


「大丈夫ー」


ベランダに出ながら答えが返ってくる。

否応なく日常が過ぎていく。

夢見ていたような理想だった。

目の目に用意されていた牛乳に口を付けると、妙に甘い。


「新くんはがんがん伸びて俺みたいな男前になって欲しいな」


「新はりかままさんのように可愛くなってほしいぞ」


またもや応報の登場に邪魔をされたぱぱ。

なにか言いたげに朝食を配膳する応報を見るが、言葉が出ないようだった。

この男、いまやこの家の中で一番立場が弱い。


「りかままさん、ごはんだぞ」


ままが遠くで返事をする。


「今日は新の好きなチャーハンをお弁当に入れたからな」


応報が新の隣に腰を下ろし、誰に合わせることもなくままが座るのを、待ち続けた。

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