かおりとにおいと君の本音

狐照

かおりとにおいと君の本音

耐えがたい臭いってのは多々ある。

色々、臭いのは、我慢出来ないよな。

自分がそうだから人もそうだと思い込んでしまって、俺は一時期自分の臭い対策に凝ってしまった事がある。

必要以上に香水をつけたり、制汗剤や柔軟剤を使用しまくった。

自分では良い匂いに包まれて、体臭対策バッチリと思っていた。

だけどある日同僚に、


「それスメハラになってっけど、止めたら?」


と言われた。

言われた瞬間こいつは本当に上から目線でモノ言いやがる嫌な奴だ、と思った。

なんでもハッキリ言う奴だったので、俺は苦手だったのだ。

そして今回も嫌な事言う奴だ、と俺の努力をバカにしやがって、と苛立った。


それから「今日もくっせ、香水飲んでんの?」「歩いた後俺でも追えるくらい臭いよ、今日」「耳鼻科行ったら?」と、毎日毎日、臭い臭い臭い。


俺はもちろん軽やかにスルーしていた。

お前にだけ不快なんだろーって、スルーしてた。


ある日寝坊した俺は、最低限の身支度で出勤した。

香水も制汗剤も無し。

最悪な事に柔軟剤を切らしていたのでシャツも洗剤の香りのみ。

しかも汗だく。

臭いに、違いない。

誰とも会いたくない。

デスクの制汗剤を身体に吹きかけたい。

そう思っていたら、嫌な同僚とバッタリ遭遇してしまったのだ。

絶対臭いと言うに違いない、身構えた俺に、


「あ、今日は良い匂いじゃん。何つけてんの?」


ハッキリとそう言われて、一瞬意味が分からなかった。


「汗だくじゃん、シャツ貸そうか?はい、タオル」


戸惑いながらも渡されたタオルで汗を拭くと良い匂いがした。

すごく、好みの匂いだ。


「なあこれ、どこの柔軟剤使ってるんだ?」


「え、ふつーの洗剤だけだけど…?それよりほらシャツ。風邪引く」


押し付けられたシャツも同じく良い匂い。


「洗剤は、こんな匂いしないだろ」


「じゃあ俺の匂いかも、臭かった?」


嗅ぎ直しても、良い匂いだった。

こんな甘い優しい匂い、ずっと嗅いでいたい。


「俺はお前の今日の匂い好きだぜ」


ハッキリ言ってしまうのを、こいつは長所と捉えている。

人によっては傷付けるが、概ねこいつの評判は良い。

嘘が無いから。


「今日、何もつけてないんだ」


「何もつけてない方がいいじゃん、すげー良い匂い、好き」


俺の不安を拭い去る様に、明確に体臭を嗅いでからそんな事を言われたら、胸のドキドキが治まらなくなった。


それが切っ掛けで俺達は付き合う事になった。

元から俺の事が気になっていたそうで、匂いケア暴走しているのをどうしても止めたかったんだそうだ。

嫌われてもいいから止めようとしてくれた事に、今は感謝しかない。

本当に、今振り返ってもやり過ぎたケアだった。

止めて貰えて本当に良かった。


隣でスマホで動画を観てる頬を突く。

さっき外出してからずっとモヤモヤしているので、ハッキリ言って頂きたい。


「んーなーにー」


「…あのさぁ聞いていいか?」


「…うん?」


二人掛けのソファにダラぁっと座っていたのを止め、きちんと俺に向き直ってくれる。

どんな話でも向き合って聞いてくれるトコが、好き。

両手を軽く繋げてくれるのも、好き。

目を見つめてくれるの、ホント好き。


「俺、腋臭、じゃないよな…?」


自分では気付かない体臭。

とってもきっつい体臭。

その代表格。

腋臭。


買い物中にすれ違ったカップルから漂って、マジかって思ったのだ。

どっちかがそうだとして恋人は言ってはくれないものなのか?

流石に腋臭だよとはあいつでも言いにくいのか?

滅茶苦茶臭い匂いを嗅がされた俺は混乱した。

そしてモヤモヤが。

腋臭の匂いと共に頭の中に溜まってしまったのだ。


不安だ。

でもハッキリ言って欲しい。


「俺は腋臭?」


「お前は変わらず良い匂いしかしない」


繋いだ手に力を込めたら優しく微笑んでくれた。


「腋、見せて」


「え?」


「はい、ばんざーい」


「え、あ、ちょ…」


手早くシャツを脱がされてしまった。

しかも右腕を掴まれ腋が晒されてしまう。

何をするつもりなのか、どういう答えを貰えるのか、分からないで居ると、


「ァ…やだ…ァ…」


腋を唇で食まれてしまった。

あむあむ、されている。

舌で舐められゾクゾクしてしまった。


「…やば…腋責め…いいかも…」


再び俺を見つめた瞳には獣性が宿っていて、抵抗する事なんて出来なかった。

悶える俺にそうそうと、ぼそり呟かれる。


「…甘くていつも通り良い匂いしかしないから…一杯汗掻こうな」

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